IoT(インターネット・オブ・シングス、物のインターネット)に特化した仮想通貨であるIOTA(MIOTA)。マイクロソフトや富士通と連携しIoT上に接続された機器間のデータをやり取りする「データマーケットプレイス」の立ち上げや、独自動車部品大手のロバート・ボッシュによる投資をうけるなど、昨年末から勢いにのっている。コインテレグラフでは2年前からIOTAを取材してきたが、今回再び共同創業者のデイビッド・サンステバ氏に話を聞いた。
ーー昨年11月にマイクロソフト等との連携を発表してからIOTA価格は暴騰。その後「連携」は正式なパートナーシップではないと説明した後反落した。これは意図的になされたものか。
サンステバ氏: 一部で疑念をまき散らしている人はいるが、誤解された「マイクロソフトとの提携」が価格急進の理由とは言えない。IOTAのキラーアプリである「データマーケットプレイス」の発表は仮想通貨の普及にとっても需要なマイルストーンだった。またサムソンARTIK、ボッシュ、富士通、オレンジ、Engie、DNV GL、シュナイダーエレクトリック、EY、アクセンチュア等多くの企業が参加した。これら多くの企業が参加しているということが大きなインパクトだったわけで、それはマイクロソフト一社が及ぼす影響を超えている。
また、IOTAはマイクロソフトと「非中央集権型アイデンティティ基金」を立ち上げたり、16年初期にはマイクロソフトAzureスタックの開発に関わったこともある。だからIOTAを知っている人にとってはマイクロソフトとの連携はよく知られた話だ。だからその他の世界的企業と協業しているという事実がIOTAのプロトコルとしての地位を固め、価格を押し上げた。マイクロソフトはデータマーケットプレイスにとっては一番目立たない存在で、価格上昇の原因としては除外することができる。さらに、IOTAが韓国で二番目に大きい仮想通貨取引所コインワンで売買されるようになったのも大きかった。
(マイクロソフトとの連携が正式なパートナーシップとされた誤解については)マイクロソフトの内部手続き上の問題だった。同社のブロックチェーンエンジニアがPR部門の許可を得てロゴと一緒にコメントをくれた。そこに今回問題となった「パートナー」という言葉が含まれていた。我々はこれをそのまま使っただけだ。
その後、マイクロソフトに問い合わせが殺到した。広報部門が事実関係を正そうとしたが無駄だった。記者たちも取り上げ、市場操作を試みる悪意をもった人が便乗し事態が拡大した。一般ユーザーと仮想通貨投資家が乗り遅れまいと参入するところから、恐怖心や疑念によって踊らされたこの一連の出来事について有名な脳神経外科で作家のボビー・アザリアン氏がサイコロジートゥデイやハフィントンポストに記事を書いたほどだ。
ーーIOTAは「ブロックチェーン」を有さない性質に注目が集まった。IOTA以後登場している新技術をどう見るか。特に評価する技術や、IOTAよりも優れた技術はあるか。
サンステバ氏: ポスト「ブロックチェーン」時代の発端となったIOTAの後、一部では斬新な技術がでてきているが、それ以外のほとんどは真似であったり中途半端なものだ。IOTAは唯一、手数料、中央集権、スケーリングの問題を解決するトラストレス型の分散台帳技術だ。残念ながらIOTAを発表して数カ月に、仮想通貨界は儲け主義や誇大広告が横行する悲惨なところになってしまった。相互運用性を目標にし今でも多くの人とコラボしたいと思っているが、大量の資金が仮想通貨界に流れてきている今、シナジーをうむはずのプロジェクト同氏が競争している。多くの人にとって、もはやテクノロジーやビジョンの問題ではなくなっている。現在IOTAは私が知る限り唯一、テクノロジーにおける根本問題と現実社会での応用のどちらにおいても進展を遂げるプロジェクトだ。
ーー2016年7月のローンチ以来、IOTAにとって一番の進展や実績は何か
