ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)の新しいレポートによると、仮想通貨(暗号資産)、特にテザー(USDT)が中国からのキャピタルフライトにおいて重要な役割を果たしている可能性がある。

このレポートは、東アジアの仮想通貨取引の44%以上が地域内の取引相手と行われている。この数字は西ヨーロッパの数字(22%)よりも高く、東アジア市場の流動性が高く、「自律した市場に最も近い」とチェイナリシスは指摘している。

しかし、過去12ヶ月間で、500億ドル(約5.2兆円)を仮想通貨が中国から流出しており、世界の仮想通貨アクティビティにおける東アジアの相対的なシェアは低下し始めている。レポートの中で、グレイスケールのリサーチ・ディレクターのフィリップ・ボネロ氏は次のように指摘している。

「多くの地域のユーザーは、ステーブルコインを使って米ドルにアクセスし、クロスボーダーの支払や送金、現地通貨からのキャピタルフライトを行っている」

中国では2017年に人民元と仮想通貨の直接交換が禁止されて以来、米ドルにペッグされたステーブルコインであるテザーが、中国市場のトレーダーにとって人気のある代替手段としての役割を果たしている。

ほかの地域と比較しても、東アジアはビットコイン(BTC)に特化したオンチェーン取引量のシェアが最も低く、取引量の51%を占めている。残りはステーブルコインで構成されており、その93%がテザーだ。

厳密にいえば、人民元とテザーの取引も禁止されているが、OTC(店頭取引)ブローカーはステーブルコインを引き続き取り扱っており、トレーダーが価格の変動を心配することなく仮想通貨取引からの利益を固定できるようにしている。今年6月、テザーはビットコインを圧倒し、東アジアのアドレスで最も受け取られたデジタル資産となっている。

東アジア市場では、過去1年間で180億ドル(約1.9兆円)を超えるテザーが域外のアドレスに移動させれている。このうち、どれだけがキャピタルフライトによるものなのかはわからない。

アナリストは、今年の人民元安の加速と、米中で進行している貿易戦争の緊張が、現地の投資家によるキャピタルフライトを駆り立てていると指摘している。北京では、市民が年5万ドル以上を国外に移動することを禁止しているが、ステーブルコインがこの規制への対抗手段となっている可能性がある。

中国政府は海外の不動産投資とった資産のオフショアリングのルートを取り締まっているが、仮想通貨が代替手段として維持されているようだ。

ほかの要因としては、中国政府が進めているデジタル人民元が民間のデジタル資産市場にどのような影響を及ぼすのかについての不確実性がある。チェイナリシスは、これが中国の仮想通貨コミュニティで「彼らの保有物の一部を海外に移動する」ようにしている可能性があることと指摘している。

プリミティブ・ベンチャーズの創設パートナーで、中国事情に詳しいドビー・ワン氏は、新技術への北京のアプローチが「重要な要素」であると述べている。

「習主席が『ビットコイン』ではなく、『ブロックチェーン』について語ったということが重要だ。それはデジタル人民元が公式に認可された唯一の仮想通貨であり、私有財産としての仮想通貨という見方を弱めることを意味する」

今月はじめ、ビットコイン支持者のマックス・カイザー氏は地政学的な緊張がアジアからのキャピタルフライトに拍車をかけると主張していた。彼は、テザーのようなステーブルコインではなく、ビットコインにスポットライトを当てていたが、「アジアからのキャピタルフライトはビットコイン特急を利用する」と語っていた

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン