MakerDAOとは

MakerDAO(メーカーダオ)は、DeFi(分散型金融)を代表するプロジェクトだ。ステーブルコイン「DAI(ダイ)」の発行・管理や、レンディングプラットフォーム「DSR(Dai Savings Rate)」などを提供している。

文字通り自律分散型の組織「DAO(ダオ)」によって運営されるMakerDAOは、メーカー財団(Maker Foundation)という非営利団体が開発を主導している。金融サービスをDAOによって分散的に運営することを目的としており、まさにDeFiを象徴するプロジェクトだと言えるだろう。

MakerDAOの運営に用いられるのがガバナンストークン「MKR」だ。MKRの保有量が多いほどMakerDAOにおける意思決定への影響力が大きくなり、プロジェクトのロードマップ策定に参加できる。

MakerDAOの開発を中心となって行なっているメーカー財団は、ガバナンスを維持するためにMKRの多くを保有しているものの、将来的には解散することが決まっている。

メーカー財団は、MakerDAOの開発資金としてアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)やポリチェーン・キャピタルといった著名ベンチャーファンドから資金調達を行なってきた。その際、従来の株式会社などとは違い、株式を付与するのではなくガバナンストークンMKRを付与している。

この手法は、DAOによるプロジェクトの開発スキームとしては一般的なものとして定着してきているが、MakerDAOがその第一人者として市場を開拓してきた。現在は、仮想通貨・ブロックチェーン業界でその名を知らない人はいないであろうプロジェクトにまで成長した。

MakerDaoでは2種類の通貨が発行されている


仮想通貨担保型のステーブルコインDAI

MakerDAOの主な取り組みは、ステーブルコインDAIの発行および管理だ。DAIの価格を1ドルに維持するよう様々な仕組みが開発されている。

ステーブルコインには大きく分けて「法定通貨担保型」「仮想通貨担保型」「無担保型」といった3つの分類があるが、DAIはこのうちの仮想通貨担保型に該当する。

  • 法定通貨担保型:多くのステーブルコインが法定通貨担保型に該当し、その中でも米ドルを担保に発行されるものが大部分を占めている。既に最も安定した資産である法定通貨を担保に発行されるため、このタイプのステーブルコインが最も価格を安定させることに成功している。
  • 仮想通貨担保型:仮想通貨を担保に発行されるステーブルコイン。価格変動の激しい仮想通貨を担保にしているため、ステーブルコインの価格を安定させることは難しい。
  • 無担保型:担保資産なしでステーブルコインが発行される。価格を安定させるメカニズムは全てアルゴリズム次第となるため、アルゴリズム型ステーブルコインとも呼ばれている。

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DAIは、仮想通貨担保型を代表するステーブルコインであり、この分類ではほとんど唯一の成功例だ。先述の通り、価格変動の激しい仮想通貨を担保に発行されるため、仮想通貨担保型のステーブルコインは価格を安定させることが極めて困難なのだ。

DAIの場合、2019年10月まではイーサリアム(ETH)を担保資産に発行されていた。イーサリアムをヴォールト(Vault)と呼ばれるスマートコントラクト機能を持ったプログラムへ預け入れることで、イーサリアムを担保にしたDAIを発行することができる。

2019年11月には、イーサリアム以外にベーシック・アテンション・トークン(BAT)が担保資産に加えられ、複数の仮想通貨を担保にDAIが発行されるようになった。イーサリアムのみを担保に発行していた際には、DAIの価格がイーサリアムの価格変動の影響を強く受けていたものの、複数の仮想通貨を担保に発行されるようになったことで、特定の仮想通貨の価格変動の影響を受けにくくなっている。

イーサリアムのみを担保に発行されるDAIのことをSingle Collateral(単一担保)といい、「SAI(Single Collateral Dai)」または「SCD(Single Collateral Dai)」と表記される。一方で、複数の仮想通貨を担保に発行されるDAIのことはMulti-Collateral(複数担保)といい、こちらをDAIまたは「MCD(Multi Collateral Dai)」と表記する。

なお、単一担保から複数担保に移行した時点で、単一担保のDAI(SAI)は使用されなくなっており、複数担保のDAIが市場に流通するDAIということになった。

2019年10月まではイーサリアムのみを担保資産にしていたDAIだが、2021年7月時点では30種類以上の仮想通貨を担保に発行可能だ。USDコイン(USDC)やテザー(USDT)といった法定通貨担保型のステーブルコインを担保にすることも可能で、より安定した価格を維持することができている。

