著者 Hisashi Oki dYdX Foundation Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

最近の銀行危機のきっかけを作ったの米国政府であり、実は仮想通貨業界を取締まろうとする流れの中で起きたのではないか?一見、陰謀論のように聞こえる上記の説が、業界関係者の間では話題になっている。シルバーゲートとシグネチャー銀行の破綻は、米バイデン政権による政治的な意図を持った介入の成果であり、仮想通貨フレンドリーな銀行を完全に狙い撃ちしたのではないかという説だ。仮想通貨のプロジェクトは、従業員の給与やオペレーションコストの支払いで銀行口座の開設が必要だ。DAO関連の支払いで銀行口座を開設するDAO(正確にはサブDAOやDAO内のプロジェクト)も多い。今回の銀行危機の本質は何かを見極める必要がありそうだ。

上記のバイデン政権の責任論を主張するのはCastle Island Venturesのパートナーであるニック・カーター氏だ。急激な利上げに対応しきれなくなった米銀行システム全体の脆弱性がナラティブの中心(そしてそれは間違いなさそうだが)にある中、別途、仮想通貨関連事業の息の根を止める試みがバイデン政権によって行われたのではないかという分析だ。とりわけ、シルバーゲート銀行とシグネチャー銀行は、強制的に破綻に追い込まれて強制的にFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれたという。

「両銀行は『自殺』をしたのではなく『処刑』された」というわけだ。

今年の米国における主な仮想通貨規制を見てみよう。

  • SEC(米証券取引委員会)がパクソスに対してステーブルコインBUSDの発行停止を求めて訴訟。
  • SECが取引所クラーケンとステーキング停止で合意
  • SECのゲンスラー委員長がビットコイン以外はセキュリティ(証券)と発言。
  • ニューヨーク司法長官がイーサリアムについて証券と宣言。
  • SECが取引所コインベースに対して今後の取締りの意図を示すウェルズノートを送付。
  • ホワイトハウスは仮想通貨について複数の問題点を指摘したレポートを公開。

米バイデン政権による仮想通貨に対するスタンスは、少し前までのニュートラルからネガティブへと確かに変わってきているようだ。

こうした背景の中で、シルバーゲートとシグネチャー銀行の問題を捉える必要がある。とりわけ、シグネチャー銀行に対する仕打ちは酷かった。2022年末時点で預金額は1100億ドル存在し、約20%が仮想通貨関連プロジェクトからの預金だったが、3月12日の日曜日、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって突如FDICの管理下に送られた。まだ、営業を続けられる体力があったにも拘らずだ。

利上げの影響は銀行にとってもちろん逆風だ。しかし、シグネチャー銀行と同時期に苦しんでいたファースト・リパブリック銀行は、建て直しに向けてより多くの時間を与えられたという。同社の株価は87%も下がっているにも拘らずだ。単純に両者の命運を分けたのは、仮想通貨と付き合いがあるかどうかだ。

ちなみに、シグネチャー銀行のライフラインとなっていた連邦住宅貸付銀行(FHLB)制度に苦言を呈し、実質的に停止に追いやったのは、民主党のプログレッシブ系議員として知られるエリザベス・ウォーレン議員らだ。その後3月16日、ロイター通信は、シグネチャー銀行の買収先は仮想通貨関連ビジネスを除外しなければならないと報じた。

シルバーゲートとシグネチャー銀行は、仮想通貨関連企業が銀行口座を開けられる上で重宝していた数少ない銀行だ。今後困るのは、仮想通貨プロジェクトだろう。どこで銀行口座を開いて給与や経費の支払いを行えば良いのか?米銀行は、仮想通貨関連事業の預金割合を全体の15%にしないといけないという。それに加えて、米政府からの圧力が高まる中、銀行による仮想通貨プロジェクトの選別が進むだろう。その時、苦しむのは、スタートアップ系やまだ規模が小さいプロジェクト、そしてプロフェッショナル化が始まったばかりのDAOプロジェクトだろう。米政治の動向には警戒が必要だ。

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