DeFiの代表的レンディングプラットフォームCompoundとは

Comound(コンパウンド)は、分散型金融(DeFi)を代表するレンディングプラットフォームである。類似サービスのAave(アーべ)などと同様、管理者不在のプラットフォーム上で仮想通貨の貸し借りが可能だ。

コンパウンドは、ロバート・レシュナー氏によって2017年に創業されたコンパウンド・ラボが開発を主導している。コンパウンド・ラボは、従来の金融システムは動作が遅く非効率であり、仲介業者によってあらゆる制約が課せられているとした上で、DeFiによって新たな金融サービスを構築することをミッションとしている。

コンパウンド・ラボは、2018年にシードラウンドで820万ドルを、2019年にはシリーズAラウンドでアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)などから2500万ドルを調達した。

コンパウンドは、2018年9月にメインネットへとローンチされている。その後2019年5月に初のアップデート版であるv2(バージョン2)が公開された。2021年5月時点で、コンパウンドにロックされている資産(TVL:Total Value Locked)は約81億4500万ドルとなっている。これだけの資産を従来の金融システムで管理するには膨大なコストと責任が求められるだろう。DeFiでは、管理者が存在しない状態で巨額の資産を管理しているという事実が既に何年も続いているのだ。

Compoundの仕組み

DeFiレンディングプラットフォームにはアーべやメーカーなど複数存在するが、コンパウンドはその先がけとも言えるプロジェクトだ。コンパウンドは、貸し手と借り手を直接マッチングさせずに、プールと呼ばれる場所に一度資金を溜め込む仕組みとなっている。仲介としてのプールを挟むことで流動性が不足する問題を解消している。

コンパウンドで貸し借りを行う際には一定の利率が課されることになっており、これは常に変動する仕組みだ。利率はプール内に資産がどれだけあるかによって決められる。

コンパウンドのプールに対して資産を供給すると、対価として同額分の「cToken」が付与される。これは債権トークンとも呼ばれ、イーサリアムのERC-20規格に従って発行されている。cTokenは、コンパウンドにおけるネイティブトークンであり、供給された仮想通貨によって異なるcTokenが発行される。たとえば、10ETHをコンパウンドに供給すると、10ETHと同じ価値を持つ「cETH」が付与される。これは、DAI(cDAI)やUSDC(cUSDC)などでも同様だ。

付与されたcTokenは、一定の利率(複利)に従って利子が付与される。供給した資産を引き出す際には、利子として付与されたcToken分が元の資産にプラスされて返ってくる仕組みだ。

 

コンパウンドのeToken付与の仕組み
イーサリアムをコンパウンドに預け入れると、債権トークンとしてのcETHが付与される 出所:コンパウンド ブログ

cTokenが債権トークンと呼ばれる理由は、ERC-20として発行されていることによる柔軟性にある。たとえば、コンパウンドに仮想通貨を供給することで付与されたcTokenは、コンパウンド以外のサービスで利用することが可能だ。

より具体的には、分散型取引所(DEX)のユニスワップで実際にcTokenは取引されている。cTokenは、コンパウンドに資産をロックすることの対価すなわち債権であるため、ユニスワップなどで売却した場合には、コンパウンドにロックした資産を引き出すための権利も一緒に売却していることになる。

なお、コンパウンドで資産を借り入れる場合は、一般的なレンディングサービスと同様に担保となる資産を預け入れる必要がある。ここで預け入れた資産に対しても、債権トークンであるcTokenが付与される。つまり、コンパウンドで仮想通貨を借り入れる場合は、cTokenと借り入れる仮想通貨の両方が手元に入ってくる格好だ。

コンパウンドのサービス説明
イーサリアムをコンパウンドに預け入れて、債権トークンとしてのcETHを受け取りつつDAIを借り入れ可能 出所:コンパウンドブログ

ガバナンストークン「COMP」

コンパウンドの特徴は、何といってもガバナンストークン「COMP」だろう。

ガバナンストークンとは、DeFiのような分散型プロジェクトにおける意思決定への影響を持つ議決権のようなものだ。COMPは、意思決定時の投票権として機能する。

ガバナンストークンの発行意義は、プロジェクトの潜在的な集中化による脆弱性を回避することにある。プロジェクトが十分に分散化されていない場合、少数の管理者は単一障害点になりやすく、外部の攻撃などの対象となってしまうのだ。ガバナンストークンを発行することでプロジェクトを分散させ、こういった問題を解消するのが目的である。

ガバナンストークン自体はコンパウンド以外にもアーべやユニスワップなどで提供されており、昨今はもはや珍しいものではなくなった。その中で、コンパウンドのCOMPはガバナンストークンの発行がブームになるきっかけとなっている。

COMPは、2020年6月にそれまでにコンパウンドを利用したことのあるユーザーに対して初めて付与された。当初の目的としては、コンパウンドをコンパウンド・ラボの手から切り離してより分散された形で運営するためであったものの、ユニスワップなどで取引されるようになる中で価格が高騰する結果となった。

COMPは、コンパウンドを使用することで得ることができるため、ユーザーは類似する他のレンディングサービスではなくコンパウンドを使用する動機にも繋がっているといえるだろう。

コンパウンドでは、COMPの総発行額のうち1%を保有しているユーザーであれば、ガバナンスへの参加権を得ることができる。2021年5月時点でCOMPの総発行額は20億ドルを超えているため、2000万ドル分以上のCOMPを保有していないとガバナンスに参加することはできない。

本来はガバナンスを分散化するために発行されたCOMPであったが、価格が高騰したことで結果的に早期の分散化を実現することには繋がらなかったといえる。

COMPの総発行量は1000万COMPに設定されており、そのうち42%がコンパウンドのユーザーへ約4年間かけて配布されることになっている。なお、残りの58%は開発チームやコンパウンド・ラボの投資家が保有する。