ヴォールトに預け入れた担保資産はいつでも引き出すことが可能だ。しかし、引き出す際にはStability Feeという手数料が発生する。Stability Feeは、その名の通りDAIの価格を安定させるために必要な仕組みだ。

DAIの需要と供給に合わせてStability Feeを変動させることで、より価格を安定させることができる。たとえば、DAIの需要が急激に低下した場合でも、Stability Feeを高く設定することで売り圧力を減らすことが可能だ。

DAIの担保資産一覧

DAIの担保資産。担保資産ごとにStability Feeや担保率が異なる。出所:https://oasis.app/borrow


ユーティリティ性の高いガバナンストークンMKR

MakerDAOには、ステーブルコインDAIと並び重要な役割を持つ仮想通貨「MKR」が存在する。MKRは、DAIと同じくMakerDAOが発行および管理する仮想通貨であり、主に3つの役割を持つ。

1. ガバナンストークン

ガバナンストークンは、先述の通りMakerDAOのような自律分散型組織における意思決定に用いられる仮想通貨だ。ガバナンストークンの保有量に応じてプロジェクトに対する影響力が変動する仕組みとなっており、保有しているという事実が重要になる。

MakerDAOの場合、MKRがガバナンストークンとして機能しているため、プロジェクトの運営に参加したいユーザーはMKRを保有することで権利を得ることが可能となる。

2. ユーティリティトークン

ユーティリティトークンは、文字通り実用性に長けた仮想通貨である。MKRは、ガバナンストークンとしての側面を持つ一方で、ステーブルコインDAIの担保資産を引き出す際に発生するStability Feeの支払いに使用することが可能だ。

この二面性を持つことから、MKRはユーティリティトークンに該当する。なお、2019年10月まではStability Feeの支払いがMKRでしか行えなかったため、MKRのMakerDAOにおいて特に重要な要素となっていた。

しかし、DAIが単一担保型から複数担保型へ移行したタイミングで、Stability Feeの支払いをDAIでも行えるようになっている。

3. 資金調達

MKRの3つ目の役割は、資金調達手段である。何らかの要因でDAIの価格が急激に変動した場合、MakerDAOはMKRを新たに発行し市場から資金調達を行うことが可能だ。調達した資金は、DAIの価格を1ドルに戻すために使用される。

この用途は緊急時のみ使用されるため通常は作動しない。しかし、DAOの形式でプロジェクトを運営するには、不測の事態に備えて予め対策をうっておくことが重要になるため、MKRを使った資金調達の仕組みは欠かせない要素の一つとなっている。


DeFiを中心に広がるMakerエコシステム

MakerDAOは、2014年よりプロジェクトがスタートしており、長らくDeFi市場を牽引してきた。そのため、ステーブルコインDAIやガバナンストークンMKRが組み込まれたサービスは多岐にわたる。

DAIの活用例

DAIは、DeFiにおいて最も使用されているステーブルコインだと言っても過言ではない。仮想通貨で完結するDeFiの世界では、法定通貨の介入余地がなくDAIが基軸通貨として流通している。DAIは主に、「取引」「使用」「保有」「DeFi」といったシーンで使われている。


DAIを取引する
今やDAIを取り扱う取引所は世界中に存在しており、DeFiに限らず一般的な仮想通貨取引所でも売買することが可能だ。ただし、日本の仮想通貨取引所では上場していない。

DAIを取り扱っている取引所は、コインベースをはじめとしてバイナンスやクラーケン(グローバル版)などがあげられる。


DAIを使用する
DAIを使用可能なシーンは年々増加し続けている。DAIのようなステーブルコインは、ビットコインやイーサリアムと比べて価格が安定しているため支払い手段として用いられることが多い。

そのため、FoundationやMuseum of Contemporary Digital Art、オープンシー(OpenSea)といったNFTなどのデジタルコレクションを売買できるプラットフォームで使用することが可能だ。その他にも、WirexやPundiXなどの決済プラットフォームで使用でき、為替の影響を受けずに国際送金をすることができる。


DAIを保有する
仮想通貨は、取引したり使用したりするのに必ずウォレットが必要になる。ビットコインやイーサリアムのような主要な仮想通貨であれば多くのウォレットが対応しているものの、そうではないものはウォレットが一部に限られていたりする。

