仮想通貨の規制をめぐる世界の経済大国間の一連の異なる言行の後、仮想通貨コミュニティは、今年初の20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議を待ち望んでいた。しかし、G20の会合を受けて、基本の枠組みに関する共同声明はなかった。金融安定理事会の慎重な態度を示した書簡が、仮想通貨の問題について議論したいと考えていた、個々の参加国の熱意に水を差したこともあり、G20会合の成果は、既に予期されていた方向に向けて大量の小さな一歩を踏み出したに過ぎなかった。そして、仮想通貨コミュニティは今までやってきたことを再び行うしかなくなった。つまり、各国を代表する政策立案者たちの微妙な合図や矛盾する合図の解釈である。

 G20レベルで仮想通貨の規制のもっとも積極的な支持国のひとつであるフランスは、最近、矛盾の主要な温床となっている。フランスの規制当局は、先日態度を一変し、事業家と投資家の双方に寛大なイニシャル・コイン・オファリング(ICO)をめぐる一連の規定を発表した。そのような進展は全くの予想外だった。とくにその発表の数日前には、同じ規制当局が違法に投資サービスを売買しているとして仮想通貨に関連する15のウェブサイトを厳しく取り締まったばかりだったからだ。

 今年初めに仮想通貨の規制に関して統合的なアプローチを提案する様子が見られたのはドイツだ。フランスほど急激ではないにしても、フランスと同様に、ドイツの仮想通貨の規制をめぐる見解も揺れ動いているようだ。昨年11月に仮想通貨取引とICO投資の投機的な性格に関する一連の警告を発したドイツの規制当局は現在、いくつかの点についての立場を明確にし、期待を抱かせている。欧州連合(EU)を率いる大国として、この両国がブロックチェーンとその応用によって生まれた資産を管理する、域内基準の策定を主導する可能性が高い。彼らの法制度と監督体制はまったく異なるにも関わらず、近年フランスとドイツは、インターネット産業の成長によってもたらされた規制に関する課題への対策方法について、かなり多くの場合、共通のパターンを見せてきた。

 個人データ保護のための、インターネット上の言論の制限から技術系の大企業への課税まで、両国はネット上の領域における主権を行使するにあたって驚くべき意欲を見せてきた。より広域なインターネットの統治という精神がブロックチェーンを規制する際にも繰り返される可能性がかなり高いと想定して、すでに確立されているパターンを詳しく見ることは、差し迫る仮想通貨に関する政策がどのようなものになるのかを思い描くのに役立つだろう。

インフラとISP

 大陸ヨーロッパについて覚えておかなくてはならないことは、国家の果たす役割と中央集権化された官僚制度が、慣習法に基づくアングロサクソンのシステムよりも大きいということだ。コーポラティズムの政治文化とともにある制定法という伝統は、単に全体を規定するということだけではなく、国内政策の最も重要な領域においては、国家のために積極的な規制実行が期待される。そして、両国はその期待に確かに従って行動してきた。

 コミュニケーション・ネットワークの一般拡大のきわめて初期の段階から、フランス政府はそれを直接管理してきた。大多数のフランス人を接続した最初のネットワークはインターネットではなく、自国の技術で非常に中央集権化されていた「ミニテル」だった。インターネットの世界的ネットワークの機能の優位が、政府の目にも明らかになると、インターネット導入を促進したが、ここでも国家の政策を通して取り組みが行なわれた。ブロックするコンテンツの条件も法に定められ、違反の責任はインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)が負うことになった。ISPは自主規制もある程度行なうが、大抵の場合は政府の方がどんな自主規制よりも先に対応する。著作権を遵守させ、無許可の賭け事や幼児虐待を描写する内容の配信などの違法行為を防止するために、ブロッキングが幅広く使用されている。

 

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 一方、ドイツのシステムにおいては、国内規定とその実践は非常に異なったものであり、「監督下にある自己規制」という考えが定着している。少なくとも部分的には、それはドイツの連邦制の意図せぬ結果として生じたものである。ネットのコンテンツの監視は、国家または連邦当局の特権であるべきかについての議論が長引く間に、ISPはその時間を使って、業界組合のワーキングシステムを組み立てることができた。このシステムの一部となっているのが、検索エンジンと直接手を組んでいる自主規制機関である。その結果、ウェブページは検索エンジンのデータベースに分類・記録されるインデクシングの時点で選別が行なわれるので、直接的なブロッキングは存在しない。ISPは自身のサービスを介して伝わった違法コンテンツの責任を負うことはない。コミュニケーション業界は、検閲に強く反対する組織された同業者団体の強力なネットワークを指揮しているのだ。

