仮想通貨(暗号資産)取引で億単位で利益を得る人(億り人)が続出するなどのニュースにより、仮想通貨取引にも税金がかかることは何となく知っている人も多いだろう。国税庁は2020年12月、「仮想通貨に関する税務上の取扱いおよび計算書について」と題する解説を発表した。

仮想通貨取引を現在行っている人だけでなく、これから始めようと考えている人でもわかるように、税金の計算方法やルールなど基本知識をわかりやすく解説する。

仮想通貨取引で20万円以上稼いだら確定申告が必要

仮想通貨取引で利益を得た場合、1月〜12月までの1年間における収支が20万円以下の場合は原則として確定申告を行なわなくてもよい。

国税庁のHPより、「給与を1カ所から受けていて、その給与の全部について源泉徴収される人で給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下である人等、一定の場合には確定申告をしなくてもよい。」とされているからだ。

仮想通貨投資は株式投資やFXとは異なり、証券会社が確定申告をしてくれる特定口座がないことから、仮想通貨取引で20万円以上の収支を得た場合は自身で確定申告を行う必要がある。
 

仮想通貨にかかる税金の特徴

まず理解しておきたい点は、仮想通貨取引における税金の種類は10種類ある所得税の種類のなかで「雑所得」として扱われるという点だ。副業でアフィリエイトやメルカリなどのフリーマケットアプリを使った転売やをやっている場合も、利利益があれば雑所得として分類されるため、仮想通貨取引にこれら全ての利益を合算し、年間で20万円以上になれば確定申告が必要になる。

雑所得への課税方法は、総合課税・累進課税であり、給与所得と合算した金額によって税率がきまる。各種所得額が増えるほど税率が高くなる。

仮想通貨取引で注意したいのは、株取引における「譲渡所得(取引で得た利益と損失)」とは異なり、損失の繰越控除ができないことだ。株取引では損失を出しても、その損失分を向こう3年間の利益から差し引いて所得を計算することが可能だが、仮想通貨取引ではできない。

ただし、仮想通貨の取引を事業規模で継続して行っている場合は事業所得して扱うため、一定の要件を満たす場合には損失を繰り越すことが可能だ。
 

仮想通貨の損益発生のタイミング

仮想通貨取引の所得はどのように計算したら良いのか。損益が発生するタイミングは大きく7つある。

  • 仮想通貨を売却したとき(購入・保有しただけでは発生しない)
  • 仮想通貨で商品を購入したとき
  • 仮想通貨同士の交換を行ったとき
  • 仮想通貨をマイニングにより取得したとき
  • DeFiなどでステーキングにより仮想通貨を取得したとき
  • エアドロップで仮想通貨を取得したとき
  • ハードフォークで仮想通貨を取得したとき

以上の7項目だ。仮想通貨取引の計算方法は国税庁が定めた「移動平均法」もしくは「総平均法」のうちどちらかにしたがって計算を行うことになるが、どちらの計算式でもよいとされている。

移動平均法とは、仮想通貨の取得単価を仮想通貨を購入するたびに毎回計算を行う方法だ。国税庁は取得単価を正確に求めることができるという点から、移動平均法を推奨しているが、取引の頻度が多い短期トレーダーのような場合は計算の手間があまりに大きく、作業が負担となってしまう可能性がある。

一方の総平均法は、基準期間全体の購入金額から取得単価を計算するので、多くの個人投資家におすすめできる。ただし基準期間を定めるという特徴から、設定した基準期間が終了しなければ取得単価がわからないというデメリットがある。

先述したとおり、国税庁は正確に仮想通貨の取引を記録できることから「移動平均法」での計算を推奨しているが、計算が非常にややこしいため、仮想通貨取引を継続して行うことを要件に「総平均法」を用いてもよいとしている。単年度だけ見ると両者には所得金額に違いが出る場合もあるが、最終的に全ての仮想通貨を売却した際は同額になるので、どちらか一方が得をするということはない。なお仮想通貨を購入する際に支払った購入時手数料については、仮想通貨の取得価額に加算して計算する。

各取引所より年間取引報告書をダウンロードできるので、マイニング等で収益を得ることがない人は、国税庁HPに掲載されている「暗号資産の計算書(総平均法用)」に入力することで所得金額を計算できる。このほか、仮想通貨税金事務所のクリプタクトエアリアル・パートナーズも損益計算ソフトを提供している。

bitflyerの年間取引報告書(上)と国税庁提供の計算書(下) 

取引の具体例をもとに仮想通貨所得の計算式を解説

ここからは仮想通貨取引の具体的な例を用いて、損益が発生するタイミングを解説する。計算方法は総平均法を用いる。また取引において仮想通貨の売買手数料については勘定していない。