DAIは、多くの場面で基軸通貨としての役割を担っているため、扱うためのウォレットも幅広く提供されている。DAIのウォレットには、AnchorageやCoinbase Custody、Ledger、MetaMask、MyCrypto、Trezorなど、人気ウォレットが全て揃っている。


DeFi

DAIは、DeFiにおけるエコシステムを最も拡大させているプロジェクトだ。DAIを保有していることを前提にサービスの利用が可能なプロジェクトも存在しており、DeFiサービスを使用するにはまずDAIが必要になる場面も少なくない。

また昨今は、DAIを保有することを起点としたサービスも次々と誕生している。厳密には、自身の持つウォレットに置いておくのではなく、レンディングサービスなどに預けておく(貸し出し)のが実態だ。

たとえば、CompoundAaveといったレンディングサービスでは、DAIをプラットフォームに預けておくことで一定の利子を得ることができる。Uniswapなどの分散型取引所(DEX)では、DAIとの組み合わせになっているペアが多く、DAIとその他の仮想通貨を交換したいという需要が感じられる。

MakerDAOのエコシステム

出所:MakerDAOのHP


MakerDAOのロードマップを決めるガバナンス投票

DeFiエコシステムの中心にあるMakerDAOだが、その本質はプロジェクトの運営方法にある。DeFiには特定の管理者が存在しないのが特徴だが、中でもMakerDAOが最も管理者を排除した状態で分散型の運営を実現している。

そのため、各DeFiサービスはMakerDAOであれば安心して連携することができると考えるのだ。そんなMakerDAOを運営するために必要なのが、先述したガバナンストークンMKRである。

MakerDAOでは、MKRを使ったガバナンス投票が行われているが、投票には「Governance Vote」と「Executive Vote」の2種類の投票方式が用意されている。

Governance Voteは、MKR保有者による決議が必要な重要事項について決定する際に用いられる方式だ。 プロジェクトのロードマップを決める際に、今後どのような方針で運営していくかといった議論もこの投票方式で行われる。

次のExecutive Voteで実際の投票を行うことになるが、Governance Voteはそのための提案に対するコミュニティの反応を伺う際に使用される。

もう一つのExecutive Voteは、Governance Voteで決定した事項をプロジェクトに反映するために、具体的にどのように実行していくかを決定する際に用いられる。たとえば、DAIの担保資産を追加する場合に、どの仮想通貨を担保に加えるか、Stability Feeをどの程度に設定するかといった決定がExecutive Voteで下される。 

この二つのプロセスを経ることで、より分散したガバナンス運営を実現することができ、多くのDeFiサービスが安心してMakerDAOと連携できるよう開発されているのだ。


MakerDAOの今後

MakerDAOが目指す世界は、新たな金融市場の形成でありDeFiの普及だ。そのためには、基軸通貨となるステーブルコインが必要だと考えている。DeFiで使用されるステーブルコインであるため、法定通貨担保型のように特定の発行者が存在しては本末転倒だ。そのため、DAIはあくまでDAOとしてのMakerDAOによって管理されなければならない。

これまでのMakerDAOは、メーカー財団が運営を主導してきたが、これからはMKRの保有者によって全ての意思決定が行われることになる。これを、「DAOの解散」といい、メーカー財団も解散に向けて着々と準備を進めている。

2021年5月には、メーカー財団がMakerDAOの開発を行うための運営資金を全てMakerDAOに返還した。つまり、今後メーカー財団はMakerDAOの開発のために資金を使うことができなくなったのだ。

これにより、メーカー財団は解散に向けた大きな一方を踏み出し、2021年内の完全解散を公表している。メーカー財団解散後のMakerDAOは、MKR保有者によって運営されることになり、ステーブルコインDAIの発行・管理にメーカー財団のような大きな影響力を持つ主体は存在しなくなる。

メーカー財団の解散が近づいているMakerDAOだが、これまでと同様に引き続きシステムのアップデートは進められていく。今後予定されている大きなアップデートとしては、DAIの担保資産に仮想通貨だけでなく現実世界の資産を追加するための開発が行われている。

具体的には、現実世界の不動産を担保にDAIが発行できるようになる予定だ。担保資産に現実世界の資産が追加されることで、DAIの価格がより安定することが期待されている。また、DAIを通してリアルとバーチャルの融合が進む可能性も高まるだろう。

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