「通貨単位が取られてしまったら『もう終わり』だ」ーーー

世界のデジタル通貨覇権争いに危機感を募らせるのは、アベノミクスの仕掛け人とも異名を持ち、リフレ派の代表的人物である山本幸三衆議院議員(元地方創生相)だ。中国のデジタル人民元やフェイスブックのリブラを始め、各国がデジタル通貨の発行を進めている中で、日本でもデジタル通貨の発行を日銀に促し「早くやれと言っている」と語気を強める。

自民党の金融調査会会長を務める山本議員は、なぜ日本に中央銀行デジタル通貨(CBDC)が必要だと感じているのか。コインテレグラフジャパンの単独インタビューに応じた。


日本円が忘れ去られる

通貨には基本的な機能が3種類あると言われる。交換手段、価値の貯蔵、通貨単位(価値の尺度)だ。

デジタル通貨について、山本議員は「交換と価値の貯蔵についてはそれぞれに得意なプラットフォームが出てくるだろう」と予測する。「この2つは得意な企業がやればいい」と気にしない。

しかし問題なのが、価値の尺度としての通貨単位だ。もし仮に日本がデジタル通貨を発行せず、世界がデジタル通貨でやり取りするようになれば「日本円が忘れ去られ」、通貨主権を失ってしまうと危惧する。

「これは何としても防がなければいけない。最後の砦を守るためには自ら打って出なければいけない。それはまさに国家の通貨主権としての中央銀行が発行する通貨の役割だ」

さらにデジタル通貨を持っていれば、デジタル通貨にマイナス金利を持たせることで、金融政策を深堀できることも可能となる。一方で、デジタル通貨が持てなければ金融政策の戦略が狭まってしまう。

CBDCがなければ「GAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)が中央銀行になる」と指摘する。最も想定されるのが、フェイスブックが昨年6月に発表したリブラだ。フェイスブックなどのプラットフォーマーは「自分たちの世界だけで繋がる」通貨を持って、世界を構成しようとする。

リブラについて世界中で逆風が吹いている現状について、山本議員は「黙ってやればよかったのに」と2019年6月に堂々と発表したことに原因があると分析した。


中央銀行デジタル通貨は必ず来る未来

通貨主権以外に山本議員が期待するのは、プラットフォーマーやその他のデジタル通貨が交換できるようになるインターオペラビリティ(相互運用性)だ。それぞれのプラットフォームの通貨を中央政府の通貨が結びつける。

「事業者側から見ればそれ(一つの通貨のみを使うこと)が一番いいだろうが、消費者から見れば非常に不便だ」

送金のコストが高いことも課題と考える。デジタル通貨ができることで送金や換金のコストを下げて、「一瞬にして決済ができるようになれば取引リスクがなくなる」という。

こうした利便性、費用の面からもCBDCには利点が大きく、「将来的に必ずやらざるを得ない」と考えている。これら利点を持ったデジタル通貨をプラットフォーマーだけでなく、中国政府が先にデジタル人民元を発行してしまえば、世界を席巻し、日本円が消えてしまいかねないというわけだ。

一方で、今のドル覇権の世界を考えれば、米国側がCBDCを発行するのが合理的に思える。これについて、米国の関係者ともCBDCについて意見交換をする機会も多いという山本議員は、米国のCBDC発行は「難しいだろうと聞く」と話す。マスターカードとVISAカードの2大巨頭が強すぎるからだという。

日銀に「早くやれ」と促している山本議員は以前、ロイター通信のインタビューで2〜3年で発行を目指すと発言。これは法改正などを想定した「超高速スケジュール」(山本議員)ということから、日本での中央銀行デジタル通貨の正式な運用開始はさらに先になると見込んだほうがいいだろう。


ブロックチェーンを使わなければ意味がない

中国のデジタル人民元ではブロックチェーン技術が使われていないとされている。そうした中で、山本議員はCBDCには「ブロックチェーンを使わなければ意味がない」と言い切る。

「絶対に盗まれることはない」「盗まれても追跡できる」という点が革命的だという山本議員。重要なことは一定以上の金額についてはKYC(本人確認)を行うことだと話す。店頭取引(OTC)や現金でのやり取りは、ウォレットに金額の制限を設けるという規制をかけることでフォローできる。ブロックチェーンを使えばコストもかからない。

「ブロックチェーンを使わなければコストが高いままだ」

としてブロックチェーンはCBDCに必ず必要だと見ている。


ビットコインはいずれ消えてなくなる

ブロックチェーンに期待を寄せる一方で、ビットコインについては「いずれなくなる」と否定的だ

ビットコインができた時にブロックチェーンに興味が出たという山本氏だが、ボラティリティが高いことから価値の貯蔵としても機能せず、交換手段としても使えないと話す。

一方で、「持ったりする手間がない」という点で金の代替手段としてはあり得ると考えている。

「ただの投機商品」と言い放ち、「儲けた人はもうみんないなくなっているのではないか」と否定的な態度を示した。