匿名性があると思うことの危険性:ロシアのハッカーたちが使用したビットコインの追跡

 仮想通貨にはマネーロンダリングを容易にし、非合法活動の資金源となる可能性があることから、ビットコインの安全性を心配する政治家たちは、以前から仮想通貨規制の推進を主張してきた。米国司法省(DoJ)がこのほど公開した12名のロシアの情報部員に対する告訴状では、訴因の一つとして「ビットコイン等の仮想通貨を利用して」マネーロンダリングを行うことを共謀した容疑が挙げられている。このことで、ビットコイン消極派の政治家たちは、最も重要な国内干渉問題の背景にビットコインが関係していた事例の公式記録という、一つの強力な議論のツールを獲得したことになる。

 このニュースは米国における仮想通貨政策の将来にとって芳しくないものだが、唯一の救いと思われるのは、現在の政局は二極化の度合いが高くなり、党派的な力が強まっていることである。今の民主党議員たちは、トランプ政権に対してロシアによる干渉問題を追及するにあたり、ビットコイン脅威論を使う自由も使わない自由も持っているが、仮想通貨を国家の安全の脅威として全面禁止したいと望んでいる共和党員たちは、大統領と側近たちが繰り返し異議を申し立てているこの捜査が明らかにした証拠を注意深く取り扱わなければならない。

背景

 16年の大統領選挙におけるロシアの干渉問題をめぐる論争は、選挙戦が終わる前から米国の世論に常に取り上げられるようになっていた。民主党全国委員会(DNC)とヒラリー・クリントン氏のサーバーのハッキングと、その後に広く報じられた機密情報の漏洩(元ファーストレディーの候補者を攻撃するためことさらに取り上げられた)は、出来事、関係者、そして、メディアの熱狂の波が複雑に絡み合った疑惑のまさに中心にあり、いまだに広がりつつあるこの問題の他のエピソードのどれよりも頻繁に取り上げられてきた。今回の告訴状には、そのハッキングのタイムラインが極めて詳細に示されている。

 告訴状は、元FBI長官のロバート・ミュラー特別検察官が17年5月に開始した捜査の成果である。捜査の関心は16年の選挙におけるロシアの干渉疑惑に関係するすべてを対象とし、トランプ氏陣営とロシア側の間に協力と調整があったかという問題も問われている。捜査の結果、今のところ大統領自身の個人的関与の疑惑は回避されているが、複数の重要な元側近だった人物の関与が疑われている。

内容

 告訴状では、12名の被告人(全員がロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の情報部員)が11件の連保法上の違反で訴えられている。容疑は、ハッキングした書類の公表により16年の大統領選挙に介入する目的で米国に対する攻撃を共謀したこと(訴因1)、ID情報(8人の情報が盗まれ、ハッキング計画の一部に用いられた)の加重窃盗罪(訴因2~9)、マネーロンダリングを共謀したこと(訴因10)、州の組織や米国の民間会社をハッキングすることで米国に対する攻撃を共謀したこと、である。

 訴状の本文は、DNCとクリントン氏の選挙事務所のコンピューターに対するスピア・フィッシング攻撃、職員のID情報の盗難とそれを用いた電子文書の窃盗、さらに容疑者らが計画のために登録したウエブサイトDCLeaks.comを通じた文書の戦略的な公開について、それぞれの手順を一つ一つ詳しく述べている。容疑者らは「アメリカ人のハクティビスト」の集団を装ったり、後には、ルーマニア人ハッカーとされた「グシファー 2.0」なる架空の人物を作ったりして、自身とロシア政府との関係を隠蔽しようとした。最後には、GRUの情報部員らは複数の州の選挙管理委員会とソフトウエア会社のコンピューターに侵入し、投票データを入手した。

 ところで、仮想通貨コミュニティーにとって最も関心があるのは訴因10で、ここでは計画全体の背後にある資金繰りのシステムが明らかにされている。捜査官によると、ロシアの情報部員は計画をサポートするため、様々な出どころからUSドル等の様々な通貨を用いたが、「匿名性が高いと思われていた」ためビットコインを第一に使用した。デジタルマネーの主な用途は、盗んだ書類を保存するサーバーの使用料と書類を公開するドメインの使用料だった。ハッカーらは資金源の分散にも気を使い、P2P取引、分散型交換、または、自身によるマイニングを行った。訴状の作成者は「ビットコインの使用により、共謀の容疑者らは伝統的な金融機関との関係を避け、自身のID情報と資金源を詮索されないようにしていた」と述べている。

 しかし、こうした身元を隠す洗練された努力は実は不十分で、容疑者たちはいくつかの痕跡を残している。一つには、彼らはビットコインの取引とスピア・フィッシングのメール送信を同じコンピューターから行っていた。DoJの捜査官らはまた、GRUの機材がはるばるルーマニアの会社向けにマイニングしたビットコインの追跡に成功した。また、このルーマニアの会社がDCLeaks.comのドメインを登録したことが分かった。

反応

 このほど、DoJ以外で仮想通貨についての爆弾ニュースを発表した他の官庁の幹部職員はいなかった。しかし、ビットコインに対する心理的パニックの恐れが消えたと断じるにはまだ早い。この捜査が扱う問題は論争的かつ爆発的な性格を持つことから、国家の安全の脅威を助長したかにみえるものに対して、どこかの政治家が安易な攻撃で点数を稼ごうとまだ目論んでいるかもしれないと考えておいたほうがいいだろう。

 他方、告訴状が発表された後、最も多くインタビューを受けたのはチェーンアナリシスの共同創設者で最高執行責任者(COO)のジョナサン・レヴィン氏だった。まさにDoJの捜査官が訴因10を証明するために行ったことに関して、彼の会社は評判を築いている。つまり、ブロックチェーンを分析して金の動きを分析し、ノードとウォレットをそれらの所有者のID情報にリンクさせることである。

 レヴィン氏はチェーンアナリシスが捜査に関わったかについて言明を避けているし、検察の公式声明は、ピッツバーグ、フィラデルフィア、サンフランシスコのFBIのサイバーチーム、および国家安全局が組織として調査に協力したとだけ述べている。しかし、政府がブロックチェーンに関連する捜査でチェーンアナリシスのような民間企業に協力を求めることは稀ではないし、一社または複数の民間業者が連邦捜査官と肩を並べて働いていることは想像に難くない。

 仮想通貨関連の掲示板では、ユーザーはたいていメディアに対し、ビットコインのことは放っておいて「ドラッグを売って何十億ドルも稼いでいるコロンビアの麻薬王を取り上げろ」と求めたりする。マネーロンダリングのため、はるかに強力な拡散力を持つキャッシュという概念が、最もよく使われる表現であるようだ。

 コーネル大学のコンピューター科学者のエミン・ガン・シラー氏は、起訴状の狙いは「仮想通貨がはらむ危険性を指摘すること」だとみている。だが、その反面、「こうした危険性と危険性を生み出すパワーが、仮想通貨をこれほどエキサイティングにしている理由である」と述べている