米ハーバード大学ロースクールのローレンス・レッシグ教授は24日、The New Context Conference 2019 Tokyoで米国で議論になっている「監視資本主義(Surveillance Capitalism)」について基調講演を行い、大企業による全ての「監視」が悪いというわけではないという見解を示した。

レッシグ教授は、企業による監視が良いか悪いかは利用者データの使用ケース(Use)によって判断されるべきと主張。次のよう4つのカテゴリーが考えられると述べた。

利用者と社会に双方に有益であるのは、アマゾンの本のレコメンデーション機能。社会に利益があって個人に不利益であるケースとしては、個人の健康情報を保険会社に連絡する点(レッシグ教授は、これ議論の余地があると指摘している)。また双方にとって悪いケースは、デジタルゲームでの中毒をあげた。

緑は「良い」監視であって規制の対象ではなく、赤は「悪い」監視であって規制の対象であるべきことを指している。

とりわけレッシグ教授が注目したのは、「個人には良いか社会には悪い」ケース。2016年、極右寄りのニュース拡散などを止めなかったとして米国大統領選で米国の分断を招いたとされるフェイスブックのニュースフィードを例にあげた。フェイスブックとしては「消費者が欲しいニュースを提供することの何が悪い」という立場であるものの、レッシグ教授は「広告のためにニュースフィードをスパイク(急増)させたとしたら、フェイスブックに責任がある」と指摘した。

レッシグ教授は、「監視に完全に反対」派と「監視に完全に賛成」派という両極端な選択肢を排除し、2つのどこか中間にある立場を推進する体制構築が必要だと訴えた。

「監視資本主義」は、米ハーバード大学ビジネススクール名誉教授のショシャナ・ズボフ氏が提唱した概念。レッシング教授は、「監視」=すべて悪とみなしているズボフ氏に対して批判的な立場をとっている。

レッシング教授は、法と工学の著作権に関する研究で知られており、米誌ザ・ニューヨーカーは、同氏を「インターネット時代の知的財産分野における最も重要な思想家」と評している。

仮想通貨業界でも、プライバシーに対する意識は高まっている。とりわけ、キャッシュレス社会の進展によって国や企業による「監視」体制が整う中、取引記録のプライバシーを守る役割をビットコインなど仮想通貨に求める声は高まっている

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