「ラクダの上に藁(わら)を一本ずつ乗っけていくと、最後にラクダの背骨は折れるんですよ。最後の一本という本当に細い藁を乗せた時にね」

このように日本の経済状況について語ったのは参議院議員(日本維新の会)の藤巻健史氏だ。モルガン銀行時代は「伝説のディーラー」と言われていた。「途中でいくら乗せても大丈夫と言っていると、最後の1本、本当に小さくて細い藁を乗せた時に折れちゃうわけだよね」。藤巻氏は続けた。

ラクダの背が折れる日とは、日本経済のXデー。異次元の量的緩和という非伝統的な金融政策を続けてきた日銀に対する信用が失墜する日だ。円暴落とハイパーインフレが進み、藤巻氏は日銀が破綻せざるを得なくなる状況になると考えている。そして、そんな切羽詰まった状況だからこそ、仮想通貨に注目している。

Xデーが訪れる日…なぜ仮想通貨が鍵を握るのだろうか?コインテレグラフ日本版に対して藤巻氏が解説した。

Xデー

「30数年金融の世界にいましたけど、今やっているのは異常な金融政策」。藤巻氏によると、日本の経済は何も起きていないから平和に見えるが、明日はどうなるか分からない不安定な状態。先述のラクダの藁の例でいうと、何かかちょっとしたニュースが「最後の藁」になり得る状況だという。とりわけ藤巻氏が懸念するのは、日本の財政赤字に対する日銀の対応だ。

そもそも日本の財政は、収入が60数兆円しかないのに毎年赤字を30兆円ずつほど積み上げている。それも30年間通してだ。これを立て直すには、収入が60数兆円しかない中、30兆円ずつ30年間、黒字にしなければいけないが、「そんなのは到底無理だ」(藤巻氏)。なぜ日本の財政赤字はそれほど騒がれていないのだろうか?足りない分は日銀が紙幣を刷っているからだ。

日本の方がイタリアやギリシャより財政状況は悪いんですよ。悪いのに騒がれていない。なぜかというと、イタリアとかギリシャはお金が足りないと言えば、IMFとか世界銀行に借りに行かなければならない。日本は足りなくなれば、日銀が刷っちゃうわけ。(中略)(欧州は)刷ろうと思ってもユーロという共通通貨ですから、欧州中央銀行(ECB)しか刷れないわけで、イタリア政府カネがないよと言って、イタリアの中央銀行が刷れるわけではない」

(日本の財政状況の悪さについて語る藤巻健史議員)

ECBに最も影響力のあるドイツは、憲法で財政均衡にしないといけないと書かれているほど赤字財政に対して厳しい。イタリアやギリシャが頼んだとしても、ECBがユーロを刷ることは実現しにくい状況だ。

だた、イタリアギリシャでは赤字財政に対する「警報」が鳴る分、「異常事態」を警戒できるだけにある意味健全と言うこともできる。「すぐに何が問題になるかというと、長期金利が上がってくる。そりゃ返してくれないと思ったら金利は上がるよね。だから『赤字財政はダメだ』という恐怖感で抑えが来るんだけれど…」(藤巻氏)。

一方、非伝統的な金融政策である異次元緩和を続ける日銀は、国が発行する長期国債を「爆買い」している。毎年度150兆円発行している国債のうち、60〜80%を日銀が異次元緩和と称して購入している。債券は価格が上がると金利が下がるため、日銀の爆買いにより長期金利が抑えられている訳だ。「いわば警戒警報を切っちゃった状態」だ。「だから国民の間に危機感がないんでしょうね」と藤巻氏は指摘した。

しかし、藤巻氏は、日銀危機が顕在化する日は近いと考えている。

「もし預金封鎖がありますってなったら、急にやるわけですけれど、そういう雰囲気になったら誰だって円で持っていたくないでしょう。だって明日福沢諭吉の1万円札10枚が新安倍の1万円札1枚に変わるんだったら他のものに変えたほうがいいでしょう。

南米のベネズエラがハイパーインフレで困窮しているのも他人事ではない。急激な円安が進んで、現在の円の価値が暴落する。「タクシーの初乗りが1億円」というハイパーインフレの時代がいつ来てもおかしくないという。

(引用元:Reuters「鶏一羽に対して大量に積まれたベネズエラの通貨ボリビア。ハイパーインフレーションは対岸の火事ではない?)

