人工知能(AI)が急速に経済の各セクターに進出しているが、これらAIを動かすためのコンピューティングリソースの需要が急増している。

チャットGPTのような大規模言語モデルの訓練には大金がかかり、チャットGPTデモの初期段階運用コストは1日あたり10万ドルほどだった。

そして、AIはテキスト生成だけでなく、多くの業界での実用的な問題解決にも使われている。医療、金融、顧客情報、地理空間データなど、さまざまなデータタイプに対応する大規模なニューラルモデルが必要とされている。現在のニューラルネットAIの制約を超えて、より高度な人工知能に進化することは、さらに計算負荷が増えることが確実だ。

こうした背景から、仮想通貨マイナーたちの一部は自らのコンピューティングインフラを使ってAI革命を推進するために活用する方法を模索している。

ビットコイン(BTC)マイニングは依然として収益性の高いビジネスだ。また他の仮想通貨のマイニングもまだ利益を上げられるが、そういった状況も急速に変化する場合が多い。例えば、ETHマイナーは、昨年末にイーサリアムネットワークがプルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークに移行した際に大打撃を受けた。

こういった状況は仮想通貨マイナーたちがAIを含む高性能コンピューティングなどの目的に計算力を活用する可能性を探る動機を増大させている。

高性能コンピューティング(HPC)やAI処理に必要な特定のコンピューティングハードウェアは、仮想通貨マイニングに最適なものとは異なることが多い。しかし、サーバーを購入することは、マイニングファームを設立する際の最も困難な部分ではない。電力、冷却、セキュリティなどの物理的インフラを整えることが大きなコストと労力を伴う。その大変さは、ETHマイニングに適したRAM容量の少ないGPUを使う場合でも、AIモデル学習に適したRAM容量の多いGPUをホストする場合でも、ほぼ同じである。

マイニング企業Hut 8が先陣を切り、かつてマイニング専用だったコンピューティング施設を機械学習やその他のHPCアプリケーションに活用するようになった。Hive Blockchainも同様の取り組みを行っており、サーバーには「クラウドコンピューティングやAIアプリケーション、エンジニアリングアプリケーションのレンダリング、流体力学の科学的モデリングなどに使用できるプロセッサカード」を搭載している。

マイニング企業Hut 8の株価推移 2022年2月~2023年3月

ただ最も面白い展開は、仮想通貨マイナーたちがAIにコンピューティングリソースをシフトし、分散型ブロックチェーンベースのネットワークでホストされるAIプロセスを実行することだ。

これは既にFetch.ai(FET)、Ocean(OCEAN)、Matrix AI Network(MAN)、Cortex(CTXC)、そして筆者自身のプロジェクトであるSingularityNET(AGIX)や、関連するNuNet(NTX)、HyperCycleなどのAIプロジェクトによって提供されている。

AI関連のアルトコインは2023年の前半に好調であり、分散型AIソフトウェアの可能性が市場で理解されるにつれて、さらに上昇している。

ビットコインのホワイトペーパーが登場する前から、分散型コンピューティング、強力な暗号化、分散型制御の融合は金融分野を超えて幅広い応用があることが明らかであった。

このため、医療、サプライチェーン、ゲーム、ロボティクスなど、ほぼすべての業界にブロックチェーンプロジェクトが存在している。これらのビジネス領域がAIによって支配されるようになるにつれ、AIのソフトウェアとハードウェア基盤を分散化することが、世界経済を分散化するための重要な側面となる。AI向けのコンピューティングハードウェアの一部を、AI関連の暗号通貨ネットワークで包括したAI処理の実行に転用することは、ますます今後のテーマの一部となるだろう。

世界のAI処理のかなりの部分が仮想通貨マイニング施設で行われるようになると金融以外の産業分野に大きなインパクトがでるだろう。仮想通貨マイニング機器はさまざまな法域に基づいており、さまざまな当事者が所有している。仮想通貨マイニングリグをまたいだグローバルな分散型AIネットワークは、ビッグテックが所有するサーバーファーム(現在のAIのデフォルト)を中心としたAIネットワークよりも、政府やその他の当事者による中央集権的な制御が困難である。

これがAIの倫理面で良いか悪いかは、あなたがビッグテックや大手政府の行動原理や倫理性をどう評価することによって決まるだろう。

ベン・ゲーツェル(Ben Goertzel )は、シンギュラリティネットのCEO兼創設者で、人工知能総合研究所の会長を務めている。彼は、研究科学者としてハンソン・ロボティクスのチーフサイエンティストをはじめとするいくつかの組織で働いており、そこでソフィアというロボットを共同開発した。彼は以前、機械知能研究所の研究ディレクターや、AIソフトウェア企業ノヴァメンテのチーフサイエンティスト兼会長、オープンコグ基金の会長を務めていた。彼はテンプル大学で数学の博士号を取得している。

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