コンパウンドで高い利率がついている仮想通貨を貸し借りしているユーザーほど、より多くのCOMPを獲得できる仕組みだ。こうすることで、プール内の資産のバランスを維持している。

COMPを使ったガバナンスでは、全ての提案に対して3日間の投票期間が設けられている。提案の例としては、コンパウンドで使用可能な仮想通貨の種類だったり、仮想通貨ごとの利率を決めるパラメータの数値だったりと多岐に及ぶ。

それぞれの提案は、過半数および最低40万の賛成票を集めた場合にのみ承認され、タイムロックコントラクトに追加された2日後に実装へと進められる。

コンパウンドのガバナンスフロー
コンパウンドのガバナンスフロー 出所:コンパウンド ブログ


Compoundを使った稼ぎ方

コンパウンドを使用するには、ダッシュボードにウォレットを接続する必要がある。現時点で対応しているウォレットは、Metamask、Ledger、Wallet Connect、Coinbase Walletだ。

コンパウンドが対応している仮想通貨がウォレットに入っていれば、プールに対して資産を貸し出すことができる。また、担保となる仮想通貨を預け入れさえすれば、ウォレットに入っていない仮想通貨をプールから借り入れることも可能だ。さらに、コンパウンドのガバナンストークンCOMPを保有している場合は、Vote画面からコンパウンドのガバナンスに参加することもできる。

コンパウンドはリリース当初、全ての資産に単一のスマートコントラクトを使用していた。プールに資産を貸し出すと、単にアカウント内の資産が利率分だけ増加する仕組みである。2019年5月のバージョン2を経て、cTokenが実装されるとコンパウンドエコシステムが急激に拡大した。

コンパウンドの利息は、一般的なDeFiレンディングプラットフォームと同様に複利で増加していく。ここで特筆すべきは、コンパウンドの利息は1ブロックごとの複利で増加していく点だ。

従来の金融サービスにおける複利の場合、たとえ複利で利息がつくとしても、ほとんどが1年単位の利息付与となっている。コンパウンドは1ブロックごとに複利で利息がつくため、従来の金融サービスと比べて圧倒的な資本効率を実現しているのだ。

コンパウンドはイーサリアム上に開発されているため、イーサリアムのブロックが1つ生成されるごとに利息がつく仕組みとなっている。イーサリアムのブロックは約15秒ごとに生成されているため、コンパウンドの利息も約15秒ごとに付与されるということだ。

なお、コンパウンドで使用可能な仮想通貨ごとの利率はMarket画面で確認することができる。現時点で対応している仮想通貨は、イーサリアム(ETH)、USDコイン(USDC)、ダイ(DAI)、ラップド BTC(WBTC)、テザー(USDT)、ユニスワップ(UNI)、コンパウンド(COMP)、ラップド BTC (Legacy)(WBTC)、 0x(ZRX)、ベーシック・アテンション・トークン(BAT)、トゥルーUSD(TUSD)、チェーンリンク(LINK)、サイ(SAI)、オーガー(REP)の14種類だ。

コンパウンドの通貨別利率
通貨ごとに利率が異なる 出所:コンパウンドHP

Compoundのデメリット

DeFiレンディングプラットフォームの先がけであるコンパウンドだが、アーべやメーカーなどと同様に過剰担保の課題を解消することはできていない。過剰担保の問題とは、コンパウンドで資産を借り入れるために多くの仮想通貨を預け入れなければならないことだ。

コンパウンドでは一定の担保率が設定されており、仮想通貨の価格が下落するなどして預け入れた資産が担保率を下回ると、強制的に清算される仕組みになっている。そのため、資産を借り入れる場合には、より多くの資産を預け入れなければならないのだ。

コンパウンドに肩を並べるアーべと比較すると、アーべは変動金利と固定金利で使用することができる一方、コンパウンドは変動金利にしか対応していない点もデメリットだと言えるだろう。また、アーべが25種類の仮想通貨に対応している一方で、コンパウンドは先述の通り14種類となっている。

対応する仮想通貨の種類が多いと、それだけプールに溜まる資産の総額も大きくなるため、結果的に高い流動性を発揮することが可能だ。コンパウンドは利用者に対してCOMPを配布することでインセンティブとしているものの、プラットフォームにロックされている総額ではアーべに劣ることが多くなっている。


Compoundの今後

コンパウンドの将来性を占う1つの要素として、クロスチェーンプラットフォーム「Gateway」があげられる。

コンパウンドを含むほとんどのDeFiサービスはイーサリアム上に開発されている。そのため、イーサリアムのスケーラビリティ問題が加速し使用料であるガス代が高騰し続けている。

昨今は、ガス代の高騰を回避すべく多くのDeFiサービスがイーサリアム以外のブロックチェーンに対応し始めているものの、複数のブロックチェーンに対応しなければならない開発者の負担は日々増え続けている。

こうした状況を受けコンパウンドは、独自のクロスチェーンプラットフォームGatewayを公開している。現状はプロトタイプだが、将来的には異なるブロックチェーンのネイティブ通貨を担保に、別のブロックチェーンのネイティブ通貨をコンパウンドで借り入れることができるようになる。

たとえば、Gateway上でイーサリアム(ETH)を担保にポルカドット(DOT)を借り入れることが可能だ。Gatewayはバリデータによって管理され、ガバナンストークンCOMPが流通する仕組みとなっている。

Gatewayの展望は、全てのDeFiサービスがGatewayにさえ対応しておけば複数のブロックチェーン上で稼働させることができるようになることだ。クロスチェーンが完成した場合、DeFi市場全体の資本効率が大幅に改善され、より多くの資産が流入してくることが予想される。

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