避難通貨としての仮想通貨

日銀危機というXデーに備えるために必要なものこそ、「避難通貨」としての仮想通貨というのが藤巻氏の主張だ。「日銀危機が顕在したときは、一発で仮想通貨は急騰するでしょうね」と予想した。実際、どの仮想通貨を保有しているかは明らかにしなかったが、藤巻氏は選択基準について次のように述べた。

「私はやはり文系の人間ですし、どの通貨が良くなるのかはわかっていないですが、今現在やっているのは第一義的には避難通貨としての意味が大きい。(中略)その意味から言うと、流動性のある、多く取引されている通貨を中心としてやっている。流動性が落ちていったら、流動性のあるものに乗り換えるという形でキープしていこうかなとは思っている。」

藤巻氏は、仮想通貨のすべてが避難通貨として片付けられるとは考えていない。GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アップル)に対抗する手段としての仮想通貨であったり(後編で詳しく)、ブロックチェーンと表裏一体の関係である仮想通貨には「避難通貨」以上のポテンシャルが秘められているとみている。ただ、まずはXデーに備えた避難通貨として重宝され、それ以外の真価が問われるのはそれからだろうと予想した。

「預金封鎖や新券発行とかいう事態になるのだったら、みんな(仮想通貨に)逃げるでしょうね。持っているお金が無価値になってしまうんだから。だったら他の通貨に変えておこうというと、直ぐにできるのは仮想通貨しかないですよね。」

藤巻氏は、昭和2年や昭和21年に行われた預金封鎖と新券発行は明治憲法下だったから実行可能だったが、私有財産権が確立している現憲法下で同じことができるかは疑問視。一番ありそうなシナリオとしては、日銀が倒産して新しい中央銀行が誕生することだ予想する。ただどちらにしろ、今の円の価値が揺らぐことには変わらない。

ポピュリズムと無政府論

他にも世界の政治や経済ニュースがきっかけで仮想通貨が高騰することはあるのだろうか?

トランプ大統領の元側近であるスティーブ・バノン氏は、今後「ポピュリズム」と「仮想通貨やブロックチェーン」、「デジタル統治権(自分の知的財産権は自分が持つこと)」という3つの流れが一つにまとまるだろうと予言した。また、40年の歴史を持つサイファーパンク運動からは「ビットコインは無政府資本主義に向けた一歩」という主張が出ている。最近では既得権益層に不満を持つフランス・パリ市民の暴動「黄色いベスト運動」と仮想通貨の普及を関連付ける見方も出ている

(フランス人アーティストPascal Boyart氏のツイート。フランス革命をイメージした路上アートに黄色いベストの人々を描いた。秘密のパズルが解読した人には1000ドル相当のビットコインの賞金がでるという)

ポピュリズムや無政府論の高まりは仮想通貨の普及につながるのだろうか?藤巻氏は「小説としては面白いかもしれないけど…」と懐疑的な見方を示した。

「無政府論の極端な人たちと結びつけるのは面白いかもしれないが、もう少し経済に根ざした動きになると思っている。(中略)競争社会がすべて効率的にコストを下げるというのがアメリカの考え方ですよ。仮想通貨が出ることによって、「国民に安い効率的な決済手段が提供できるんだよ。だから仮想通貨に課税をしちゃいけないよ」という(米議会公聴会での)有識者の発言を読んだことがあるが、確かにアメリカらしいなと思った。(中略)それは別に無政府主義とかそういう問題とは違うと思っている。やはり経済原理ですよ

経済原理に根ざした仮想通貨熱の高まりの例として藤巻氏が上げたのは、2013年にキプロスで起きた金融危機だ。

キプロスはタックスヘイブン(租税回避地)としてロシア人の富裕層などに重宝されていたが、危機による預金封鎖から預金の引き出しや送金ができなくなった。ここで本領を発揮したのが避難通貨としてのビットコインだ。預金封鎖の前に、キプロスの通貨をビットコインに変える資産家が続出し、ビットコインの急騰につながった。