 

ネットの言論の規制

 フランス、ドイツの両国は、ネット上のいくつかの表現の取り締りについて同様に積極的な態度を取ってきた。フランスの法律は、オンラインでもオフラインでも、人種差別的な表現や反ユダヤ主義的な発言を違法としている。新しい政府が誕生するたびに、公共空間でのヘイトスピーチに立ち向かう新しい包括的な政策を提唱する。政府官僚らのコンテンツを直接規制する権限への信頼は尽きることがないようだ。エマニュエル・マクロン大統領が1月、今年末までにアンチ・フェイクニュース法を公表すると約束したのもその例の1つだ。

 ドイツのヘイトスピーチに立ち向かう立法の努力は、17年に成立した「フェイスブック法」で最高潮に達した。フェイスブック法は、ソーシャルメディアのプラットフォームが違法コンテンツを公の場からすばやく削除しなかった場合に重い罰を科すものだ。この動きに対し、フェイスブックとツイッターは今年初めに記録的な数のドイツ語を話せるコンテンツ・モデレーターを配置した。こうした相互的な歩み寄りの効果はまだ明らかになっていない。一方、ドイツの法執行機関は時おり、特に悪質な中傷を行なった人物を不意打ちで家宅捜査することもある。

個人情報

 もうひとつの両国の類似点は、インターネット利用者の個人情報に対する保護の度合いと、フェイスブックやグーグルに対して、こうした保護を遵守させようとする姿勢だ。ドイツの独占禁止監督機関は、個人情報市場における独占的な立場をフェイスブックが不正に利用している疑いで同社を追求した。一方、フランスはフェイスブックがどうやらワッツアップ(WhatsApp)の利用者のデータを同意なく取得しているという不正操作の問題を取りあげた。

 個人情報保護をめぐるもう1つの闘いは、「忘れられる権利」を利用者に与えるEUの法律に関する、グーグルとの闘いだ。これは個人の申し込みに従って、重要ではなかったり、古くなったりした個人情報を含むURLを削除することを、検索エンジンに条件づけるものだ。この問題に関して、ミュンヘンの裁判所は、取り除かれたリンクが現在のように簡単に再発見されないように、グーグルのURL消去手続きを変更するように命令した。一方、フランスのグーグルに対する訴訟は、この「忘れられる権利」をEU以外の司法に広げようとしている。これについては下級裁判所 で3年間の係争を経て、欧州司法裁判所で審理が持たれることになっている。

財政政策

 GAFAとは、EUの政策立案者が、ヨーロッパで大きな存在感を見せるグローバル(大抵の場合アメリカ)巨大テック企業を指して言う略称である。それはもともと、グーグル、アップル、フェイススブック、アマゾンの頭文字を抜き取った言葉で、彼らを指すものだったのだが、そのうちこの用語は、比類するプラットフォームで、主に責任を課す必要があると思われる、全ての企業を意味することとなった。課税は、ヨーロッパの政治家が17年のほとんどと、18年の始めを通して議論してきたGAFAの課題である。これらの巨大テック企業がそのヨーロッパにおける収益に対して、巧みに納税義務を最小限にとどめてきたことは公然の秘密である。しかしそのことをEUは、もはや看過できなくなってきているようだ。

 ドイツとフランスは、既にそれぞれの国で、この問題に取り組んでいる。両国は既に、ビデオ配信業者であるユーチューブやネットフリックスに対し税金を導入し、ローカルコンテンツ制作を支援するための収入を得た。フランス政府は、デジタル企業の利益ではなく、その総収入に対して課税できるような、全EUに適用される規制構築を目指している。そうなれば、企業がその収益を得た場所ではなく、税金の低いEUの国に利益を登録するという行為を軽減できるかもしれない。ドイツ議会の与党連合は、わずかに違った解決策を提案している。それは顧客の地理的所在地に応じて企業の欧州における利益を比例配分する連結納税制度である。最終的にどちらの案が通ったとしても、GAFAのヨーロッパにおけるタックスヘイブンの時代があと少しで終わることは、間違いないだろう。

