フィスコは7月31日に分散型アプリ(DApps)プラットフォームの開発に着手したことを発表した。コインテレグラフジャパンでは、今回のプロジェクトの詳細や狙いについて、フィスコ取締役の中村孝也氏に聞いた。

フィスコは、バーチャル株主総会の議決権行使アプリケーション、株主優待アプリケーション、独自暗号資産(仮想通貨)フィスココイン(FSCC)のステーキングアプリケーションの開発に着手した。フィスコではこの開発を通じて、分散型アプリ(DApps)と分散型金融(DeFi)の実用化を目指している。また自社で発行するフィスココインの利用拡大にもつなげるのが狙いだ。

DApps開発とフィスココインの活用

議決権行使アプリケーション

フィスコが開発するものの1つは、バーチャル株主総会システム用の議決権行使アプリだ。これはERC-20を採用した投票トークンを作成し、イーサリアムのスマートコントラクトを使う。株主は持株に応じた数の投票トークンを受け取り、議案への賛成・反対を投票する。上場企業が顧客となり、議決権行使アプリを使ってもらう形になるが、支払にはフィスココイン(FSCC)を使ってもらう。

株主優待アプリケーション

もう1つの分散型アプリが株主優待アプリケーションだ。上場企業の株主優待を管理できるプラットフォームになる。このアプリでもフィスココイン(FSCC)をユーティリティトークンとして使うものになる。(a)自社サービス・製品型(二次流通市場で株主優待をFSCCで購入できるもの)、(b)他者サービス・商品型(株主優待の交換媒体としてFSCC配布)、(c)金券型(株主優待としてFSCCを配布)という形を想定している。

これらはスマートコントラクトでトランザクションは記録されることになる。フィスコは「FSCCを保有する者とFSCCを利用した経済取引が広がり、FSCC経済圏が形成されていく」と、その狙いを語っている。

出典:FISCO Decentralized Application Platform 設計概要書

ステーキングアプリケーション

またステーキングのアプリケーションも開発していく。これはフィスココイン(FSCC)を保有する投資家が、特定目的法人にFSCCをロック(貸付)し、対価として金利を得る仕組みだ。

ただし、フィスココインを持っている一般投資家がすぐにこのステーキングサービスを使えるようになるわけではない。当面は、フィスコと開発パートナーであるクシム社とCAICAテクノロジーがステーキングを行う。その後開発フェーズが進んだ段階で、一般投資家向けにサービスを開始する形になる。

フィスココインを使うメリット

株主優待アプリでのフィスココインを支払に使うメリットについて、中村氏は「今までの株主優待とは違い、FSCCを使うことで、日本円にいつでも換金することができることことが一番大きいメリットと言えます」と説明する。また将来的にはFSCCを使ったサービスやインセンティブプランが生まれてくることで、FSCCホルダーにメリットが享受できる仕組みを目指す。

その1つがステーキングサービスだ。一般投資家にステーキングサービスを提供することで、「FSCCホルダーは換金するだけでなく、FSCCコミュニティに参加することことで、未来に投資することも選択できるようになります」と、中村氏は語る。

段階的な開発アプローチ

フィスコでは、3つのフェーズで段階的にDAppsプラットフォームを構築する考えだ。

第1フェーズ(開発フェーズ)では、DAppsを所有することのみを目的とする専用子会社を設立する。この専用子会社がフィスコからフィスココインを借り入れ、開発に必要な資金を開発会社に支払う。この専用子会社の会計はブロックチェーンによって透明性を確保する形になる。

第2フェーズ(中央集権フェーズ)は、議決権行使アプリや株主優待アプリがサービスを開始した段階になる。フィスコの中央集権的なガバナンスで運営されることになる。この段階で議決権行使アプリのサービス提供と対価としてFSCCを受け取る仕組みとなり、ステーキングサービスでは一般投資家からの借入を実行する。

第3フェーズ(非中央主権化フェーズ)では、フィスコが持つ専用子会社の株式を慈善信託等に売却し、完全な非中央集権化を実現することになる。フィスココインがガバナンスコインとなり、フィスココインのホルダーが各アプリケーションの意思決定を行うことになる。

議決権行使アプリや株主優待アプリは、今年10月までに開発を完了させる予定で、11月から順次リリースしていく計画だ。

中村氏によれば、この3つのフェーズは、様々な問題を解決しつつ進められることになり、数年間にわたる取り組みとなる。

「個人的には、第2フェーズは、2021年初に本格スタートと考えています。数年間、運用をし、様々な問題点をクリアした後、第3フェーズへ移行というイメージです。ただし、第3フェーズへの移行は、株式の売却価格や方法、その時点での関連する全ての法令の遵守などが確認されていることが条件となります」

法令遵守に配慮したスキーム

今回のDAppsプラットフォーム開発に向けて、フィスコが3段階の段階的アプローチを取ったのは、日本における税制や法規制に準拠するためだと、中村氏は説明している。

「DAppsにおいては、非中央集権のサービスアプリケーションであるため、DAppsは法的にはどのような存在なのか、その収益はどこの誰に帰属するのか、ガバナンストークンとは何かなど、十分な議論がなされておりません。このような状態のなか、法を遵守したDAppsを日本で立ち上げるのは不可能でした」

そこで前述のような形で、専用子会社を設立し、DAppsを所有する形にし、規制の問題をクリアしていく方針だ。たとえば、DAppsに収益や損失が発生した場合にこれが誰に帰属するのか、誰が納税するのか、DAppsの意思決定に採用されるトークンはガバナンストークンの性格を有するのか、取引のリスク負担や説明責任は誰が負うのかといった課題だ。

「フィスコは、日本の法人がDAppsを所有することで、それらの様々な問題点を解決しつつ、DAppsのイノベーションを十分に活用できるようにいたしました。また、将来的には、非中央集権化することを考えております」

フィスココインの経済圏

これらの取り組みは、フィスココイン(FSCC)の経済圏を拡大することが狙いの1つだ。「デジタル経済の仕組み拡大につなげ、実業を創出していくためのツールにしていきたい」と、中村氏は語る。

今年10月に開発が完了する議決権行使アプリや株主優待アプリについて、まずフィスコを中心にユースケースを作っていく方針だ。フィスコだけでなく、グループ企業や提携先企業などにも協力を求めていくことも検討している。さらにフェーズ2の段階では上記の2つ以外のアプリケーションの開発も進めていく。

このようなユーザーエクスペリエンスの拡張によるネットワーク効果や資金流入効果が、フィスココインの資産価値向上のドライバーとなることも狙いとなっている。

「DAppsからのキャッシュフローがFSCCに流入しつつ、ステーキングによってFSCCに金利の概念も持ち込まれるため、FSCC経済圏の価値向上につながると考えています」