専門家の寄稿では、仮想通貨業界内外のオピニオンリーダーがその見解を示すと共に、経験を共有し、専門的な助言を与える。ブロックチェーン技術やICOの資金調達、税金、規制、さまざまな経済分野での仮想通貨の採用事例まで、あらゆる話題を提供する。

 

 韓国は、この5年でグローバル・イノベーションの金メダリストとして世界に知られるようになった。超高速インターネットを保有する韓国は、仮想通貨取引とその取引を支えるブロックチェーン技術の世界最大市場に急成長している。韓国のハイテク開発を支えるのが45の韓国版財閥の「チェボル」だ。この家族経営の大規模産業コングロマリットが、政治腐敗をもたらす要因となっている。

Five Biggest Chaebol = Half Korean Stock Index

 サムスン電子は、時価総額で韓国最大の多国籍テクノロジー企業であり、韓国のブロックチェーン革新の中心的存在だ。サムスングループは、イーサリアム企業連合(EEA)のメンバーで、韓国ブロックチェーン協会(KBA)のメンバーでもある。韓国ブロックチェーン協会は1月末に、仮想通貨市場の自主規制を目的に66の企業メンバーで結成された。

 サムスン電子の前役員であり、元韓国情報通信部長官の陳大濟(チンデジェ)氏が率いている。陳氏はKBAの役割を「政府とブロックチェーンコミュニティ間の意思疎通と調整をし、業界の未来に望ましい政策の方向性を定めること」と説明している。

 サムスングループは、フィンテックやガブテック(政府関係のテクノロジー活用)を含む、全業界で活用できる様々なブロックチェーン統合プラットフォームの提供を開始した。そのうちの1つ、「NexLedger」と呼ばれるパーミッションド(許可型)ブロックチェーンシステムは、アマゾンウェブサービス(AWS)と韓国ブロックチェーン・スタートアップのBlocko社と共同で開発している。

 

 

ICO禁止令とその撤回の可能性

 韓国金融委員会(FSC)が昨年9月末、投資家の保護を目的にイニシャル・コイン・オファリング(ICO)の禁止を発表した。17年にICO投資額の50%近くが消滅したためだ。

 ICO禁止が発表されてから3か月後、科学技術情報通信部の兪英民(ユ・ヨンミン)長官が、ブロックチェーン技術の育成支援に42億ウォン(約390万ドル=4億1000万円)の予算を配分することを約束した。

 ここで重要なのは、ブロックチェーン技術の転換に最も適切とされたのが医療分野だった点だ。電子カルテや医療情報技術、医療サプライチェーン、決済方法、研究能力、データ所有権の相互運用とセリュリティ、説明責任にブロックチェーン技術を利用する。韓国がICOを禁止したことで、メディブロック(Mediblock)社やジクト(Zikto)社、My23社などの複数の医療分野ブロックチェーンスタートアップが、外国でICOを実施する結果となった。

 「優れた人材と革新は常に、資本を引き付ける手段を見つける。韓国でなければ、スイスで」と、米国でヘッジファンド投資会社クリプト・アセット・マネジメント(CAM)社を経営するティモシー・エネキング氏は説明した。CAM社は韓国がICOを禁止した後、ICONブロックチェーン・プラットフォームのICOトークンに投資した。韓国金融委員会(FSC)の崔鍾球(チェ・ジョング)委員長は、「カカオとカカオペイが、外国のICOを使って資金調達と独自カカオコインの発行を計画しているとメディアは報じたが、その事実を金融当局はまだ確認していない。

 このICOは、現在の仮想通貨規制に違反するかもしれない」との見解を示した。スタートアップ・ トレンドレポートはさらに、韓国国内にとどまるスタートアップは、これまでと変わらぬ方法でソフトバンク・ベンチャーから資金を受け取ったことを確認している。

 FSCは国税庁や法務省、その他関連政府機関と相談した結果、政策の方向性を180度大転換させ、ICO禁止の撤回を検討していると発表した。

 

仮想通貨規制と課税

 「韓国政府内でICOと仮想通貨、ブロックチェーンへの規制アプローチが統一されていない」と韓国の国務調整室の洪楠基(ホン・ナムギ)室長は説明する。この不統一は、1月に一層明らかとなった。

