著者 松田康生 (まつだやすお)FXcoin シニアストラテジスト
東京大学経済学部 国際通貨体制専攻 三菱銀行(本部、バンコック支店)ドイツ銀行グループ(シンガポール、東京)を経て2018年7月より現職。 短国・レポ・為替・米国債・欧州債・MBSと幅広い金融市場に精通
今週末に福岡で日本を議長国としてG20財務相中銀総裁会議が開催される。G20は国境を跨ぐ仮想通貨市場のルール作りにおいて重要な意味を持っている。仮想通貨ETFが米国SECに認められるかが注目されているが、承認しない理由の一つとして相場操縦が挙げられている。これに対して日本は、昨年の自主規制により世界で初めて不正取引の禁止措置を導入した。更に今回の仮想通貨関連法案で法制化にまで踏み切り、世界をリードしている。しかし、こうした画期的動きも日本一国だけで規制しても効果は薄い。既に、AML/CFT(マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策)の世界では、FATF(金融活動作業部会)が世界共通のルール作りを始めている。仮想通貨交換業者が登録制になったのもFATFのガイドラインに基づいた動きだし、ウォレット業者などにも登録制が勧められる予定だ。今回のG20ではそうしたAML/CFT以外でも世界共通のルール作りを始める方針が打ち出されるかに注目している。
以下は全2回の財務相中銀総裁会議の声明文の暗号資産に関する部分の抜粋だ(出典:財務省HP)。声明文は大まかに総合評価、金融システムへの影響、AML/CFT対策の3つのパートに分かれている。
2018年3月19-20日 財務相中銀総裁会議
「我々は、暗号資産の基礎となる技術を含む技術革新が、金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性を有していることを認識する。しかしながら、暗号資産は実際、消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネー・ロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている。暗号資産は、ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある。我々は、暗号資産に適用される形でのFATF基準の実施にコミットし、FATFによるこれらの基準の見直しに期待し、FATFに対し世界的な実施の推進を要請する。我々は、国際基準設定主体がそれぞれのマンデートに従って、暗号資産及びそのリスクの監視を続け、多国間での必要な対応について評価することを要請する。」
2018年7月21-22日 財務相中銀総裁会議
「暗号資産の基礎となるものを含む技術革新は、金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る。しかしながら、暗号資産は消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネー・ロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている。暗号資産は、現時点でグローバル金融システムの安定にリスクをもたらしていないが、我々は、引き続き警戒を続ける。我々は、FSB及び基準設定主体からのアップデートを歓迎するとともに、暗号資産の潜在的なリスクを監視し、必要に応じ多国間での対応について評価するための更なる作業を期待する。我々は、FATF基準の実施に関する我々の3月のコミットメントを再確認し、2018年10月に、この基準がどのように暗号資産に適用されるか明確にすることをFATFに求める。」
総合評価では、昨年3月の声明では「金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性」としていたのを7月の声明では「金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る」と一歩(半歩)前進させている。金融包摂、すなわち銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供することで貧困撲滅に資するという点を評価している様子は10月のFSBの報告書にも表れている。アフリカにおけるBitPesaの成功やxRapidによる出稼ぎ労働者の本国送金に期待感を寄せているのだろう。この部分のコメントが更に前進すればサプライズだ。
次に金融システムへの影響だ。
昨年3月の声明では「ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある」としていたが7月の声明では「現時点でグローバル金融システムの安定にリスクをもたらしていない」とされている。実は3月の指摘を受け、世界の金融規制当局の上部組織であるFSB(金融安定理事会)で仮想通貨が金融システムに与える影響をモニターする体制を構築、半年毎に報告書を出すこととされ、その結果7月時点では市場規模が小さく問題は無いとされた訳だ。昨年10月の報告書でもリスクは小さいと判断されたが、今回5月の報告書では急速に進化するエコシステムに対処するために将来を見据えたアプローチが必要とされ、国際機関は金融システムの安定だけでなく利用者保護、市場の健全性、決済システムなどの問題に積極的に取り組んでいるが、法規制が各国バラバラで重大な規制上の非対称を招く可能性があるとされている。その上で、FSBは更なる調整が必要かも含め規制のギャップに関して議論する様にG20に提言している。
分かり易く言えば、マネロンだけでなく利用者保護や市場の健全性に関する世界共通ルールを作るべきか議論しろという訳だ。今回のG20の最大の焦点はここにあると考える。
尚、FATFに関してはもうすでに走り始めていて、昨年7月のG20の要請を受けて10月時点でウォレット提供者とICO関連サービス提供者を登録制にする方針を打ち出し、今月中にも詳細なルールを打ち出す事になっている。今のところ出てきていない様なので、首脳会議に合わせて出してくるのかもしれない。しかし首脳会議ではあまり細かい話はしないだろうし、もうすでに2月に草案は出ていているが、その際に指摘したが、国外の交換所や分散型交換所に対する取締りを強化する方針が出る可能性があるので注意が必要だろう。
以上を踏まえた今回のG20の注目点は以下の通り。これまで世界の先頭を走ってきた日本の当局が、世界のルール作りをリードしていくきっかけになるかが注目されよう。