フロリダ州で行われた自称サトシ・ナカモトと故デイブ・クレイマン氏の資産管理人の裁判で、28日、フロリダ州裁判所のマジストレート・レインハート判事が出した判決(Order)書が公開された。ニューヨーク州の弁護士であるダニエル・ケルマン氏は、コインテレグラフ日本版の取材に対し、レインハート判事が「ライト氏がサトシ・ナカモトかどうかを決める立場にはない」と明言したことに注目。市場の懸念材料となっていた約100万のビットコインについても、相場への影響はないだろうという見方を示した。

”サトシ・ナカモトと判断”説は嘘

レインハート判事は、前置きとして次の2つの点で断りを入れた。

まず、裁判所は、被告人のクレイグ・ライト博士がビットコインの創設者であるサトシ・ナカモトかどうかを決定したり、決定しなかったりすることを、求められていない。また、裁判所は、ライト博士が今日どのくらいビットコインを持っているか、決定したり、決定しなかったりすることを、求められていない」

既報の通り、ライト氏は裁判後の独占インタビューで「裁判所がサトシ・ナカモトと認めた」と発言。また、ライト氏に近いコインギークの創業者カルビン・エヤー氏も裁判官は、「クレイグとデイブがサトシだと判断した」と述べていた。

ケルマン氏は、「判事がこうしたツイートを見ていて、間違いを正すためにあえて付け加えたのではないか」とみている。

100万BTCはどうなる?

今回の裁判は、ライト氏と故デイブ・クレイマン氏が2009年~2011年の間に共同でマイニングしたとされる約100万のビットコインの取り分をめぐって争われた。既報の通り、レインハート判事は、その50%は故デイブ・クレイマン氏の資産管理人に所有権があると認めた。これを受けてライト氏は、クレイマン氏側が20億ドル分のビットコインを売るかもしれないと警告していた

ただ、問題は、ライト氏が本当に100万BTCを持っているかどうかだ。ケルマン氏は、次のように述べた。

「ライト氏は、それらのビットコインを持っていない。ライト氏は、信託に預けてあると主張し、アクセスに必要な秘密鍵を持っている管財人に連絡ができないと言っていた。秘密鍵がなければ、ビットコインはない。彼のストーリーを信じるとしても、彼が持っていないことには変わりない」

ケルマン氏によると、100万BTCを50対50で分けるという取り決めは「法律における形式的なもの」だ。ちなみに裁判所は、ライト氏に対してクレイマン氏側の裁判コストを負担するようにも命令している。

レインハート判事は、ライト氏のビットコイン所有に関する主張も完全に拒否している。

「私は、暗号化されたファイルとされるチューリップ信託に関するライト氏の証言とビットコインの保有量を特定できないとする主張を完全に拒否する

チューリップ信託とは、ライト氏とデイブ・クレイマン氏がマイニングしたとされるビットコインが入っているされている信託だ。

そもそも存在しないビットコインが市場に影響を与えることはないだろう。

ケルマン氏は、ライト氏が率いるビットコインSVには影響があるだろうとしつつも、「売却するためのBTCをライト氏が持っていないことをマーケットははっきりと分かっただろう」と述べた。

刑務所行きの可能性も

さらにレインハート判事の判決文の中には、ライト氏にとって厳しい言葉が並んだ。

「ライト博士は、意図的に詐欺的な文書を裁判所に提出し、判決のプロセスを妨げ、証言で偽証した。司法にこれほど反するものはない」

ケルマン氏は、「米連邦裁判所の判事は言葉を慎重に選ぶ」と指摘。「偽証」や「意図的に詐欺的な文書を裁判所に提出」という言葉を使うということは、「事態の深刻さを表している」と解説した。

「言い換えると、クレイグ・ライトは嘘つきで詐欺師ということだ(中略)検察官による捜査がなければ驚くだろう

ケルマン氏は、ライト氏は重罪と見ており、刑務所行きもありえるとみている。

一方、ケルマン氏は、ライト氏が控訴することはできるが、レインハート判事が裁判中に控訴の余地がないように慎重に進めていた形跡が見られると指摘した。また、米国の判決は、ライト氏が住む英国を含めてほとんどの国で効力があると解説。クレイマン氏側がライト氏が他の国に持つ資産を追跡できるようになるとみている。

「もしライト氏がもっと賢ければ、資産をとうの昔に信託に入れてクック諸島のような場所に置いていたはずだ。そうすれば、債権者が到達することはほぼ不可能だ。しかし、レインハート判事がライト氏による信託体制構築の不備を指摘したことから、ライト氏は十分な対策を取らなかったようだ。」

最後にケルマン氏は、連邦政府の判事までがライト氏を嘘つきで詐欺師と呼んだことを受けて、彼の嘘を信じる人がいなくなることを望んでいると話した。

ケルマン氏は、2017年11月に民事再生を求めて東京地裁に申し立てを行い、昨年6月の民事再生決定を勝ち取った立役者の一人。仮想通貨交換業者Oceanex.proの共同創業者でもある。