 

考慮すべき点

 仮想通貨規制がどれだけ奇妙で、また真新しく見えようと、それは藪から棒に生まれたのではない。他の統治の領域と同じように、それは、その国が運営するより広い法制体系の精神と特質を持っている。その意味においてスイスで起こったことは、典型的と言える。つまり、伝統的に政府の権限が少なく、途方も無い額の外国資産を蓄積、また管理してきた国が、仮想通貨の中心地としてブームとなってきていると言うことは、特段驚くことではない。

 スイスの仮想通貨起業家でツーグのクリプト・ファイナンス・グループの役員であるマーク・P・ベルネッガー氏が、コインテレグラフとのインタビューでこう述べたように:

 

「スイスは一般的に言って、他の国と比べ規則と規制が非常に少なく、自由主義的なアプローチを取っている。私たちの直接民主制によって、既に政府全体が分散化しており、それが仮想通貨に対してこの国が友好的な態度を取っている1つの理由だろう。(・・・)今日、文字通り毎週、いくつかの新しいブロックチェーン企業が、仮想通貨国家であるスイスに移転してきているのだ」

 

 しかし、このスイスの例において非常に直感的に見えるこの原則は、ドイツやフランスではあまり頻繁に起こらない。両国の進歩的で自由主義的な国という一般通念から、多くの仮想コミュニティにいる人々は、これらの政府がある程度目をつぶってくれることを期待している。しかし、フランスとドイツ政府のハイテク産業へのこれまでの対応は、私たちの期待を控えめにしなければならないと示唆しているだろう。

 両国は、明らかに規制を好んでいる。フランス式の直接的で法的な管理か、ドイツが国内での使用のために導入したような分散型法制度であるかに関わりなく、ヨーロッパ諸国は例外なく彼らの主権領域を守りたがる。グローバル勢力が彼らの管轄区域に入り込んでこようとしている中、ドイツとフランスは積極的に動くことを好み、市民の個人データを守ったり、またデジタルプラットフォームに課税しようとしている。金融ヘイトグループやテロリスト活動に対する安全性の懸念は、さらなる規制を結果として生むかもしれない。結局のところ、ヨーロッパの大国からの感触が良かったとしても、ブロックチェーン起業家は、それをすぐに喜ぶべきではないだろう。そこにまだ何か条件があるかもしれないのだ。

 良いように見れば、ゲームのルールを決めるのに国が関与することは、必ずしも悪いことではない。これはゼロサムの状況ではないので、政策立案者と組織化された業界の要求との間の意義深い対話によって、全ての人々にとって納得のいく合意が生まれるかもしれない。少なくともドイツにおいては、そのような対話が行われているようである。ドイツ仮想コミュニティの利益推進を支援しているブロックチェーン連盟によると、政府はブロックチェーン規制について真剣に取り組み始めたという。本組織の、トークン/財政ワーキンググループを率いているニーナ・シードラー博士は、この点に関して楽観的である。

 

「コミュニティは公正な法律を求めている。全ての者にとって公平な法律だ。ほとんどの課題は現行法で対応できるが、問題は、いくつかの法律が具体性を欠いているということだ。この過程における政府の存在は目立ち過ぎてはいない。彼らは過度な規制をしたくないのだろう。彼らは明らかに、この成長している経済分野にチャンスを与えようとしているのだ」

 

 シードラー博士は、ブロックチェーン管理のグレーゾーンのいくつかは、協調型自己規制の取り組みによってうまく対処される可能性があると提案した。また彼女は、ブロックチェーン起業家に対する行為規範を作るための、全ヨーロッパ的な動きがあると言及した。その規範は、業界自治の基本的理念を描く一連のベストプラクティスを定めているという。このような進展は、ヨーロッパの仮想通貨規制の未来に幾らかの希望を投げかける。ドイツISPの例が示すように、未知の政策領域を探求しているその初期段階において、組織の関心を提示しておくことは、業界全体を有利な立場に置く可能性を秘めているのだ。