9月6日のテッククランチによると、株と仮想通貨の取引プラットフォームであるロビンフッドは新規株式公開(IPO)を計画しており、最高財務責任者(CFO)を募集している。ロビンフッドのバイジュ・バットCEOは、規制に従っていることを保証するために、同社が米国証券取引委員会(SEC)と金融取引業規制機構(FINRA)による一連の監査を受けていると明らかにした。

 ロビンフッドは、資金調達ラウンドのシリーズDで3億6300万ドル(約404億円)を集め、シリーズCでは1億1100万ドルを調達した後、評価額が56億ドルとなり、米国で2番目に高い評価がついたフィンテックスタートアップとなった。現在、500万人のユーザーが、ロビンフッドのプラットフォームで仮想通貨取引を行っているという。まず、モバイルアプリのスタートアップであるロビンフッドが現在占める将来有望な位置に至るまでの経緯を振り返ってみよう。

ロビンフッドとは何か?どう機能しているのか?

 ロビンフッドは、メディアから「ミレニアル向けの取引アプリ」と呼ばれているが、仮想通貨に参入する前は株取引専用のモバイルアプリだった。シンプルで使いやすいユーザーフレンドリーなデザイン、一般向けの預金額レベル(1000ドル以下のユーザーが対象)という特徴に加えて、断然に革新的だったのが株式取引の手数料が無料ということだった。現在でも公式サイトのメインページで、次のように説明している。

 「私たちの考えでは、金融システムは裕福な人たちだけでなく、私たちのような残りの人たちのためにも役立つべきである。取引手数料を無料にするために、口座管理の人件費や何百もの実店舗のように仲介業において費用がかさむ無駄を削減した」

 これは諸経費のために取引毎に1ドルから10ドル支払わされるのが嫌なユーザーには画期的なものだった。しかし、シンプルさには機能性の限界が付いていた。ユーザーは空売りが出来ず、投資信託やオプション、確定利付証券の取引もできなかった。インベストペディアが指摘するように、「ターゲットとする消費者グループのミレニアル世代が、購入を決めるために必要なデータを他のウェブサイトから得るであろうという想定に基づいて、調査はとても基礎的な価格チャートと企業のイベント日程だけだ」。

 ロビンフッドは、15年にiOSとアンドロイド用アプリを公開し、現在ではデスクトップからも取引が可能だ。初期の頃にテッククランチが、ロビンフッドのStocktwits、Openfolio、Quantopianとの協力関係に言及しつつ、ロビンフッドの統合をめぐる野望について記事にしていた。現時点では、同社のアプリはAPIを公開していないが、公式サイトによれば近いうちにAPIを公開できるように動いているところだという。

手数料無償アプリの収益化の仕組み

 ロビンフッドのビジネスモデルは、顧客口座の投資に使われていないお金から利息を得るというものだ。専門家らは、このアプリが取引が行われたときに発生する調整コストも転嫁していると強調している。「これは通常、1ペニーに満たないわずかな額であるが、ロビンフッドはペニー未満の端数を切り上げている」

 しかし、ロビンフッドの主な収入源は信用取引だ。つまり、ロビンフッド・ゴールド口座を持つ人にお金を貸して利息を取っているのだ。同社の「プレミアムマージン口座」であるロビンフッド・ゴールドの最低預金額は2000ドルだが、これはすべての仲介業者が従わなければならない規制上の要件だ。ユーザーは一定額の融資に対して、そのお金を使用するかどうかに関わらず、費用を毎月支払うという仕組みで、最低月額費用6ドルで1000ドルが融資される。口座の規模と借入能力によって毎月の費用も上がり、最大月額費用は200ドルで、預金額5万ドル以上の口座が対象となる。

ロビンフッドの仮想通貨への道のり

 18年2月、ロビンフッドは手数料なしで利用できる仮想通貨取引アプリのロビンフッド・クリプトを80年代のSF映画『トロン』をテーマにしたデザインで立ち上げた。当初、取り扱っていたのはビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のみで、取引が出来るのはカリフォルニア、マサチューセッツ、ミズーリ、モンタナ、ニューハンプシャーの5州に住む米国居住者だった。7月にライトコイン(LTC)とビットコインキャッシュ(BCH)がアプリに追加され、その後、イーサリアムクラシック(ETC)とドージコイン(DOGE)が加わった。 現在、ロビンフッド・クリプトは米国の19州で利用可能だ。

 ロビンフッド・クリプトの発表から4日の間に、100万人のユーザーが登録した。同社のヴラッド・テネフ共同CEOは、フォーチュン誌に対して、仮想通貨部門は収益源というよりも、同社のエコシステムの重要な強化であると述べた。

