11月14日、Gemini社社員により、数時間前に行われた取引に対して取引の取り消しが行われた。  11月20には、今回の取引によって影響を受けたユーザーの一人である、Mike Miescke氏からコインテレグラフ宛てに非常に動揺したメールが届いた。

当問題の全貌を把握にするのに、コインテレグラフの記者により約2週間費やしている。以下がその内容だ。

 

事の発端

 

事の発端は、11月13日、取引の限度額を1 BTC辺り2,200ドルまで引き上げてマイク氏がビットコインの多額の売りの成行注文をオーダーしたことから始まる。平均売買代金はその当時、上下平均して340ドル周りに設定されていたので、極めて異例の取引額だったことが伺える。

その取引によって、マイク氏はビットコインが売れるごとに約6 BTCも得ていた計算になる。

買い手が打ち間違えたのだろうか?またはマウスボタンを間違えてクリックしてしまったのだろうか?原因は知る由もないが、マイク氏のせいではないことは確実だ。

取引は実際に行われてしまい、システムにも異常はなかったため問題は何もないように見えた。

言い換えれば、それは完全に買い手側のミスだったのだ―とGemini社のエグゼクティブたちは後に述べている。

それにもかかわらず、数時間後に、取引の取り消しが行われたのだ。

 

Gemini社のライセンス条件と会社側の対応の不一致

 

Gemini社のライセンス条件が記載されたドキュメントによれば、そのようなことはできるはずがない、とマイク氏は述べている。

事実、取引が行われたということは、買い手には十分なファンドがあったということであり、システムチェックによって、異常な取引としてエラーの検査にも引っかからなかったことを意味している。

マイク氏はライセンス条件について以下のように語っている。

 

“もし、彼らが、エラーが検知されず承認されてしまうような異常なオーダーを出したのだとしたら、スタッフが追加確認をする前に即座にフラグが付与されて実行されてしまうのだろう、とユーザーは考えると思います。こういったことが起こってしまうということにより、ユーザーは不意に桁を多く注文してしまうようなアクシデントが起こらないように、2,200ドルの取引をする際は制限がかかるようにして欲しい、と望むでしょう。この取引によってビットコインを買い占めてしまう可能性がありましたし、金額や取引の種類に関わらず、Gemini社はきちんとコンプライアンスチェックが自動的に行われるようにすべきでしたし、現在の取引の値が異常な値を示していてある範疇を超えている、と考えられるような、ユーザーにとって’未決定’、’不明’”であるパーセンテージのしきい値は審議されるべきでした。Gemini社のライセンス条件にはリバーサルによる取引は限定的な取引だ、とは書かれていませんし、いずれの当事者も一切の責任を負う必要がないような記述がされています。”

 

 

公的報告書上で、マイク氏は時系列上にヘルプデスクとのやり取りなども含めた取引や取引にまつわる出来事を詳細に説明している。どんなに待っても”署名済み”のEメールは誰からも来なかったという事実―彼は”Gemini社内における重役ではない誰か”と確かにやり取りをしていたはずなのだが、結果としてまるで亡霊と喋っていたのかのような有様だ。つまりこれはGemini社の”防御策”のようなものだったのだと言える。しかし誰にも未来の失敗を予測して非難することはできないのだ。マイク氏は、Gemini社からのそのメールには、全てユーザー側のエラーによるものだ、と記載されている点についても言及しているが、ライセンス条件の内容の中に、こういった場合に取るGemini社の対応については一切記載がされていない。

 

“ここのチームしか取引の取り消しについて言及していません。(万一システムが誤動作した時などの対策チーム)取引をしていた際に、Gemini社の取引メカニズムやエンジンが、誤動作、混乱、ラグなどを引き起きすようなことは一切ありませんでしたし、注文金額が2,200ドルまで膨れ上がった原因が、”顧客側のエラーによるものだ”とGemini社の返答メールには書かれていたのです。

“深刻な影響”を取引に与えていても、Gemini社側の今回のこの対応を許容する人もいたかもしれません。あるいは、彼らはSECの規則を遵守しなければならないので、”株式市場においては、常に取引の取り消しは起こっている”のだということかもしれません。しかし、こういった場合の取引の取り消しや、誤った取引に関する言及がされたドキュメントは一切見つけることが出来なかったのです”

