2022年はトシムリン氏のイメージ通りの展開となったというビットコイン。今年はどのような動きを予測しているのだろうか。久しぶりに今後のビットコインの相場展望について寄稿した。

これまでの振り返り

前回の記事(2022年9月15日投稿)では結論として以下の予測を記載した。

「あくまでイメージだが今後の展開としてはFRBによるギリギリの努力が続けられ、米株もビットコインも安値を割れてはショートカバーで戻して再び下落するような展開が起こって、ボトム感が醸成されていくシナリオを想定しており、そうこうしている間にリスクオフイベント(突発的な地政学的リスクや金融危機)に巻き込まれて、下落相場の終焉を迎えるのではないかと考えている。」

また、ブログ読者限定で2023年1月5日に公開した動画では、筆者の2021年年末~2022年の予測の振り返りと共に今年の大まかな予測として、「うまく上昇できたとしても3万ドル台が限界」だと予測した。

その後、ビットコインは安値を割れてはショートカバーで戻して再び下落するような展開が繰り返されて、ボトム感が醸成され、FTX破綻というリスクオフイベントが発生して大幅下落し、下落相場の終焉を迎えた。

そして、今年に入ってからは3万ドル台まで戻しているため、予測通りだと言える(図1参照)。

しかし、下落トレンドは既に終了したと言えるのだろうか。

後述する要因を考慮すると筆者はまだダウンサイドリスクを意識せざるをえない。

(図1 これまでの予測とその後の動向の振り返り)

様々な潜在的リスクが潜む世界経済

足元ではインフレ抑制を目的とした米国の急速な利上げの影響をうけて、SVBやシグネチャー銀行が経営破綻した。さらには、G−SIBs(グローバルでシステム上重要な銀行)としての位置づけにあるCS(クレディ・スイス)までもが破綻危機に追い込まれる展開となったことから信用不安が発生。これにより預金引き出しが増加しており、その退避先としてMMF(マネー・マネジメント・ファンド)やゴールド、ビットコインへと資金が流れている。

FRBは3月19日にドルスワップ協定を通じた流動性供給で欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(英中央銀行)、スイス中銀、カナダ中銀、日銀と協調すると発表し,銀行の連鎖的破綻を防ぐために金融機関の監督・規制方針を見直すと発表した。

このような迅速な対応により、安堵感が広がり、リスクアセット(米株やビットコインなど)は堅調に推移している。

世間ではアメリカの景気後退を巡って、ノーランディング、ソフトランディング、ハードランディングなど様々な意見が飛び交っている。

3月12日に公表されたFOMC議事要旨では年内に緩やかなリセッションに入る可能性が示唆されている一方で、ホワイトハウスは「米経済にリセッションが迫っている兆しを示すデータはないと」と反論しており、当局ですら先行きの見えない状況となっている。

筆者が2022年の夏頃の記事で問題視していたインフレ(特に労働と住宅市場)に関しては上述したFRBが金融機関の監督・規制を行うとなれば貸出態度が硬化することは間違いない。そうなれば、自ずと景気は冷え込む方向に動く可能性が高いため、積極的な利上げを行う必要もなくなるだろう。

しかし、FRBのウォラー理事は4月14日、根強い高インフレを鈍化させるために一段の金融引き締めが必要との考えを示している。

もし、これ以上の追加利上げを行うのであれば、それは来年の大統領選挙を控えた政治圧力によるものであり、年内にFRBの掲げているインフレ目標2%へと限りなく近づけてインフレ抑制成功を好材料としたいのだろう。

ホワイトハウスがリセッション入りする可能性を否定しているのは、その証左だと見ている。

FRBにとっても、これ以上の利上げは望ましくないだろうが、もし短期間で本気でインフレ目標2%へと低下させるのであれば、ウォラー理事が述べている通り、一段の金融引き締めが必要だというのは妥当な判断に見える。

足元で発表されているインフレ統計は低下傾向となっており、これらを見る限りでは、これ以上の利上げはオーバーキルとなる可能性が高いが、現在は新冷戦構造が深化している過程であるということを忘れてはいけない。

中露を軸とする権威主義的国家などは脱米ドル、脱米国債を目指し、中東諸国を巻き込んで新たな経済圏を確立しようとしている。

その対抗策として、バイデン政権は「中国はずし」を加速させる可能性が高まっており、世界は分断方向へと向かっていると言える。

安価で商品を生産できる世界の工場として大きな役割を果たしてきた中国を除外する動きを加速させるのであれば、持続的なインフレ圧力がかかり、粘着性を見せる可能性が高いと見るべきだ。

こうした状況を鑑みれば、今後さらなる追加利上げがあっても不思議ではない。

ここで問題となるのは「中国はずし」を加速させることで、インフレが粘着性を見せ、アメリカが、さらなる利上げに踏み切る必要性に迫られる点だ。

そうなれば、オーバーキルとなり、景気後退は深くなる可能性がある。

逆に利上げを行わなかったとしても、インフレが粘着性を見せた場合、最悪のシナリオとしてはスタグフレーションが発生する可能性もある。

中国も輸出が悪化すれば景気後退はますます深くなり、それが世界に波及していく可能性もある。第二次世界大戦の要因がブロック経済であったことを考慮すれば、確率は低いにせよ、この過程で米中の軍事衝突が起こる可能性も否めない。