「当分の間は、(ロビンフッド・クリプトで)大儲けするつもりはまったくない。損益なしのビジネスとして行なうつもりだ。背後にあるのは、我々が本当にやっているのはエコシステムの構築という考えだ。現在は、1万以上もある取引可能な金融商品に仮想通貨がうまく入り込むように、商品が商品に投資しているところだ」

 ロビンフッドのプラットフォーム上で仮想通貨取引ができるが、ユーザーはそこで購入した財産をサードパーティのウォレットに送ることはできない。6月には、ロビンフッドが、様々な能力をもつ仮想通貨エンジニアの求人広告を出したため、仮想通貨のウォレットを公開するのではないかという噂が起こった。また、同じ月に、「事情通」がブルームバーグの取材に、ロビンフッドが、銀行サービスを提供できるように、通貨監督庁との「建設的」協議を経て銀行業免許を取得する予定だと伝えた。

Company Profile

 仕事内容の説明は、商品への関心をさらに高めた。

「これまでに生み出してきたものは、ロビンフッドが思い描くユーザーの生活で仮想通貨が果たす役割の序の口にすぎない」

 その結果、最大手のコインベースなど影響力のある仮想通貨デジタルウォレットの脅威になるかもしれないという点でユーザーとメディアが見解が一致し、仮想通貨コミュニティの高い関心を集めた。コインベースは、仮想通貨取引を行う顧客から2%以上の手数料を取っている。以前に、ロビンフッドの共同設立者で共同CEOでもあるバイジュ・バット氏も次のような発言をしている。

「年内に、仮想通貨プラットフォームの最大手もしくはそのうちの1つになるつもりだ。それに、仮想通貨事業への投資に関しても最高の経験になると思う」

 ロビンフッドの仮想通貨事業の将来性は、ベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルによる投資によっても強調され、裏付けられた。セコイア・キャピタルのパートナーであるアンドリュー・リード氏は次のような見解を示した。

 「ロビンフッドの生産の歩調はこれまでとてもすばしいものだ。セコイア・キャピタルがロビンフッドに投資したのは、低コストとユーザー第一のアプローチで、金融サービスの大部分に大変革を起こす力があると思うからだ。」

残る論争

 ロビンフッドも批判は免れられない。タイム誌のシンプルなデザインの危険性と素人の投資家の軽率な熱意に焦点を当てた心配性の記事のほかにも、この取引のプラットフォームの株式市場の道具としての欠点がいくつか明らかにされている。一番重要なのは、1000ドル以下の口座だけを満足させることだけを意図しているのか、大型投資家の利点がないという点だ。

 インベストペディアは、「ロビンフッドの注文実行エンジンは、価格改善の機会を探そうとしないが、これは500株以上の大口取引の貿易を行う投資家が仲介業者に求めるものだ」と指摘している。場合によっては、大型投資家には、価格改善ツールの不在によって、このアプリが従来の仲介業者より魅力的なものとは思えず、ロビンフッドの取引手数料ゼロという特質もそれを補償するのには十分ではないだろう。

 さらに、フォーチュン誌は「最近株式を公開しようと目論む多くのテック系スタートアップ企業のように」ロビンフッドもまだ赤字経営であると警告している。問題は、IPOの投資家はすぐに利益が伸びるようになるならば、損失を許容するつもりがあるということだ。そして、彼らは果敢な様子で赤字について話すCEOに不信を覚えることを学んだ。彼らはグルーポンが熱狂的な成長の後で利益をあげられず転落し、Uberがお金のかかる世界的な野望を改めなければならなかったのを目撃したのだ。

 インベストペディアのテレサ・W・キャリー氏は、収益化がロビンフッドの中核機能である取引手数料無料に必然的に及ぼすことになる脅威にも注意を促している。

「ある時点で、ベンチャーキャピタリストたちは投資利益をいくらか得たいと思うようになる、手数料取引がゼロであれば大きな収益源が失われる。しかし、無料の取引手数料は、ロビンフッドが提供する重要な機能だ。彼らは何らかの形で収益を生み出さなければならないだろう」

 仮想通貨に関しては、ロビンフッド・クリプトのアプリは大きな論争を引き起こしていない。いまだに高い評価を受け、既存のプレイヤーが課してくる取引手数料にうんざりしている小口投資家の間に楽観主義を生み出している。今夏の同社の雇用発表に対する注目度は、市場が新しい競争相手を歓迎し、伝統的な投資分野とより緊密な関係を築くチャンスに興味を持っていることを示したものだった。