ウクライナ疑惑をめぐるトランプ大統領の弾劾裁判で米議会上院は6日、無罪評決を下した。米国の分断を露わにした4カ月に及ぶトランプ大統領対民主党の戦いが幕を下ろすこととなった。

今回の弾劾裁判でダメージを受けたのはトランプ大統領ではなさそうだ。

ほぼ無罪評決が確定していた4日、調査会社ギャラップ社はトランプ大統領の支持率が自己最高となる49%に到達したと発表。支持しない人が50%に上り極めて党派色の強い調査結果であるにもかかわらず、弾劾裁判でかけられた「権力の濫用」と「議会妨害」という2つの罪に共感した人は少なかったようだ。

また比較的中立な新聞であるウォール・ストリート・ジャーナルとNBCの共同調査でも、「トランプ大統領に任期を終えることを許すべきだ」と回答した米国人は49%。排除されべきと答えた46%を上回った。

民主党にとって逆風?

トランプ大統領の弾劾裁判は、むしろ民主党にとって逆風となる可能性がある。

アイオワ州の党員集会で最悪のスタートを切った民主党だが、トランプ大統領の弁護団が主張するように弾劾に値する証拠がないまま見切り発車をしたことで批判をされる可能性があるのだ。

そもそもトランプ大統領は、民主党の大統領候補争いをするバイデン氏に打撃を与えるため、米議会が承認した支援をちらつかせながらウクライナのゼレンスキー大統領に電話をかけてバイデン氏を調査をするように依頼した疑惑がかけられていた。

昨年12月、民主党のナンシー・ペロシ下院議長が率いる米議会下院は上記2つの罪でトランプ大統領に有罪を下した。しかし、2月6日に共和党が多数を占める米議会上院は、それぞれ52対48、53対47で無罪と判決。有罪確定に必要だった議会3分の2からは程遠い結果となった。

「権力の乱用」条項で唯一「有罪」と認めた共和党議員は、かつての大統領候補のミッド・ロムニー氏だった。

一体、なぜ有罪にならなかったのか?

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、確かにトランプ大統領の行動に問題があるが「弾劾裁判にかけられるような内容ではなかった」という声が出ている。トランプ大統領の首を取るがために民主党が事態を過剰に演出して拙速に動いたという意見だ。

さらに民主党にはトランプ大統領の弾劾裁判がブーメランとなって戻ってくる可能性もある。まさにトランプ大統領の狙い通り、ウクライナとの関係をめぐりバイデン氏に利益相反の疑いをかける声がくすぶっているのだ。

ジョー・バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏は、2014年4月にウクライナ最大級の天然ガス企業のブリスマ・ホールディングスの取締役に就任し、2019年の初頭まで務めた。就任当時、ロシアがウクライナの領土クリミアを併合したことが問題となっており、当時バイデン氏はオバマ政権の副大統領だった。オバマ政権が焦点をあてていたのは、ウクライナからの汚職撲滅。そんな中で息子がウクライナの有力企業の取締役に就任したことで、「利益相反」を疑う声が出ているのだ。

現在のところバイデン氏やバイデン氏の息子が法律違反をしたという証拠は出ていない。

ただ、「たとえ法律を破っていないとしても利益相反にあたる。オバマ政権のウクライナ関連政策における重要人物の息子がいきなりウクライナ最大のガス供給民間業社の取締役として雇われるなんて大ごとだ」とみる専門家もいる

また、米国のジャーナリストであるピーター・シュワイザー氏は、状況証拠的にバイデン一家とウクライナの関係は怪しいと疑っている。

「タイミングははっきりしている。2014年2月、プーチンがクリミアで動きウクライナは危機を迎えた。2014年3月、ジョーはウクライナ政策で重要人物だった。3週間以内に、ウクライナ人は『そうだ。ハンター・バイデンが適任だ。専門家だ。だからこの会社に迎えよう。そして彼に年間100万ドル(約1億900万円)払う必要がある』と突然決めた。これを見てどう思うだろうか」

ジョウ・バイデン氏は民主党の大統領候補の本命だ。今後、トランプ大統領の弾劾裁判がブーメランとなって自らの不正が疑われる結果になる可能性もある。その時、「いつもはトランプ大統領の『倫理面』を厳しく追及しているのに…」とその偽善者ぶりに失望を隠せない有権者も出てくるだろう。そもそも、それが3年前、トランプ大統領が誕生した理由であるのだ。

トランプ大統領に無罪評決が出た直後、共和党はジョー・バイデン氏が副大統領だった時の息子ハンター・バイデン氏の旅行情報を出すように要求した。

トランプ大統領は、無罪判決を受けて日本時間7日午前2時に声明を出すと発表した。