仮想通貨を売却したとき

4月2日に10万円で0.1BTC(1BTC=100万円)を購入して、4月20日に0.02BTCを2万1000円で売却したときの所得金額は以下の計算式を用いて計算する。

譲渡価額−(1BTC当たりの価額×売却した数量)=所得金額

上記の計算式より所得金額は、
2万1000円−(100万円×0.02BTC)=1000円
となる。

保有する仮想通貨を売却した場合の所得金額(利益)は、その仮想通貨の譲渡価額とその仮想通貨の譲渡原価等との差額となる。なお譲渡価額とは商品を売却した際の価額のことをいい、譲渡原価とは商品を購入した際の原価のことをいう。

仮想通貨で商品を購入したとき

4月2日に10万円で0.1BTC(1BTC=100万円)を購入して、10月5日に4万3000円の商品を購入する際の決済に0.03BTCを支払った。この場合の所得金額は以下の計算式を用いて計算する。

商品価額(=ビットコインの譲渡価額)−(1BTC当たりの価額×支払った数量)=所得金額

上記の計算式より所得金額は、
4万3000円−(100万円×0.03BTC)=1万3000円
となる。

保有する仮想通貨で商品を購入した場合、保有する仮想通貨を譲渡したことになるので、この譲渡に係る所得金額は、その仮想通貨の譲渡価額とその仮想通貨の譲渡原価との差額となる。

仮想通貨同士の交換を行ったとき

4月2日に10万円で0.1BTC(1BTC=100万円)を購入して、11月2日に4ETH(1ETH=2万円)を購入する際の決済に0.1BTCを支払った。

ETHの購入価額(=ビットコインの譲渡価額)−(1BTC当たりの価額×支払った数量)=所得金額

上記の計算式より所得金額は、
(2万円×4ETH)−(100万円×0.1BTC)=−2万円
となる。

保有する仮想通貨Aを他の仮想通貨Bと交換した場合、仮想通貨Aで仮想通貨Bを購入したことになるので、先ほどの「仮想通貨で商品を購入したとき」と同様に、仮想通貨Aの譲渡に係る所得金額を計算する必要がある。

仮想通貨をマイニングにより取得したとき

マイニングにより仮想通貨を取得したときも、所得税または法人税の課税対象となる。なおマイニングに要した費用(マイニング機の購入費や電気代)についても他の仮想通貨と同様に所得金額の計算上必要経費に算入できる。

マイニングの計算で注意が必要なのは、

・マイニングしたビットコインを受け取った時点
・マイニングしたビットコインを売却した時点

が課税対象となることだ。そのため、売却益を得た場合はこの2つを合わせた額を申告する必要がある。例えば、1BTC=100万円の時に、0.1BTCをマイニングしたら10万円が収益となる。さらに1BTC=120万円に値上がりした時に、その0.1BTCを売却した場合、12万円(値上がり後)-10万円(取得時点の価格)=2万円が売却益となる。マイニング時の収益である10万円と売却益の2万円を合わせた、計12万円から経費(電気代など)を引いたものが課税対象になる。

DeFiなどでステーキングにより仮想通貨を取得したとき

国内の仮想通貨取引所で、一部銘柄のステーキングサービスを提供している。また分散型金融(DeFi)のコンパウンドで利息を得たり、分散型取引所(DEX)ユニスワップに資金をプールし、預入時と引出時で通貨比率に差が出たりしている人もいるだろう。しかし、国税庁は21年1月時点でこれらに対する明確なルールを発表していない。クリプタクトは暫定的な計算方法を解説しているのでこちらを参照してほしい。

エアドロップで仮想通貨を取得したとき

XRP保有者にSparkトークンが、クアンタム(QTUM)保有者にQiSwaplトークンがエアドロップされる予定だ。このようなエアドロップにより新たな仮想通貨を取得したときは、その通貨にすでに価格がついているか(取引所等で売買されているか)否かで計算が異なる。

・仮想通貨を入手した時点で価格がついているとき
取得した時点の時価で所得と認識する。例えば、仮想通貨A(=1万円)をエアドロップで取得し、その後1万2000円に値上がりした時に売却した場合の所得金額の計算式は以下だ。
取得価額1万円+売却益2000円 {1万2000円(譲渡価額)-1万円(譲渡原価)}=1万2000円