 

ライセンス条件に記載されている内容の中に、Gemini社が取引を取り消して良い、という記載は一切含まれていない。社がドキュメントの内容を今後更新する可能性はあるにせよ、マイク氏は今回の場合、間違った主張はしていないはずである。

 

専門家の意見

 

問題を深く掘り下げるために、我々はEULA、ライセンス条件などのソフトウェアに関する問題の専門家で、ロンドンにその居を構えるシェリダンス法律事務所に所属する司法書士、Stefano Debolini氏にコンタクトを取ったのだが、問題はそう簡単なものではなさそうだ―

 

“確かに複雑な問題です。まず、他に言及している方がいるように、問題を露見するに十分ではなく、いくつもの責任問題に関する例外があります。実際問題として、もしそうでなければ、契約違反にあたりますし、他のクレームにもつながる可能性があります。また、ミスであることが明確で、認識可能且つ速やかに利用できるものであれば、法的に介入し、契約を無効かすることは可能です。例えば、売り手が重量ではなくアイテム毎に注文してしまったケースがありました。スタッフが値段をまぜこぜにしてしまっていたため、裁判所は、その取引を支持しませんでした。しかし、今回のケースはそれとは少し違ったものですし、取引相手ではなく、プラットフォーマーが故障しているのかどうかという問題です。ですが、取引の取り消しが行われた可能性は間違いなくあります。(以上のことが今回のケースに必ずしも適用されるとは限りませんし、明確かどうかはわかりませんが)”

 

加えて、国際法の存在が、問題をさらに複雑化しているようだ―

 

“法律は、国家間だけでなく、州によっても異なります。どの出来事もそういった文脈に基づいて判断される必要があります。特にフィナンシャルサービスや規制産業に関していえば、心にとめておかなければならない専門的な規制の例は数多くあります。それに関してここでしっかりとした意見を述べることはできません。ただ、はっきりしているのは、こういった事例は評判に影響するということです。取引の取り消しに関して、Gemini社のユーザー規約書がはっきりしていない、と問題提起する人がいる一方で、きちんと分別があり洗練されたユーザーであれば、こういったエラーに気づいて、そのような多額の取引が正常になされるわけなどない、と判断ができるはずだ、と考える人もいるでしょう。いずれにせよ、ブランドにダメージを与える可能性がありますし、長い目で見れば、プラットフォーム上できちんと透明性を保ち、信頼を回復するチャンスになるかもしれませんし、そういった問題を白日の元にさらす機会に繋がるかもしれません。究極的に言えば、ビジネスというのはそういった’期待’をいかにマネージメントするかにかかってきます。私個人の意見としては、こういった事例の場合、ユーザーポリシーに関連する事柄に明示的に言及するのはリスクだとは思います”

 

少なくともGemini社のライセンス条件は未だ不透明で不完全なもののようだ。

 

放置状態

 

我々はGemini社にEメールでコンタクトを取り、今回の件について意見を伺った。代理人の一人から返信が届いたが、それから一週間以上待っていて催促もしたのだが、それ以後音沙汰はない状態だ。

マイク氏の話とこの数日間の沈黙から察するに、Gemini社職員は相当忙しいのか、またはあまり親切に人を扱う気がないのか、それとも日々の仕事で疲れ切ってしまいっているのかのいずれかなのだろう。

とにもかくにも、マイク氏の問題にまつわる問題や、最終的にどういった処置がなされるのか、等の法的手続きの話はさておき、重要なのはモラルの問題だ―買い手側のエラーだったとしたら、ユーザーがリバーサルによる取引を許可するなどということが有り得るのだろうか?

別の見方をすれば、システムに対してそういったトリックを仕掛け、”ゲーム”のように弄ぶ人々を止める手段が一切存在しないということになるのではないだろうか。しかもそれは完全に合法なものとして認められてしまうのだ。

取引においては、結局最もずる賢い人間が得をするということになる―マウスを持っている手が一度すべってしまえば、全ての責任を自分のせいだ、と押し付けられ、ユーザーが全て背負い込まなければならないのだ。