著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。世界最大級のDEXであるdYdXのガバナンスをサポートしている。
米国では「新たな惑星」への移住が思ったよりも早く進行しているようだ。このうねりは、11月の米大統領選挙に大きな影与を与えるかもしれない。
私は以前のブログで、クリプトの世界は、Web2のプレイヤーが「Web3的な要素」を取り入れて進化するという話ではない。クリプトの世界は、Web2の世界とは非連続的であり、全く新しい世界、全く新しい住民たちのストーリーだという話をした。クリプトとは「進化」ではなく「革命」であり、基本的には既存のシステムに不満を持つ人々によるレジスタンスだ。そしてDAOとは一度も会ったことがないとしても、同じ心を持つ同志であればオンライン上で協業できることを可能にする、いわばレジスタンスの基地だ。
Paradigmが米国在住の1000人の登録済み有権者を調査したところ、実に興味深い結果が出てきた。Paradigmは上記のテーマと主旨が同じ「The Casino on Mars」を書いたVCだ。今回の調査結果によると、米国において「火星」への移住者が増えていることが推察される。
まず、クリプト大統領選挙の結果を左右するほどの争点になるかもしれないという結論は衝撃的だ。実に有権者の19%がクリプトを購入したことがあることが分かった。5分の1は、少ない数字だ。そして、クリプトを購入したことがある層の内訳が実に興味深い。一言で言えば、「現状に多かれ少なかれ不満を持つ層」だ。
有権者の69%が現在の金融システムに不満
現在の金融システムに不満を持つ有権者は7割近くに上った。多くは大手銀行ではない代替的なシステムに向かっている。7割の内訳は、ほぼ全てが共和党支持者やトランプ支持者であることも判明。特に、女性層が大きな不満を持っていることが明らかになった。
参照: Paradigm
少数派の人種による支持
まず若者によるクリプト購入が多い。クリプト保有者の男性のうち18 -54歳が40%を占めた。
また、アフリカ系アメリカ人とヒスパニック系アメリカ人は、クリプト購入ペースを加速させている。2024年現在、クリプトの保有はそれぞれ33%と32%であり、1年前の20%と22%からそれぞれ大幅に増加した。
一方、大学院に進学して修士号や博士号を取得した層によるクリプトの購入率は、たったの13%だった。この層は、現在の経済・金融システムからの恩恵を一番多く受けている層とも言える。
その他、今回の調査ではビットコインETFの認可が入り口となっていること、クリプト保有者はバイデンよりトランプを支持していることなど興味深いことが明らかになった。
ビットコインETFが認可されて以降、6%の有権者がビットコインETFを購入し、6%が購入予定、22%が興味を持っているという結果が出た。また、48%のクリプト保有者がトランプに投票する予定で、バイデンに投票する予定と答えたクリプト保有者は39%にとどまった。13%はどちらに投票するかまだ決めていない。
最近のビットコイン上昇やソラナをはじめとしたミームコイン上昇の背景には、米国人による「Financial Nihilism(虚無主義)」があるという分析もある。
FTX事件で全てを失ったクリプトファンドIkigaiの創業者の分析で、ブーマー世代とミレニアル世代の世代間の格差が大きくなる中、ミレニアル世代はブーマー世代と同じこと(例えば家を買う)をすることが困難になっており、仮にできたとしても同じように富を手にすることができなくなってきている。そんな若者世代が向かう先は、一発逆転の可能性がある「クリプト」だ。特にミームコインは掴めば大きなリターンが期待できることから若者の間で人気であり、今回の強気相場はギャンブル色が一層と出てきているという。
今まで通りの努力をしても報われない。何をやっても世の中は変わらない。そんな若者たちに残された選択肢はクリプトだ。そんなナラティブが確かに米国ではできつつあるようだ。
Financial Nihilism提唱のTravis Klingは、バブルが弾けた時の損失は今までにないほど大きくなるかもしれないとハードランディングを警戒する。確かにその可能性を注視する必要はあるだろう。しかし、現状に不満を持つ人々の新たな惑星への移住は止まらないだろう。
※ 上記はdYdX Community JapanのWeekly DAO Reportを要約・編集したものです。