今回の銀行破綻劇で景気後退の角度は高くなったと見るべきであり、上述したようにFRBが金融機関に対して監督・規制を行うのであれば貸出態度硬化は避けられないため、今後は資金繰りが厳しくなり、経営破綻に追い込まれる中小企業も少なくないだろう。

足元では預金保護など、当局の迅速な対応により銀行破綻劇も一旦は落ち着きを見せているが、油断は禁物だ。

特に筆者は商業用不動産セクターが危ういと見てみており、これが中小銀行に悪影響を及ぼすのではないかと警戒している。

街を歩いていると、ビルの空き物件が多くなっているのに気づくのではないだろうか。

コロナの影響で多くの企業が恒常的なリモートワークを採用したことでオフィスの縮小を行っている企業は多い。

また、実店舗を構えていたショップも店舗数を縮小して、オンライン販売に力を入れるようになった企業も増えた。

これにより、商業用不動産を所有しているオーナーは不動産収入が少なくなり、融資が焦げ付く可能性がある。そうなれば、中小銀行の経営は悪化し、破綻に追い込まれるリスクもあるだろう。

リスクはこれだけに留まらない。

直近で最もリスク要因になりやすいのは米国の「債務上限引き上げ問題」だ。

これまで幾度となく債務上限の切り上げが行われて、米国はデフォルトを回避してきたが、今回は民主党と共和党の争いが激化しているため、合意に至るかは定かではない。

債務上限の引き上げについても共和党は引き上げ合意に動いているが、バイデン大統領はこの問題を軽視し、これに関するいかなる取引も拒否している様子だ。

現在は流動性の巻き戻し過程ではあるものの、裏では緩やかな緩和が行われており、これにより市場は支えられている。

以下のグラフは米ドルの流動性とビットコイン(BTCUSD)を並べたものだが、これを見れば米ドルの流動性供給量と関係性(相関関係)が深いことは一目瞭然だ(図2参照)。

(図2 米ドル流動性とビットコインの関係)

しかし、その流動性の供給元である銀行資本残高は枯渇間近だ。

以下の図は米銀行資産残高とビットコインの関係性を見るために作成したグラフだが、米銀行資産残高はわかりやすいように反転させている。つまり、これが上昇すれば銀行資産残高は減少しているということになり、赤のゾーンに入ると枯渇寸前であることを示す。

灰色の縦線は過去に枯渇寸前になったポイントをプロットしている(図3参照)。

(図3 米銀行資産残高とビットコインの関係性)

これを見ると、過去の傾向としては米銀行資産残高が枯渇寸前になると、ビットコインには下押し圧力がかかっているのがわかる。

ビットコインが2021年末に6万ドル後半まで上昇したが、この際も資産残高は枯渇寸前となった。この時は、しばらくの間、上昇を維持したが、その後、下落に転じた。

従って、現在は枯渇寸前となっているため、債務上限の引き上げが行われない限りは流動性供給も限界に近づいているので、大きな下げに繋がるかは定かではないが、ビットコインの上値も限定的だと捉えるべきだろう。

2011年の7月頃にはねじれ議会の末に米国債が格下げとなり、ゴールドは大幅に買われる展開となったことから、今回もこれが原因でビットコインとゴールドが一気に買われる可能性もある。しかし、仮に上昇したとしても、それが一旦のトップになる可能性はあるため、追っかけて買いを行うのは危険そうだ(図4参照)。

(図4 2017年ねじれ議会により急騰したゴールド)

また、バイデン政権は「大統領経済報告」で暗号資産は有益なテクノロジーではないと主張しており、否定的な態度を示しているため、今後は厳しい規制が行われる可能性があることにも注意が必要だ。
米連邦預金保険公社(FDIC)はシグネチャー銀行の売却に関して、暗号資産事業の放棄を条件にしていたとも報道されており、売却が実施されると、実際に暗号資産関連の顧客は買収対象から除外されていた。

FATF会合でも暗号資産の規制推進で一致していることから規制も暗号資産の重石となるだろう。

上述したリスク以外にも、当然ながら春の雪解けと共に露宇戦争が再び激化するリスクも高まってくることでしょう。

とにかく、現在は上述したような様々な潜在的リスクが存在している。

過去の記事でも述べてきた通り、米株(S&P500)を規準に見るのであれば$3325~3680近辺がボトムになったと考えるのも決して間違いではないだろうが、筆者は引き続きダウンサイドリスクを警戒している。

つまり、米株やビットコインの現在の上昇は中間反騰的な動きだと捉えており、今後、上昇の大半を戻すような動きがあってもおかしくないと見ているため、ビットコインも3万ドル台よりも上を追いかけていくことに対してはまだ強気になれない。

著者 トシムリン

トレード歴16年の現役為替トレーダー。20歳の頃から専業トレーダーとなる。6年間はトレードが上手くいかず一時借金を背負ったが、研究と分析を積み重ねて独自手法を編み出し、7年目からプラス収益となり、そこからは安定的に利益を出し続けている。一般投資家が持ちえないマーケットの内部構造を多角的に分析して市場を予測していくことが得意分野。分析能力と育成能力に定評があり、トレード教育によって多くの常勝トレーダーを輩出している。

【PR】コインテレグラフのレギュラーコメンテーター「トシムリン」が運営する「仮想通貨研究所LINE」の登録はこちらから!トレードにおける情報や「ツボ」と「コツ」を手に入れよう。

トシムリン仮想通貨研究所

本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限りません。この記事には投資助言や推奨事項は含まれていません。すべての投資や取引にはリスクが伴い、読者は自分でリサーチを行って決定してください。