世界で最大規模を誇る海運企業2社がIBMとA.P. モラー・マースクによるブロックチェーンプラットフォームであるTradeLensへの完全なる統合をすると発表した。フランスの海運企業であるCMA CGM、そしてMSCが、自社のサプライチェーンの完全なるデジタル化を可能にするべく、TradeLensのネットワークへと参加した。

コインテレグラフの取材に対して、IBM BlockchainにてTradeLensの責任者を務めるマーヴィン・アードレイ氏は、サプライチェーンがデジタル化していく中で、船荷証券を処理したりといった紙に基づく手作業のプロセスは無くなっていくだろうと答えた。「今やこうしたプロセスは、すべての関係者によって信頼されたブロックチェーンネットワークとスマートコントラクトへと埋め込まれている」とアードレイ氏は述べた。

また、CMA CGMとMSCの両社は、A.P. モラー・マースクと共に、TradeLensネットワークのノードを運営することによってプラットフォームの基盤となる運送会社として役割を果たすだろうとアードレイ氏は加えて述べた。これらの企業によってネットワーク中の取引が認証され、参加者たちが共有する書類が真正かつ有効であることを確かにするのだ。

また、18年の開始以来すでに3000万ものコンテナによる船舶輸送とおよそ1300万もの発行された文書を追跡してきたTradeLensのネットワークにCMA CGMとMSCが参加することにより、世界のコンテナ船の半数近くからデータがもたらされることになる。

新型コロナがブロックチェーン基盤のサプライチェーンの必要性を明らかに

CMA CGMとMSCがTradeLensのネットワークに参加したことも注目に値すべきだが、このことはいかに新型コロナウイルスによるパンデミックがデジタル化されたサプライチェーンの必要性を高めたかを明らかにしてもいる。

アードレイ氏によれば、今回のパンデミックによって複雑な企業間取引のプロセスを自動化することはこれまで以上に重要になったという。50兆ドル規模の産業であるグローバルなサプライチェーンが未来において成功することを確実なものにするために、ブロックチェーンはゆっくりとだが確実に必要な要素となりつつある。

「TradeLensのネットワークがまず直面した課題は最低限必要な参加者の数を得ることだった。ネットワーク上の団体の数が多くなるほど、ネットワークの価値はより高まるからだ。新型コロナウイルスによるパンデミックのおかげで必要最低限の参加者を得ることができた。これからは他の団体も参加を望むようになり、究極的にはネットワーク効果を生み出してくれるだろう。これがCMA CGMとMSCの参加が重要な出来事だった理由だ」

TradeLensに参加することにより、CMA CGMとMSCは認可された輸送情報をサプライチェーン上の団体間でデジタルに共有することが可能となる。IBM BlockchainとIBM Cloudの技術を活用しているTradeLensのプラットフォームは、参加団体がデータへとアクセスすることを可能にしながらも、企業のために機密情報を非公開のままにしておくこともできる。これによって貨物が世界中を移動する間にもネットワークの参加者へと包括的かつ透明性のあるデータの展望を提供することができる。

ドン・タップスコット氏が著書『Supply Chain Revolution』(サプライチェーンの革命)にて記しているように、これによって今度は価値のインターネットが活発となり、とうとうアセットが参加者間でデジタルに移動されるようになる。

「ブロックチェーンによって発注書や船荷証券といった取引に関する書類をデジタルで管理することが可能になる。また、ブロックチェーン上の取引書類をほぼリアルタイムで共有し、認証することにより、アセット追跡のプロセスを合理化し、荷物の運送業者に可視性を提供する助けとなる」

究極的に、ブロックチェーンは様々な団体と取引を行う企業へと重要なビジネスチャンスを提供することになる。通常は紙の書類に頼る複雑なプロセスに、透明性、信頼、そして共同作業をもたらすからだ。例えば、CMA CGMとMSCの参加プロセスにおける重要な出来事だったのが、15の顧客を交え、3000個の固有な積み荷と10万件のイベントと6000個のコンテナを扱ったパイロットの試行だ。このパイロットによっていかにTradeLensのプラットフォームがスピードと正確性をもって複数のサプライチェーン間で運送データを分配し共有するかが明らかにされた。

MSCのグローバル最高デジタル・情報責任者であるアンドレ・シムハ氏は、TradeLensがグローバルな船舶輸送とロジスティクスのデジタル化における重要な第一歩であることに言及し、運送会社およびその顧客が透明性を高め、エラーや遅延を減らす助けとなる可能性が同プラットフォームには確かにあるということに触れた。「業界がサプライチェーンの回復力を再考し、改善しようとしているこの重要な時期に、こうしたことが起こっているのだ」とシムハ氏は述べた。また、TradeLensと統合することによって、その顧客とビジネスパートナーにMSCがいかにブロックチェーンのプラットフォームを用いて価値を創造するかを示し始めることができるともシムハ氏は述べた。

皮肉なことに、今回のパンデミックのおかげで、ブロックチェーンによるネットワークの価値を顧客に理解してもらうことはより簡単になるだろう。A.P. モラー・マースクの海洋およびロジスティクス部門の最高経営責任者を務めるヴィンセント・クラーク氏によれば、顧客とサプライチェーン内の利害関係者がますますデジタルおよびオンラインなソリューションに頼るようになる中で、TradeLensのエコシステムは確かに勢いを増しているという。ロックダウンによってロジスティクスのバリューチェーン内における利害関係者同士の手作業を伴う物理的なやり取りが困難になる中、サプライチェーンの流動性を保つことのできるデジタルな製品やプラットフォームの価値を企業が理解し始めていることにクラーク氏は触れた。

また、A.P. モラー・マースクではパンデミックが始まって以来、同社のアプリ上におけるモバイルな商取引が27パーセント増加したことにクラーク氏は触れた。「今や世界において最も重要なものは回復性だ。サプライチェーンに回復性を提供し、透明性を高めることで顧客満足体験を増やすということに関して、TradeLensは重要な役割を担っている」とクラーク氏は述べた。

ブロックチェーンがサプライチェーンに価値をもたらす

要約すれば、ブロックチェーンはサプライチェーンのデジタル化において重要な役割をこれからも果たしていくことが明らかになったということだ。このことは新型コロナウイルスによってますます明らかとなった。

「これによって、ブロックチェーンが普及していくという考えが更に確かなものとなる。ブロックチェーンは様々な団体間で取引を行う必要のある企業にとって欠かせない要素となりつつあるのだ」とアードレイ氏は述べた。また、最近でも新しい港やターミナルがTradeLensに参加していることについて触れながら、同プラットフォームはこの数年間で拡大し続けてきたとアードレイ氏は指摘した。CMA CGMとMSCが同プラットフォームへと参加した今、ネットワーク効果の実現により近づいていることから、その成長は続いていくものとみられる。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン