著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。
ソフトウェアの開発者=資金の送金業者なのか?
イーサリアム基盤の取引匿名化ミキシングサービス「トルネードキャッシュ」の創設者が米司法省に起訴されたことを受けて、ソフトウェア開発者に対する取締りが厳しくなることを危惧する声が高まっている。
8月23日、米司法省は、トルネードキャッシュの共同創設者であるローマン・ストーム氏とローマン・セミョーノフ氏を起訴したと発表。ストーム氏は米国ワシントン州在住で逮捕されたが、ロシア国籍のセミョーノフ氏は逃亡中だ。司法省はトルネードキャッシュが10億ドル以上の資金洗浄(マネーロンダリング)の手助けとなっており、中には北朝鮮のサイバー犯罪集団「ラザルス」の資金も含まれていると指摘した。
問題となっているのは、トルネードキャッシュが資金送金業をライセンスなしで行っていたという罪だ。ソフトウェア開発者と資金送金業者にはどんな違いがあるのだろうか?米金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)のガイダンスには以下のように書かれている。
匿名化ソフトウェアの提供者は、送金業者ではありません。FinCENの規制では、送金業者が送金サービスをサポートするために使用する「配信、通信、またはネットワークアクセスサービス」のみを提供する者は、送金業者の定義から除外されます。これは、匿名化ソフトウェアのように、送金に利用されるかもしれないツール(通信、ハードウェア、ソフトウェア)の供給者は、取引に従事しているだけで、送金には従事していないためです。
つまりトルネードキャッシュの創業者たちは、ユーザーが資金を送金するためのツールを作っていたかもしれないが、自分達が資金送金業を担っていたわけではないと言える。ユーザーが取引メッセージをスマートコントラクトに送るためのインターフェースのホスティングサービスやGitHubの管理はしていたが、これらの行動は資金送金業には当たらないはずだ 。
今回の件は、マネロンが主題というより、すべてのソフトウェア開発者の自由に対する攻撃と見るべきかもしれない。