日銀は19日、中央銀行デジタル通貨に関する論文を公表し、匿名性や金融政策、民間銀行への影響など様々な項目でメリット・デメリットについて考察した。

「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」と題されたワーキングペーパーでは、主に現在の銀行券と同様に「一般の人々が日常取引に広く使える」ケースとしてのデジタル通貨を想定。現在、中央銀行口座の保有者は銀行などに限定されているが、それを広く一般の人々に開放し「1年365日、1日24時間稼働させる」場合についての効果について考察した。

仮想通貨に関しては、中央銀行デジタル通貨への注目が集まる一つの背景と紹介しつつも、中央銀行デジタルの発行で「デジタル支払い決済手段」としてあえて仮想通貨を入手するニーズは減り、投機も抑制できるのではないかという主張があると述べた。

なお日銀は、ワーキングペーパーシリーズについて「日本銀行の公式見解を示すものではない」と述べている。

匿名性

現在、現金は保有者は誰かといった情報やデータが把握できず、匿名性を有していると言われる。しかし、キャッシュレス化が進むにつれて、マネーの発行体に「誰が、いつ、どこで、何を買ったか」といった情報やデータが把握されてしまうのではないかという懸念が出ている。

ワーキングペーパーでは、中央銀行のデジタル通貨に「分散型の技術や暗号技術を応用することで、銀行券と類似の匿名性をデジタル・ベースで実現できるのではないかという期待もある」と指摘。スウェーデンの中央銀行(リスクバンク)のe-kronaを例に出し、「中央銀行口座を介さず、利用者のスマートフォンアプリやICカードなどに残高を格納し、この間で残高を直接やりとりができるような『トークン型』」について言及し、トークンを格納するウォレットへの暗号技術の応用などを通じて、「一定の匿名性」を確保することも可能と考えられると解説した。

ちなみにもう一つの「口座型」は、「中央銀行にある口座の残高を移転する」形をとる場合を指し、「帳簿管理者としての中央銀行が信頼されている以上、敢えてブロックチェーンや分散型大腸技術などを採用する必要性は乏しい」と指摘した。

現在、欧米を中心にプライバシーへの意識が高まっている。

イギリスの歴史家ニアール・ファーガソン氏は、先日、米ハイテク大手のフェイスブックやアマゾン、グーグルが主導で構築するデジタルマネーに対して、プライバシーの観点から危機感を示した。

「私の悪夢は、アマゾンやグーグル、フェイスブックが非常に人気のあるデジタル・ドルを発行し、そしてそれを使った取引すべてがプラットフォームのビッグデータ /AIシステムによって監視されるというものだ。そしてそれはかなりの程度、実際に起こり得るだろう」

中央銀行が発行するデジタル通貨が、どの程度利用者のプライバシーや匿名性を守れるのか、今後、注目されることになるだろう。

金融政策への影響

またワーキングペーパーは、マイナス金融政策への影響についても解説。概念的には「中銀当座預金金利がプラスの場合には中央銀行デジタル通貨への付利は行わないが、中央銀行当座預金金利がマイナスの場合には中央銀行デジタル通貨の金利もマイナスとする」といった設計も想定し得ると指摘した。

ただ、マイナス金利を中央銀行デジタル通貨に課した場合、銀行券が残り続ける以上、そこに資金がシフトする可能性があることやそもそも人々からの中央銀行への信認低下につながるのではないかといった見方を紹介した。

先日、コインテレグラフ日本版のインタビューに答えた参議院議員(日本維新の会)の藤巻健史氏は、マイナス金利政策の効果を見込んで日銀デジタルの必要性について言及した。日銀の当座預金の金利をマイナスにすることで、預金者もマイナス金利を払わなければならなくなる一方、家を建てるために融資を受ける場合は逆に金利をもらえるとその効果を解説。異次元の量的緩和という非伝統的な政策ではなく、金利の上げ下げをする伝統的な金融政策が理想的な形で機能し、日本の経済をうまくコントロールできるようになると話した。

藤巻氏によると、これまでこのマイナス金利政策の懸念は、タンス預金の存在。現金があれば、マイナス金利を嫌ってタンス預金に資金がシフトするという反論が唯一のロジカルな反論だったと指摘した。藤巻氏は、日銀デジタルは、この懸念を払拭できると考えている。

藤巻氏は、将来、日銀デジタルと仮想通貨の併用が良いと指摘。人々が日銀デジタルに躊躇しなくなるのは、今の日銀が倒産し、新中央銀行が誕生した後だろうというシナリオを予想している(引用元:藤巻氏著書「日銀破綻」)

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去年10月、中央銀行がデジタル通貨を発行することについて慎重な姿勢を示し、「日本銀行は現在のところ、デジタル通貨を発行する計画を持っていない」と述べていた。