昨年末、世界的な有名な監査企業であるMazarsが、世界最大級の仮想通貨取引所バイナンスに対するプルーフ・オブ・リザーブ(準備金証明)を突然停止した。同時に仮想通貨関連の顧客に関する全ての言及をウェブサイトから削除した。後日Mazarsの広報は、「これらのレポートが世間から誤解される懸念」と説明した。この決定を、透明性の向上に向けて努力をする業界にとって大きな後退と解釈した人は少なくないだろう。

しかし、本当にそうだろうか?プルーフ・オブ・リザーブはそれほど大きな意味を持つことなのだろうか?それとも、しばしば真実を覆い隠しがちな広報ツールと化しているのではないだろうか?

プルーフ・オブ・リザーブとは、取引所が顧客が預けている資産の額と同等またはそれ以上の資産を保有していることを証明することを意味する。通常、監査企業によって審査される。代表的な手法は、大量のデータを一つのハッシュに統合するマークルツリー(Merkle Tree)だ。しかし、多くのコメンテーターが指摘するように、本物の監査と単純比較できるものではない。

ブルームバーグは、プルーフ・オブ・リザーブについて「負債ではなく、資産のみを示す」ものであり、「その時点での情報のスナップショット」にすぎないと指摘する。この不透明さは問題であり、FTXが崩壊する中、多くの仮想通貨ユーザーが中央集権型の取引所から分散型の取引所に移行した要因になったと考えられる。

プルーフ・オブ・リザーブには多くの課題があるが、ブロックチェーン業界が財務記録に関して不透明で管理が杜撰であるとみなすのは間違っている。実際、ブロックチェーンの本当の可能性は、分散化や改竄耐性、リアルタイムでの検証能力によってもたらせる既存金融システムの改善だ。問題視されているのは、昔から既存金融に存在していた不透明性なのだ。プルーフ・オブ・リザーブに問題があるからといって落ち込むことはない。

元コインベースのCTOである Balaji Srinivasanが提唱する「オンチェーン会計(on-chain accounting)」というコンセプトは注目に値する。まずは単純な決済記録の検証、次に複雑な契約の検証、そして完全なオンチェーン会計へと段階的にWeb3が進んでいくことを予想している。将来の金融業界はブロックチェーンのおかげで透明性がデフォルト仕様になるだろう。
 

著者 Ledger

プロフィール:2014年に誕生した仮想通貨のハードウェアウォレットの会社。拠点はフランスにあり、現在はLedger Nano XとLedger Nano S+、Ledger Nano Sという3種類のハードウェアウォレットを製造・販売している。Ledger Nano S +は2022年4月4日発売の最新作。Ledger Nanoシリーズに接続して使うソフトウェアであるLedger Liveを、全ての仮想通貨サービスが1箇所に集まるプラットフォーム、いわば「Web3.0のハブ」にすることを目指している。公式サイト:https://www.ledger.com/ja