サンステバ氏: 何よりもまず「タングル」(有向非循環グラフ、DAGの一種)が予定通りうまく動作していることだ。それもアグレッシブな攻撃にもかかわらずだ。次に世界的なエンジニアや顧問を招聘し素晴らしいチームができつつあることだ。多くのプロジェクトはここをあまり重要視しないが、計画を執行するためには一番大事なところだ。三つ目はキラーアプリの位置づけにある「データマーケットプレイス」だ。こんなにも多くの世界的な企業が参加しそのポテンシャルを探ろうとしているということもIOTAが目標到達するためには重要なプラスだ。次にIOTA基金がドイツで認可されたことも大きい。
ーー最近設立されたIOTA基金の目的は。資料にはIOTAの利益向上とあるがNPOとしての目標と矛盾しないか。
サンステバ氏: IOTA基金の役割は開発とメンテナンス、そして普及を促すことだ。開発者コミュニティに必要なツール、ライブラリ、チュートリアル等を提供したり、スタートアップや大企業がIOTAを新たなビジネスモデルや既存のサービスや商品に統合することを助けている。IOTA基金は完全に中立的で非営利目的の団体で、IOTAを中立的なスタンダートとして普及させることをゴールとしている。しかしそれを達成するには、テクノロジーを使う消費者と向き合わなくてはならない。仮想通貨界におけるあまりにも多くのプロジェクトが「つくったら売れる」と思っているが、現実は違う。IOTAで一番重視する成功の基準は、普及しているかどうかだ。だからこれにフォーカスする法人が必要だ。ほとんどの人が無理だと思ったドイツに設立した理由は、厳しい監督の下で運営し真剣さを示したかった。一部のグループにおける簡単な実験にとどまらず製品化するための環境にもっていくために、IOTAと仮想通貨にとって非常に重要なことだ。
ーーコインテレグラフが初めてIOTAについての記事を書いたのは15年10月。その後ベータ版のローンチと16年の正式ローンチもカバーした。この間、メディアや記者とのかかわり方は変わったか。
サンステバ氏: コインテレグラフによる最初の取材から2年以上たっているというのはシュールな気持ちだ。当時の各記事閲覧数は数千規模だったが、今では常に数十万人に読まれている。確かにメディアのIOTAに対する態度は変わった。最初はプルーフオブステークの開発やブロックチェーン2.0のサプライチェーン、投票、IoT、分散型取引所やマーケットプレイス等への応用で注目を浴びたが、「分散型台帳技術はブロックチェーンを超えていかなくてはならない」とした主張を多くの人が懐疑的にみていた。「タングル」技術がどう動作するのか理解してい人はとてもあまりいなかったし、当時我々が警笛をならしていた(ブロックチェーンにおける)手数料やネットワーク混雑問題はまだ露見していなかった。今多くの人がこれらの問題に苦労する中「タングル」がうまく動作したり急激に普及しているところを見て、メディアも取り上げる義務を感じているようだ。
ーーIOTAが次に計画している爆弾(目玉)は。近い将来に何か発表を控えているか。
サンステバ氏: 16~17年は技術、普及、意識における基礎固めの時期だった。18年は組織として成熟させ、技術を製品化することが重点となる。今年は50~100人採用する予定で、製品としてリリースできるプロトコルをつくり、18年末までに規範化する。IOTAはこれまで大きなニュースをリリースすることで知られておりこれは止まらない。だが「発表魔」にはならない。IOTAはオープンソースの草の根運動で、次の発表に注目するのではなく、技術の細かなところにフォーカスしてほしい。価格を押し上げるリリースに期待するのは現在すべての仮想通貨プロジェクトであることだが、IOTAでは厳しいポリシーを採用し、投機や煽りを防ごうとしている。テクノロジーとビジョンがまず来て、これがうまく執行されれば必然的に繁栄するはずだ。
ーーIOTAの公式ブログはあなたが全部書いているのか。
サンステバ氏: メンバー全員が貢献する投稿もあるが、ほとんどは私が書いている。例えば9割書き終わった投稿を5本かかえている。だが共同創業者のドミニク・シャイナーやコア開発者等も書いている。ただIOTA基金がうまく立ち上がっているので、多くの人を採用し仕事を分担し、IOTAのビジョンやテクノロジーを初心者にも明確に伝えるクオリティの高いコンテンツをつくりたい。