中国ブロックチェーン業界の新たな希望ーーー

中国国内で、このようにささやかれている企業がある。スタートアップ企業であるNervosだ。スタートアップといってもただのスタートアップではない。共同創業者にはイーサリアム財団で研究者として、イーサリアムの生みの親であるヴィタリック・ブテリン氏と共にシャーディングやプルーフオブステーク(PoS)基盤の独自のコンセンサスアルゴリズム、キャスパー(Casper)の開発に携わったジェーン・シエ氏、仮想通貨取引所「ユンビ(雲幣)」で中心開発者だったテリー・タイ氏、IBMで企業向けにデータソリューションを開発していたケビン・ワン氏など錚々たるメンバーが参画している。

すでに香港を拠点とする中国招商銀行や米国最大のベンチャーキャピタルであるセコイヤキャピタルなどから出資を受け、共同開発を進める。

中国新たな希望とされる所以は何か。今月17日午前2時(日本時間)からパブリックセールを開始した同社にインタビューした。

 

中国国内で何が期待されているのか

NervosのブロックチェーンはBtoB向けのオープンソースのパブリックブロックチェーンエコシステムで、分散型アプリ(dApps)や分散型金融(DeFi)サービスの構築に使われている。

ワン氏は「私たちが考えているのはブロックチェーン業界を先に進めることだ」と話す。

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Nervosはこれまで、中国招商銀行(CMB)の海外部門CMBインターナショナル(CMBI)から出資を受けているほか、同行とdApps(分散型アプリ)の開発を進めている。2018年にはセコイヤ・チャイナとポリチェーン・キャピタルがリードした資金調達ラウンドで2800万ドル(約30億円)を調達した。

ワン氏は「CMBIなどは我々の戦略的パートナー」と話すなど、dApps開発という側面だけでなく、金融業界への進出のために重要な戦略とみている。NervosはCMBIがパブリックブロックチェーンに投資した最初の事例だという。

このほかにも仮想通貨取引所のフォビ(Huobi)がNervos財団と分散型金融(DeFi)プラットフォームの構築を進めるなど、各所からの引き合いから期待感の高さが伺える。

特に金融系企業とのコラボレーションはまだ事例が乏しい。ワン氏はNervosが中国内外の企業と提携するには双方に利点があるという。「特に伝統的金融機関にとっては我々の新しいプラットフォームを取り込むことができる。一方で我々はユースケースを得ることができる上、双方のこれまで取り込めていなかったユーザーを獲得できる」と双方の利害関係を説明する。

 

ビットコインとイーサリアムの課題を解決するNervos

Nervosとは一言で言えば「ブロックチェーン上でマルチアセットの価値の保存を実現するもの」だ(ワン氏)。

どういうことか。

「価値の保存手段」としての地位を確立するビットコインや、スマートコントラクトを持つイーサリアムは仮想通貨の二大巨頭だ。しかし、ビットコインのブロックチェーンにはほかのアセットが入り込めないという問題があり、セキュリティを維持するために膨大な電力などのコストがかかる。一方でイーサリアムにはETHの価格がネットワークに連動しないことや、スマートコントラクトで、ネットワークが膨れ上がるという問題が発生する。イーサリアムネットワークに参加するユーザーにとってはサステナブルではない。

そこで使われるのがNervos CKB(Common Knowledge Base)と呼ばれるプルーフオブワーク(PoW)ブロックチェーンプロトコルだ。

ワン氏は「Nervosはビットコインの良い面を維持しながらスマートコントラクトを実現し、より多くのアセットをサポートする」と話す。

CKBは2つのレイヤーで構成されている。

PoWを採用したレイヤー1ではどのようなコインであれ、セキュアで、不変性をもち、パーミッションレスというビットコインと同様の性質のコインが保持できる。さらにレイヤー2ではスマートコントラクトを可能にしながら、「価値の保存」としての仮想通貨設計とネイティブトークンであるCKByteを通じてネットワーク全体の価値を提供する。

