著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。
「昔からいるDeFiプレイヤーの一部(Uniswapや0x)が、比較的に分散化した状況から比較的に中央集権化の方向性に走り出したのを見るのは面白い。対照的に、比較的に中央集権化した状況から分散化に向けて走り出しているDeFiプレイヤーも一部で存在する(dYdX)」(dYdX創業者 アントニオ・ジュリアーノ )
先週、Uniswapの開発企業であるUniswap Labsが、一部のトークンスワップについて手数料0.15%を徴収すると発表した。この手数料が課せられるのはUniswap Labsが運営するサイト(uniswap.org)における取引に対してだ。株価の価値を上げることが最大の目標であるUniswap Labsが、今後の収益源の確保を目指しビジネスモデルを示すことは、一見、自然なことのように見える。しかし、この発表は賛否両論であり、中には「DAOへの裏切り」という声が出ている。
ちなみに、手数料を導入してから最初の24時間で稼いだ手数料は8万8000ドル。年換算すると3200万ドル(約48億円)だ。弱気相場におけるこの数字は、間違いなく素晴らしいだろう。
Blockworks 「Uniswap Labsのフロントエンドが徴収した手数料」
では、冒頭のdYdX創業者のアントニオの投稿の意図は何だろうか?
実は、現在のdYdXは完全に分散化していないハイブリッド型だ。メタマスクなどウォレットを使ってユーザーが自分自身で資産を管理できるという点では分散型だが、dYdXの要である取引板の管理はdYdX Trading社(UniswapのUniswap Labsに相当)という開発企業が担っており、取引手数料を売上として受け取っている。「dYdXが中央集権的な状況から始まっている」というのは、上記が理由だ。
しかし、まもなくローンチ予定のdYdXチェーン(v4)からdYdXは、完全な分散化への道を歩む。取引板は、dYdX Tradingではなく世界中に散らばるバリデーターによって管理される。そして、v4の手数料は、バリデーターとステーカーに分配される仕組みになる見込みだ。
「dYdXチェーンローンチ後、dYdXのサイトからdYdXトレーディング社が受け取る手数料はゼロだ。その通り、ゼロだ。業界的にも競争力のある手数料を稼ぐのはDYDXトークンホルダーのみであり、彼らが実装するフロントエンドを通してそれが実現される。」(dYdX創業者 アントニオ・ジュリアーノ)
そもそもdYdXトレーディングは、dYdXチェーンローンチ後、取引サイトの運営をしない。では、手数料収入がなくなってdYdXトレーディングはどうやって存続できるのか?以前にアントニオがツイートしたように、dYdXトレーディング社には5年ほどの貯金がある。
さらに、上記の動きを支える上で、dYdX Trading社は、法人格をパブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)に変更すると発表。これにより、「dYdXトレーディングは、株主だけでなく、dYdXトレーディングのプロダクト・サービスに影響を受けるステークホルダーやWeb3コミュニティの関係者など、多くの利害関係者の利益をバランスさせること」ができるようになる。
対照的に、もともと手数料収入を受け取っていなかったUniswap Labsが、ここにきて手数料収入を受け取り持続的なビジネスモデルを構築する方向に舵を切ったというわけだ。
Uniswapは誰のもの? 株主 vs トークン保有者の構図に