マイニングと同様、仮想通貨を取得した時点と売却した時点の2回所得の計算を行う。

・入手した時点で価格がついていないとき
エアドロップされた通貨が未上場の場合、取得価額は0円だ。しかし、売却した時はその価格がそのまま所得金額となる。

ハードフォークで仮想通貨を取得したとき

ハードフォークで新たな仮想通貨を取得した時は、市場価値がまだついていないため取得価額は0円だ。しかし、この通貨を売却した時はその価格がそのまま所得金額となる。


所得税の速算表(累進課税表)をもとに所得税を計算する

仮想通貨取引の所得がわかったら、給与所得と合算していくら納税すれば良いか計算しよう。以下の図は、所得金額に応じた税率の一覧だ。所得金額194万9000円までの税率5%が最も低く、所得金額4000万円以上の45%が最も高い税率となっている。

納税額の計算方法

納税額を計算する際は、会社に勤めている場合は「源泉徴収票」と取引所が発行する「年間取引報告書」を手元において計算するとよい。

では仮に、給与所得600万円(控除を差し引いた後の金額)のAさんが仮想通貨を売却した際に40万円の利益を得たとき、実際に納税すべき金額はいくらだろうか。

課税される所得金額は「給与所得」と「雑所得」を合算するため、下記のようになる。

600万円(給与所得)+40万円(雑所得)=640万円(課税総所得金額)

続いて、課税所得金額が640万円の税率と控除額を参照すると、税率が20%、控除額が42万7500円となっていることから下記の計算式を用いて計算する。

640万円(課税総所得金額)×20%(税率)−42万7500円(控除額)=50万7500円(納税額)

よって、納税額は50万7500円となる。なお住宅ローン控除等の税額控除がある場合は、納税額から一定の計算式により計算した控除額を直接控除することができる。その後、源泉徴収がある場合はその金額を参照して、源泉徴収額が納税額より多い場合は税金の還付を受けることができるが、源泉徴収額が納税額より少ない場合は追加で納税が必要になる。

仮に源泉徴収額が60万円だとすると、納税額(50万7500円)より9万2500円多いので、9万2500円の還付を受けることができる。一方で源泉徴収額が50万円と仮定した場合、納税額(50万7500円)より7500円少ないので、7500円を追加で納税する必要がある。


確定申告に必要な書類と方法

確定申告を行う際に必要な書類は以下のとおり。

  • 確定申告書類(e-taxの場合は不要)
  • 源泉徴収票(会社員の場合)
  • マイナンバー確認書類
  • 仮想通貨取引における年間取引報告書

源泉徴収票に記載されている「給与所得控除後の金額」や「所得控除の額の合計額」等を見ながら、記入していくとよいだろう。


出所:国税庁

なお、住民基本台帳カード(住基カード)やマイナンバーカードを持っている場合は、税務署へ行かなくてもPCやスマートフォンから確定申告ができる。


仮想通貨取引の申告漏れはばれない? 納税しないとどうなる?

税金逃れはばれる

仮想通貨取引所は、国税庁から情報公開を求められれば取引データを渡すと考えられるため、基本的には税金逃れはばれると考えた方が良い。2021年より、取引業者に対するマイナンバー確認書類の提出が義務付けられた。これにより、今まで仮想通貨取引によって利益を得ているにもかかわらず申告をしていない又は申告の漏れがある人については、国税庁からの監査があるかもしれない。

また海外の取引所を利用している場合も同様で、国税庁は租税条約等に基づく情報交換により、海外の税務当局より情報提供を要請することができる。日本の金融機関や取引所から、海外の取引所へ送金した履歴が残っていることから、申告漏れが疑われる可能性がある。

確定申告をしないと「延滞税」もしくは「無申告加算税」が課される

所得税法では、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行うことで所得税を納付することが義務付けられている。(※新型コロナウイルスの影響により2020年分は4月15日まで延長)

しかし、定められた期限を過ぎても申告しなかった場合は「無申告加算税」が納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額が加算されることになる。確定申告をしなくてもどうせばれないと思っているかもしれないが、ばれた際にペナルティーがあることから、納めるべき税額をきちんと納税することをおすすめする。

税金を節約するには

仮想通貨取引にかかる税金を少なくするためには、

  • 取引にかかった売買手数料等の費用を計上する
  • 年間の雑所得が20万円以下になるように取引を調整する
  • 損失が出ている場合は同年度内に含み益のある通貨を売却して損失をゼロに近づける(翌年度の税金が相対的に低くなる)

などが簡単に実践できる方法だ。仮想通貨取引に直接関わる部分に加え、所得控除の対象となる一般的な節税術「ふるさと納税」「確定拠出年金(iDeCo)」「不動産投資」を取り入れるとさらによい。また、取引で得た利益が多額の場合は法人化するのもありだろう。法人化するためにある程度の費用が必要になるが、仮想通貨取引にかかった手数料だけでなく、事業を運営するために必要な経費を計上することができるようになる。

2020年分の確定申告期間は21年2月16日(火)〜4月15日(木)となっている。

【修正】2月8日、確定申告期間を修正しました。