CBDCが多くの話題を呼んでいる。一つ明らかなことは、世界の中央銀行の80%以上がCBDCに注目しており、CBDCの実現の日が迫ってきているということだ。そこには日常生活を変えることに対する期待と不安が生まれている。

本当のeエコノミー?

CBDCは現金のデジタル版だ。現在発達しているオンライン決済とは何が異なるのだろうか?エコノミスト誌によると、「CBDCのアプリにお金を預けることは中央銀行への預金を意味する」。CBDCを使うことによって中央銀行は「日常生活の決済が民間企業に頼る現状」からの脱却を目指している。

中央銀行は、CBDCが紙幣や硬貨より安全でより早い代替の決済手段となると考えている。また、CBDCは緊急時の資金援助の手段としても使い勝手が良いと考えられる。例えば欧州で地震が起きたとしよう。政府は被害者のスマホのウォレットに対してCBDCを送金すればよくなる。
 
今やなき元フェイスブックの仮想通貨プロジェクト「リブラ」は、世界経済の安定性に与える影響が懸念されて廃止の流れとなった。CBDCは同じ運命を辿らないだろう。ほとんどの中央銀行はCBDCを立ち上げているし、ECBも今後数年でデジタルユーロの立ち上げを計画していることを認め、FRBも真剣に検討してこれに続く流れだ。世界経済は大きく変わろうとしている。

我々はCBDCを懸念するべきか?

CBDCにはダークサイドがあると考える人も少なくない。

LedgerのGlobal Head of Policy であるSeth Hertleinは、CBDCについて「これまで人類が考えた人間抑圧のためのツールのなかで最も強力」とみている。

「CBDCは、中央銀行に対して直接的に利用者データの検閲権限を与えることになるだろう」

民主主義国家の住民は上記のリスクを自分ごと化できないかもしれないが、中国を見れば現実味が増す。Hertleinは、「ソーシャルメディアで政府にとって都合の悪いことを言えば、ウォレットが凍結される。反政府デモに参加したら、ウォレットが凍結される。肉や野菜など生活必需品を買おうとしても拒否されることになる。そして家族や友人に送金したい時も拒否されて政府への問合せを要求される」などディストピアな世界を描写した。

さらにCBDCを使った追跡機能を駆使すれば、あなたがどこに行こうと誰と会おうと何を買おうとリアルタイムで政府が把握できるようになる。

Hertleinは下記のように続けた。

「AIや顔認証、ブロックチェーン分析、ソーシャルクレジットなどの最新技術と組み合わせることで、CBDCはプライバシーの喪失だけでなく、人類史上で初めて政府に国民を完全に屈服させる力をもたらす」

LedgerのCTOであるCharles Guillemetも、上記の見解に同調する。

「CBDCが他の全てのマネーに取って代わることで、完全な金融ディストピアが出来上がる。ジョージ・オーエルさえ想像できなかった悲劇になるだろう。」

リスクは何か?新しいタイプのビッグブラザーが生まれ、我々の日々の消費活動を完全にコントロールすることだろう。

CBDCは、経済活動を完全にプログラム可能なものに変える。例えば、CBDCによって中央銀行は国民の取引記録を操作したり特定の商品の購入を禁止したり設計できる。この新たな権力に限界はないのか?

CBDCは批判の対象になるかもしれないが、すぐに誕生してしまうだろう。その存在自体を否定するより、そのデザインと機能に議論をシフトするべきかもしれない。分散化とプライバシーに関する議論はほとんど始まっていない。

 

著者 Ledger

プロフィール:2014年に誕生した仮想通貨のハードウェアウォレットの会社。拠点はフランスにあり、現在はLedger Nano XとLedger Nano S+、Ledger Nano Sという3種類のハードウェアウォレットを製造・販売している。Ledger Nano S +は2022年4月4日発売の最新作。Ledger Nanoシリーズに接続して使うソフトウェアであるLedger Liveを、全ての仮想通貨サービスが1箇所に集まるプラットフォーム、いわば「Web3.0のハブ」にすることを目指している。公式サイト:https://www.ledger.com/ja