ここに述べられている見解や意見は、あくまで筆者のものであり、コインテレグラフの見解を反映するものではありません。また、本稿は投資に関する助言や推奨を含みません。いかなる投資にもリスクが伴います。投資にはリスクが伴います。投資の判断をする際は、ご自身でリサーチをお願いします。

 6月7日、欧州連合EUの金融犯罪・脱税・租税回避に関する特別委員会 (TAX3) の委員は「課税、マネーロンダリングとの闘い: 仮想通貨、デジタル化と欧州における半年の動向」と題するワークショップに参加した。

 ワークショップではロビー・ハウベン教授が仮想通貨、ブロックチェーンの法的側面を解説し、金融犯罪、マネーロンダリング、脱税と仮想通貨・ブロックチェーンの関係を、新たに採用されたEUのマネーロンダリング対策法ともからめつつ説明した。

 教授はクロークコイン、ダッシュ、PIVX、Zコインなど最近発行されている仮想通貨は、ブロックチェーンネットワークの構成要素として混合型サービスを取り入れていると説明した。例えば仮想通貨モネロは、リング署名という方式を利用しブロックチェーン全体を安全で追跡不可能なものにすることでプライバシーを重んずる設計になっており、サービスを損なうことなく匿名性を担保している。教授は、この種の混合型サービスはマネーロンダリングや脱税の温床となり、ユーザーがこれを利用してこのような犯罪を犯す可能性が高いことを認識した上で、EU、そしてG20レベルでも仮想通貨に関する規制を実施する必要があると述べた。

 仮想通貨関連税を含む税の徴収権限はEU加盟国それぞれの主権にあり、この分野におけるEUの権限は限られている。EUは統一された税法立法機関を持っておらず、国境をまたぐ仮想通貨ビジネスのアグレッシブな税金対策についてはEU反トラスト委員会が監視している。同委員会はEU内部での競争をゆがめる国家補助を取り締まっている。EUの競争政策担当委員マルグレーテ・ベステアー氏による政策ポートフォリオに触れて広報官リカルド・カルドソ氏はこう語った。

「委員会は今のところ仮想通貨関連の問題を調査していない。しかしそれで済まされていいわけがない」

 このような状況に鑑み、2018年3月1日欧州議会によりTAX3が設立された。過去5年間にルクセンブルクリークス、パナマ文書、パラダイス文書などによりEU加盟国による租税回避、マネーロンダリング、汚職が次々と暴かれてきたがTAX3はこのような状況に対応して設立されたものでもあり、独立的な市民権プログラム、税金関連対策、政策を有する機関である。金融犯罪・脱税・租税回避に関する特別委員会EPPグループ広報官ダリウシュ・ロサティ欧州議会議員は語る。

「EU市民権を売るということは、富裕層が何の負担もなく欧州人の共有財産から利益を得るのを黙って見ているということだけではないと私は考えている。それにより彼らが制裁を逃れ、資金を洗浄するのを見逃すことになるのだ。例えばマルタの例を見てみよう。マルタは投資を誘致するために、投資計画と引き換えにEU市民権を売っている。特にロシア人が多いのだが、制裁対象となる可能性がある富裕層がマルタの国籍、つまりEU市民権を取得しているのだ」

 TAX3のミッションは次のようなものである。

・デジタル経済への (VATを含む) 課税に関して現在進んでいる議論を促進する
・各国の (市民権譲渡政策などによる) 税制上の優遇措置を評価する
・EU委員会及び、国際機関 (経済協力開発機構 (OECD)、G20、国連、金融活動作業部会 (FATF)など) メンバー国によって、課税・仮想通貨について進められている作業の進行や貢献をフォローする。

 TAX3委員会への権限委託期間は12か月である。この期間終了時に委員会は報告書を提出して知見を述べ、EU各国における税金関連犯罪・脱税・租税回避の阻止、多くのEU加盟国の租税競争における公平性実現のために進めるべき政策を提案する。