 韓国の中央銀行である韓国銀行(BOK)は仮想通貨を法定通貨とみなさないと発言した後、李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は「国際決済銀行(BIS) と共に評価を始めた」と話した。韓国銀行の仮想通貨への法的評価は、米国を含む世界の多くの国々と一致していた。米国では、仮想通貨はどの管轄でも法定通貨とみなされない。

 韓国企画財政部は、韓国の国民年金公団(NPS)を含む16のベンチャー投資企業が仮想通貨市場に412億ウォン(3900万ドル)を投資したことを確認した後、企画財政部のチェ・ヨンラク税務課長が「仮想通貨は現在の所得税法では課税できないが、企業税制では可能」と発言した。

 韓国金融情報分析院(KoFIU)と金融監督院(FSS)は特別委員会を結成し、商業銀行と仮想通貨取引所に対してマネーロンダリング対策(資金洗浄)と顧客確認、脱税違反の合同調査を開始した。これまでのところ、マネーロンダリング対策違反の疑いで仮想通貨取引所3社に警告が出された。FSCも銀行と仮想通貨取引所が仮想通貨取引で匿名銀行口座を使用することを禁止し、G20の仮想通貨マネーロンダリング対策/顧客確認政策に沿った形でマネーロンダリング対策と顧客確認のコンプライアンスを強化した。韓国法務部の朴相基(パク・サンギ)長官は、法務部は仮想通貨取引禁止法案を準備していると警告した。

 1月に韓国政府内から出た仮想通貨に関する様々な不統一表明の後、 チェーンアナリシス(Chainalysis)の報告によると、仮想通貨の価値は70%急落した。これに動揺した韓国国民は、政府に対して投資家に優しいICOと仮想通貨取引規制の採用を要求する陳情書を提出した。

 この陳情書が28万人が署名を集めた。FSSはこれに応え、ニューヨーク州のビットライセンス・モデルに似た仮想通貨取引ライセンス制度の導入を検討していると表明した。

 

仮想通貨の腐敗利用とブロックチェーンを利用した刑法の運用

 韓国政府は、ICOと仮想通貨、ブロックチェーンに対する規制政策を懸念する意見を統一する手段を探し求めているようだが、仮想通貨の腐敗利用防止に関してはしっかり足並みが揃っている。

 韓国の国民権益委員会は、すべての政府機関と公共機関を対象とした「仮想通貨指針実施規約」を発令し、公務員が仮想通貨で「職務上入手した情報を利用して取引や投資を行う」ことを禁止した。

 韓国の中央行政機関の人事革新処は6日、FSCの職員が仮想通貨のインサイダー取引で逮捕されたことを受けて、政府関係者による仮想通貨の保有と取引を実質的に禁止した。

 仮想通貨に関する様々な規制の発表が行われることを知っていたこの職員は、事前に仮想通貨取引を行っていた。これは、政治腐敗以外の何者でもない。

 現在、元大統領2人が関連する事件を取り扱っている韓国の検察官と裁判官、法執行機関当局者は、政府最上層部による汚職の捜査・起訴に関しては非常に経験豊富だ。李明博(イ・ミョンバク)元大統領は、大統領在任中のチェボルからの収賄と職権乱用で逮捕された5人目の大統領だ。李明博元大統領に取って代わった朴槿恵(パク・クネ)元大統領は現在、類似の犯罪行為で懲役30年、罰金1185億ウオン(1億1000万ドル)を求刑されている。

 韓国の検察官と裁判官、法執行機関当局者はこれらの汚職事件に対して、「代々続いてきたチェボルと政治の腐敗訴訟とは違う、何か新しいことを教えてくれ」という態度で臨んでいる。

 ICOや仮想通貨、ブロックチェーン技術が全世界の既存の法律制度と金融制度に浸透し、それらを変革していることは間違いない。国家が新技術を受容・規制する方法次第で、国家の発展が大きく様変わりすることを歴史は示している。

 

 本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限らない。本記事の見識や解釈は著者によるものであり、コインテレグラフの見解を反映するものとは限らない。

セルヴァ・オゼッリ氏は国際税弁護士および公認会計士。タックスノートやブルームバーグBNA、その他の出版物やOECD(経済協力開発機構)で税金や法律、会計問題に関する執筆を多数行なっている。