「1円って送ります?」

 21日に行われたHashHub Conference 2018の特別Tech Trackにおいて、フロンティアパートナーズ合同会社・代表CEOの今井崇也氏が聴衆に問いかけた。

「100円とか1000円とかをライトニングネットワーク上で送れるようになるケースってあると思うんですけど…

僕は見たことがないんですけど、1円を送っている人。遠隔にいる人に1円玉送るかな?」

 今井氏は、ライトニングネットワークを含むセカンドレイヤーやオフチェーン技術の現状についてプレゼンをした後、質問に答える形で上記のような問いかけをした。

 ライトニングネットワークは、ビットコイン(BTC)のスケーラビリティー問題や手数料高騰問題を解決し、マイクロペイメント(小額決済)を可能にする目的で開発中の技術。ビットコインのブロックチェーンネットワーク外に構築される決済ネットワークで、オフチェーンやセカンドレイヤー技術とも言われる。オンチェーンにおけるマイナーの承認を待たずして決済ができるため、取引にかかる時間が短いことも特徴の一つだ。

 今井氏は、新潟大学の大学院で素粒子理論物理の博士号を取得した後、カカクコムで検索エンジン開発を手がけた経験を持つ。上記の問いかけをした後に次のように続けた。

「ライトニングの一番面白いところは少額決済だが、人間が使うものではなく、機械が使うものだと思っている」

 今井氏は、自動車間の通信を例に挙げて、渋滞などを自動調整することで車や機械がお金を稼げる仕組みとしてライトニング技術が普及するのではないかと予想した。

 確かに1円を送る人間は見たことがないし、1円でモノやサービスを購入する人もあまり見たことがない。それが我々が知っている法定通貨での決済が大半を占める経済の常識だ。しかし、今後はどうだろうか?法定通貨では測れなかった価値が認められる時代が来る可能性はないのだろうか?つまり法定通貨に換算すると1円(もしくはそれ未満)であったとしても、価値がつく可能性だ。そして、ライトニングネットワークでの少額送金は、そんな時代にうってつけの仕組みと考えられないだろうか?

 そんな法定通貨では価値が計れない「見えざる経済」について語ったのは、HashHub Conference 2018で最後に講演した大石哲之氏だ。

 大石氏は、2013年よりフルタイムでビットコインおよび仮想通貨の事業に関わっていて、日本デジタルマネー協会理事や日本ブロックチェーン協会のアドバイザーを務めるほか、エンジェル投資家としても活動している。現在の「法定通貨」とその取引システム(銀行)は、「見えざる経済」を媒介できていないと主張した上で、よくある決済手段としてのビットコインに対する批判について次のように述べた。

「コーヒーをビットコインで買ったら値段より手数料が高くついたという話を聞くが、コーヒーを買うために仮想通貨があるわけではない」

 コーヒーは、現在の経済でその価値がすでに認められている商品だ。大石氏によれば、仮想通貨はそうしたすでに価値が発見されている商品やサービスで本領を発揮するものではない。逆にまだ価値が見出されていない「見えざる経済」で使われるようになるという。大石氏は、例えばSNS上のいいねやレピュテーションの視覚化、ビッグデータ提供などのほか、いわゆるSNS上での意味不明な返信である「くそリプ」にすら価値がつくような時代が来るかもしれないと話す。それらには法定通貨で換算して一円の価値もつかないケースがあるかもしれないが、世界中からインターネットを通して購入が殺到すれば大きな市場になる可能性を秘めている。

 ライトニングネットワークは、人間が使うものなのか?

 今井氏の言うように、現状の経済では1円での売買は盛んではない。確かに生活をする上で人間にとってマイクロペイメントが必要な状況は、まだ生まれていないだろう。だからライトニングネットワークは、機械同士のやりとりに使われる技術になるのかもしれない。ただ我々消費者が今後「見えざる経済」の可能性に気づいて、そこで経済活動を頻繁に行うようになれば話は別だ。その時は、人間にとっての支払い手段としてライトニングネットワークが必要不可欠になるかもしれない。問われているのは、法定通貨では価値を見出されない経済活動が数多く出現するかどうかではないかだろうか。

 現在、ライトニングネットワーク上のアプリ、LApps(ラップス)は100種ほどあると言われている。世界中の人々が書いたアート作品などコンテンツをライトニングネットワークを使って少額で購入できるFileBazaarやライトニングネットワークを使ってチップを払えるLightningTipなど「見えざる経済」に触れるようなアプリも出てきており、今後の展開に注目だ。