「TAX3が行う調査によって仮想通貨マーケットは長期的に分裂する可能性がある。各取引所は増加していく規制を遵守するかどうか選択しなければならないからである」

 コーネル大学教授でコンピューターサイエンティストであるエミン・ガン・シアー氏はこう語る。

 シアー氏はビットコインより7年も前に構築された Karmaと呼ばれるピアツーピア仮想通貨システムの共同設立者でもある。

「取引所は2つのうちどちらかの方向に進むだろう。KYC/AML(顧客確認/反資金洗浄)と税法が最も寛大な場所をまず探した上で適法な行動を取るか、あるいは完全に地下に潜り、Torその他の匿名化実現技術を駆使してKYC/AMLと税法をかいくぐる混合型手段により法規を全く無視するかのどちらかである」

 実際、アジアやEUの多くの取引所は税制と仮想通貨に関する法的権限が最も寛大な場所を探し回った結果、マルタに拠点を置くにいたっている。モルガンスタンレーの調査によれば、その結果、マルタは現在世界で最も仮想通貨取引量が多い場所になっている。

 マルタは暗号ブロックチェーンとイニシャル・コイン・オファリング(ICO)に関する規制で世界の先駆者となっている。マルタ首相ジョセフ・ムスカット氏は、マルタはブロックチェーン関連事業規制の先駆者であり、優れた司法制度が存在し、世界の一流フィンテック企業の拠点に選ばれていると述べている。ムスカット首相はマルタの成功をもたらしたのは、仮想通貨にとって好ましい課税政策ではあるが、EUのブロックチェーンパートナーシップのメンバーになったことも大きいと述べている。マルタ議会は4月24日、同パートナーシップの枠組みにおいて下に述べる3つの仮想通貨関連法案を採択した。

 これらの法案は、マルタの金融当局に仮想通貨関連の特別法規を発令、施行する規制権限を与えるものである。

 マルタデジタルイノベーション局法案 これによりマルタデジタルイノベーション局が設立される。同局は任意にブロックチェーンプラットフォームを承認し、その信頼性を保証し、仮想通貨に関する法的保証を与えるものである。

 革新的テクノロジーシステム整備法案 この法律に基づきテクノロジーサービス提供業者登録の枠組みが提供され、システム管理者・監査人に関する事項も含めテクノロジーシステム整備の認定が行われる。

 バーチャル金融資産関連サービス法案 これにより仮想通貨とICOに法規制の枠組みが与えられる。

 現在マルタの法律では仮想通貨は規制されておらず、仮想通貨取引は商品取引と同じものとみなされている。仮想通貨を利用する企業は、集団投資スキーム、金融機関、決済サービス提供業者でない限り (これらの形態をとっている場合は金融機関法に基づき適正なライセンスを取得しなければならない) 、マルタ金融事業局からライセンスを取得する必要はない。
さらに仮想通貨は投資サービス法に基づく投資手段とは考えられておらず、こちらの法に照らしてもライセンスは不要である。

仮想通貨への課税

 マルタの税金関連政策について3人のMEP (欧州議会議員) デヴィッド・カーサ氏、ロベルタ・メッツォラ氏、フランシス・ザミット・ディメッチ氏はこう語る。

「EUがマルタ人に代わってマルタの税制を決めるようなことがあってはならない。過去も現在もそして将来においても税制決定は各国政府の権限で行うべきものである」

「マルタには交換手段としての仮想通貨を規制する法律は無い。仮想通貨販売が非常に頻繁に行われ、かつ/またはその保有期間が非常に短い時にだけ、その販売利益は収入と認定され、5%の所得税の対象となる」と、E&S Consultancyのマリエラ・バルダッチーノ博士 (文学士・法学博士) は述べた。

 さらにバルダッチーノ博士はこう続ける。「マルタの付加価値税 (VAT) 局は欧州裁判所のHedqvistの判例 (C-264/14) に従って、不換通貨と単位仮想通貨の交換はVAT対象外とみなしている」

 このようなマルタの政策にかかわらず、マルタの仮想通貨取引所を使ったり、マルタの仮想通貨ファンドを売買するアメリカ人顧客や投資家は、外国口座税務コンプライアンス法 (FATCA)、外国金融口座報告 (FBAR) などアメリカの納税に関する義務を忘れてはならない。これらの報告義務についてはアメリカ公認会計士協会 (AICPA) がアメリカ国税局 (IRC) への第2書簡で繰り返し述べているところである。

セルヴァ・オツェッリ氏は弁護士、公認会計士、国際税理士。Tax Notes、Bloomberg BNAなどの刊行物やOECDの刊行物に、税金、法律、会計に関する問題について多くの記事を書いている。