背景

3万年前の洞窟の壁画からWeb3時代のNFTに至るまで、人間は視覚的にインパクトの強い作品に心をひかれてきた。NFT市場は2021年の爆発的なブームを経て、現在は冷静なブームに移行している。大型のNFTプロジェクトが次々と立ち上げられ、NFTのエコシステムは、金融・芸術・ゲーム・その他多くのクリエイティブな分野を取り込んでいる。

日本のNFT作品には、強大な潜在力がある、というのが、我々CGVの結論だ。日本のアニメーションは、全世界のサブカルチャーの交差点となって久しい。きわめて層の厚いアーティスト群、アニメ・ゲーム・IP(Intellectual Property:版権もの)の成熟した市場、 NFTの実用化に必要な金融工学、IP利用のための窓口の存在のおかげで、日本におけるNFT領域の発言権は日に日に強まっている。

Azuki NFTの大ヒットにより、マーケットにおける東西文化のハイブリッド作品への人気が確認された。村上隆も新しい創作路線に舵を切り、NFT作品の製作に着手した。NFTによるインスピレーションは、日本のお家芸であるロボットアニメの分野にも及んでいる。ロボットゲーム『メカバースウォー』(Mechaverse War)はその好例だ。日本最大のeコマースプラットフォーム楽天においても、NFT取引のプラットフォームがオープンした。これらは日本のNFT市場が急速に成長していることの証拠に他ならない。本稿では、このうちいくつかのプロジェクトについて、詳細を紹介し、今後の投資機会をうかがいたい。

Azuki:Web3ネイティブ世代とNFT

Azukiは、ジャパニメーションの王道のテイストと、アメコミ風の太い輪郭線を兼ね備えた、東西文化のフュージョン的な作風が特徴だ。豪快さと精緻さが両立した画風で、Web3ネイティブ世代のハートをがっちりとつかんでいる。Azukiのキャラクターは、「人間」「青」「赤」「スピリット」の4つのタイプからなる。髪型、目、口、頚、服装、BGMのすべてがユニークで、一人として同じものはない。NFTのこのことはNFTの持つ非代替性の特性と見事に合致している。

Azuki では、キャラクターの一人ひとりが独自のIP(版権)を持っている。Azukiの当面の目標は、メタバース業界最大のコミュニティをつくることだ。Azuki NFTは、その入場許可証となる。NFTを所有することは、Azukiコミュニティのメンバーであることの証なのだ。Azukiコミュニティでは、オフラインにおいてもさまざまなストリートブランドとのコラボレーションを展開し、リアルコレクションの販売や音楽アーティストとのコラボを展開し、物理とデジタルの世界を融合を図っている。今後はSandbox VR、Decentraland、Cryptovoxels、Somnium Spaceなどのプラットフォームと提携することで、没入型のAzukiメタバースをつくり上げようと目論んでいる。また、Azukiは独自の手法でIPを発展させ、メタバースゲームとインタラクティブ体験の可能性を模索している。

出典:NFTGo.io

日本のアニメの世界的な人気のおかげで、Azukiは発売と同時に成功を収めた。Azukiの芸術性こそが、そのNFTの高い流働性と驚くほど高額な最低価格を実現したといえる。Azuki NFTの1月のオークションでは最低価格が1 ETHだったが、現在の最低価格は22.5 ETHに達している。昨今のクリプト界隈の冷え込みなどものともしていない。NFTGo.ioのデータによると4月9日までに、AzukiシリーズのNFT総取引額は5億5,900万ドルに達した。

村上隆:日本のオタク文化をNFTで表現

村上隆は、若い世代から圧倒的な支持を得ている、現代を代表するポップアーティストである。村上隆にいわせれば、1990年代以前の日本文化はヨーロッパ芸術のパロディにすぎないという。逆に1990年代以降の「オタク文化」こそが日本独特なのだという。

村上隆の作品は、現代日本の風俗を活写したもので、センセーショナルな「幼稚力宣言」により一躍脚光を浴びた。平面的な人物・植物・花は、日本人の美意識を反映したポップカルチャーだ。幼児向けの漫画を思わせる表現で、日本文化の真髄を捉えようとしている。

2021年3月末までに、村上隆はNFT『MURAKAMI.FLOWERS』108作品を世に送り出した。ところが、発売後11日目には、販売を停止してしまった。その理由は、「自分はまだ本当にはNFTを理解できていないと思った」からだという。いったん挫折感を味わうと、その後、なんの進展もなくなってしまうことはよくある。村上隆においてもそのおそれが心配されたが、彼は予想を裏切って「NFTプロジェクトを2022年中に再開する」と宣言。インスタグラムに、murakami.flowers2022のアカウントを開設して見事復活を遂げた。年末までには伝説のミニゲーム機『たまごっち』にインスパイアされたサンフラワーバージョンのミニゲームがリリースされる予定で、愛らしいキャラクターたちとの再会が待望される。