しかし、ビットコインとイーサリアムの特性を持つとビジネスにとって何が利点となるのだろうか。

ブロックチェーンを使ったビジネスではいくつかのブロックチェーンが使われる。例えばeコマースなどを運営している場合に、取引確認などをプライベートブロックチェーンで処理し、送受金はイーサリアムで実行する、といった具合だ。

Nervos CKBはこの仕組みを単一のブロックチェーンで処理できる

これはいわゆる決済機能を持つビットコインと、イーサリアムが持つ、送金などのスマートコントラクト機能を併せ持たせることができる。

Nervosはこれまでのブロックチェーンを統合し、「次世代の分散型アプリケーションプラットフォーム」となることを目指している。

これまでCKByteはCoinlistなどでプレセールを行った実績があるが、今月17日午前2時(日本時間)に初めてパブリックセールを実施した。

ワン氏は「我々の技術が普及すれば、現実世界からブロックチェーン空間へとより多くの価値を移動させることができる。これはほかのどのプラットフォームも成し遂げられていない」。「そのために最も重要なのは持続的に資産を保存できるかどうかだ」と話す。

 

プルーフオブステークからプルーフオブワークへ

イーサリアムの元研究者ということもあり、なぜPoSではなく、PoWを使うのかと考える読者もいるだろう。これについてチーフアーキテクトのシエ氏は「セキュリティ」と「非中央集権的」の2点をあげる。

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シエ氏は「PoSを使ったプロジェクトの多くは参加者のコンセンサスを制限するために使われている」と指摘する。

最も重要な問題点としてPoSでは「既存のバリデーターが新規のバリデーターを拒否することが可能」となり、新しくバリデーターになるには既存のバリデーターにコントロールされることになると指摘する。

一方で純粋に計算競争となるPoWにはこのようなことは発生しない。PoWの方が「オープン」であり非中央集権の性格を保持する健全なシステムだいう。

さらにPoSにはロングレンジ攻撃(古いブロックからブロックチェーンを分岐させ、メインチェーンを乗っ取ってしまう攻撃手法。PoS特有の問題)の問題もある。ジェーン氏はPoSモデルはロングレンジ攻撃などを解決できていないと指摘する。

こうした特にセキュリティ面を重視する姿勢と、PoS、PoWの両方を深く携わった経験からPoWを選んだという姿勢からも金融機関とともにDeFiプロジェクトの引き合いがあることが納得できる。

 

イーサリアムだけでなくビットコインにも問題が...

しかし、問題があるのはイーサリアムだけではない。

「ビットコインにはハードキャップ(発行上限枚数)の問題があり、この問題は近いうちに表面化する。ビットコインコミュニティはハードキャップの問題を解決する方法を持っていない」(ワン氏)。

ビットコインの発行上限枚数は2100万と決められている。上限枚数に達すること自体は近い将来ではない。しかし、Nervosのリサーチャーであるボー・ワン氏は「半減期が訪れる中で、あと10~20年もするとマイニングのインセンティブがなくなり、ビットコインはマイナーを失ってしまうだろう」と指摘する。

マイナーを失うとネットワークのセキュリティが低下してしまう事態も考えられ、ビットコインが資産としての価値を維持できなくなる。

こうした状況になった場合に「ビットコインの代替となるのがNervosのブロックチェーンだ」(ボー・ワン氏)。ワン氏も「我々はハードキャップへのソリューションを持っている」と話すようにCKBのエコノミックペーパーにはCKBブロックチェーンがセキュリティや価値の保存手段としてのNervosの解決策が示されている。
 

Nervosは日本市場へ進出するのか

NervosのネイティブトークンであるCKByteは10月にトークンセールを開始し、今年第4四半期にメインネットのローンチを控えている。メインネットローンチ後には日本のユーザーにもCKByteを購入するチャンスも出てくるかもしれない。

ケビン氏は「さまざまな国でのトークンセールに関心はある」と話し、ただ、規制面で解決しなければいけない課題が多く存在するため、法的なアドバイスを受けながら、日本のコミュニティやディベロッパー、ビジネス面などとともに議論を深めていきたいと述べた。

ビットコインとイーサリアムの性質を併せ持ち、マルチアセットを可能にするブロックチェーンを提供するNervos。世界中から投資が集まっていることもあり、今後の展開にも注目だ。