(引用元:Reuters 2013年 預金をおろそうとキプロスの銀行には長蛇の列ができた)

Xデーに備えて

個人に対する藤巻氏の提案

Xデーに備えて、何ができるのだろうか?藤巻氏は、まずは取引所に口座を開いて少しでもいいから仮想通貨を購入することが重要と指摘した。

「私は仮想通貨の口座は開いておいたほうが良いよとよく言う。開くのだって今日明日で2時間で開けるわけではない。口座を開いて数回でも練習しておくことが重要かなと思っていますけどね。」

「Xデー」に備えて一番無難なのは、米国の銀行に米ドルを置いておくこと。しかし、「お金持ちや英語がペラペラな人ならそれができるけど、一般の人達はそんな事はできない」(藤巻氏)。そう言った理由もあり、仮想通貨の口座を開いていつでも逃げられる準備をしておくことが重要と藤巻氏は述べた。

政府に対する藤巻氏の提案

藤巻氏は、1980年代に始まったデリバティブ市場と現在の仮想通貨市場は似ていると話す。藤巻氏のいたモルガン銀行も萌芽期からデリバティブ取引を積極的に展開。1990年頃、モルガン銀行の会長ウェザストン氏が東京支店に来て「5年前に存在しなかったビジネスで、今、我々は収益の4割を稼いでいる」と話したことを、藤巻氏は今でも鮮明に覚えてているという。

しかし、日本はデリバティブは長短分離政策に抵触したため、欧米より5年出遅れた。「興銀・長銀・信託銀行による長期資金の調達と運用」と「地銀や都銀による短期資金の調達と運用」という風に長短金融の棲み分けがあったため、その垣根をなくすデリバティブ商品である金利スワップにどの銀行も手を付けられなかったという。藤巻氏は、現在の日本と米国の銀行の収益の差の一因は、デリバティブ市場で出遅れたことにあると見ている。

今はデリバティブ市場の萌芽期と同じように仮想通貨とブロックチェーン市場も萌芽期を迎えている。藤巻氏は、その時に政府が「余計なこと」をしないことが大事だと指摘する。

「インドがIT産業でものすごく発展していると言われているが、まずい言い方かもしれないが、なぜあそこまで発展したかと言うと『政府がアホでITが理解できなかったから』という声が出ている。要するに、規制をしなかった。よく分からなくて。それが故にあれだけのITが王国になったというわけなので、変な規制はしないほうがよい」

藤巻氏は、コインチェック事件のようなハッキングが「あと2回くらいあればもう終わり」と考えており、セキュリティなど最低限の規制は必要と指摘。ただ、それ以外の部分は自由にやらせたほうが良いという考えを示した。

とりわけ、藤巻氏が現在力を入れているのは仮想通貨の税制だ。「税金というのは単にお金を集めるというのではなく、国の方向を決める」とその重要性を強調した。2017年、国税庁は「仮想通貨での売買益は雑所得(総合課税)、他通貨に交換した時も課税、仮想通貨で商品・サービスを購入した時も課税」と発表。これに対して、藤巻氏は、総合課税から20%の源泉課税にするべきと主張している。

「税務局というのは税の論理だけで考えますから、一つは致し方無いと思いますが、だからといって税金で国がほろびてはいけない。総理大臣が先頭に立って、税制は幸あるべきだといって税制を変えるような方向持っていかないと日本の将来はないと思うんですよね」

デリバティブ市場で欧米の銀行に出遅れた教訓から学び、必要な税制改革を行うべきと藤巻氏は考えている。「仮想通貨税制を変える会」を立ち上げ、先月31日には第1回の講演会を行った。

まずは「避難通貨」としての仮想通貨の可能性を強調する藤巻氏。しかし、先述のように、藤巻氏にとって仮想通貨の役割はそれだけではない。後編では、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に負けっぱなしの日本が、仮想通貨を使えばなぜ起死回生できる可能性があるのか?藤巻氏が解説する。また、最近、個人情報流出の問題でバッシングされるフェイスブックだが、プライバシー問題に揺れる米ハイテク大手と仮想通貨はどのような関係があるのだろうか?後編で藤巻氏が答える。