2022年のはじめ、村上隆氏はRTFKT Studiosと提携し、NFTプロジェクトCLONE Xを発売した。以来、売上ランキングのトップを独走している。Openseaの販売データによると、現在の最低価格は12.25 ETHに達している。村上隆は個展NFT『MURAKAMI.FLOWERS』を再開する際、「RTFKTとの提携によって、自分はメタバースに関わる多くのことを学ばせてもらった。その成果も、期待を大きく上回るものだった」と語った。村上隆のNFTへの探求の道は、作品のメディアミックス的な展示でも特徴づけられる。

メカバースウォー:ゲームとNFTの融合

ゲームはリアル世界の延長である。ゲーム世界で圧倒的な優位性を持つ日本は、いかなる戦略でNFTメタバースゲームに参入するつもりなのだろうか? 次なる一手をCGVが予想してみた。

メタバース・ロボットゲームの『メカバースウォー』(Mechaverse War)は、武士道精神を日本美のシンボルとして取り入れている。メカバースウォーのインスピレーションの源は、日本のロボットアニメと武士道精神の2つだ。

メカバースウォーはプレイ環境の拡大により、NFTのユースケースを開拓した。日本の高品質なアニメIPの名に恥じぬよう、デジタルプロモーションの拡大に貢献し、GameFiのバリューチェーンを利用することで、日本アニメならではのメタバースプラットフォームを構築する。

プレイヤーの参加方法をみてみよう。プレイヤーはNFT化されたメカヒーローを操り、戦闘チームを編成し、キャラクターの交換、戦闘レベルの向上を経て、メカモンスターとの戦闘などのゲームを体験できる。ゲーム中、NFTはロボットヒーローの作成と成長過程をつぶさに記録し、IPキャラクターの流通性と値上がりを担保する。

Newzooの報告によると、全世界の30億人のプレイヤーたちが、2021年にはゲーム市場に1,758億ドルのお金を落とす見込みだという。そのほとんどが日本チームの収入となる。メカバースウォー(Mechaverse War)は、日本が本場のアニメ・ゲーム業界、IP資源および暗号技術を武器に、全世界のプレイヤーに日本式の没入型ブロックチェーンゲームとNFTコレクションのインタラクティブな体験を提供する。

Rakuten NFT:楽天流NFTへの道

日本最大のeコマースプラットフォームである楽天は、2016年8月にブロックチェーンラボを設立し、2019年8月仮想通貨ウォレットサービスの提供を開始した。

それから3年の技術の蓄積を経て、楽天は今年2月25日、NFTの取引発行プラットフォーム『Rakuten NFT』を立ち上げた。現在、このプラットフォームは日本在住の個人のみが利用可能だが、仮想通貨投資家とテクノロジーコミュニティを中心とするNFT市場に新たなトレンドをもたらした。

Rakuten NFTは、ユーザーにスポーツやエンターテインメント分野(音楽アニメを含む)などのNFTに、P2P(個人間)の取引機会を提供する。さらに、IP著作権者に対しても、NFT販売のプラットフォームを提供する。ユーザーは楽天IDの利用することができ、楽天ポイントも使用できる。プラットフォームで購入したNFTは、購入者のマイページにコレクションとして追加でき、マーケットでの販売も可能になる。

CGVによると、楽天には数多くのスポーツ関連のパートナーがいる。また数多くのエンターテイメント関連の製品も運営し、Rakuten NFTの発展に大く貢献している。楽天NFTは現在、j.league公式NFTコレクションである『j.league NFT Collection Players Anthem』も企画中であり、将来的には楽天NFTアートギャラリーの開設も視野に入れている。

楽天のような膨大なユーザーや経営資源を持つ大手企業は、自身のDNAや得意分野からNFTに切り込めば、比較的容易に幅広い市場を獲得できるのではないかとCGVはみている。

まとめ

NFTは、クリエイターとファンが直接結びついた新しい経済関係を加速させ、ケビン・ケリー(Kevin Kelly)が2008年に発表した予言的なエッセイ『1000人の真のファン』に描かれていた未来を実現した。数多くのIPを保有する日本では、NFTにより活動休止中だった往年のクリエイターが再び脚光を浴びたり、過去の作品に新たな生命が吹きまれたりしている。物理世界とデジタル世界の架け橋として、知的遊戯の場を提供している。

我々CGVは、日本の著名な芸術家・草間彌生氏の言葉を借りて、日本におけるNFTの未来をまとめたい。「私はいつだって前衛的だ。私は他の老人とは違う。私は数十年前から前衛芸術家だった。今もなお」
NFTはWeb3時代の申し子として、日本への新しい時代の到来を告げている。

注意:本稿はCGV FOF独自の研究レポートであって、投資アドバイスを構成するものではありません。あらかじめご承知おきください。

CGV FOFについて:CGV FOFは、Crypto FundとCrypto Studioへの出資を行っているアジアマザーファンドである。日本・韓国・中国・台湾などのプライベートファンドで構成され、本部は日本にあり、シンガポールとカナダに支店を設置している。

参考資料
1.    https://www.azuki.com/
2.    https://www.metamechawar.cc/
3.    https://opensea.io/collection/clonex

執筆:Vargason,Edwin,CGV FOF研究員