今年に入ってデジタル通貨の市場総額は1700億ドル(約19兆円)近くに達し、重要な資産クラスとしての地位を確立している。ここ数か月で、ビットコインの市場総額だけでも米決済サービス大手ペイパルの株式時価総額を凌駕する勢いだ。
ところが、既に大量の資金が市場に流れ込み、世界中の一般投資家の関心がビットコインに向かっているにもかかわらず、機関投資家たちの市場参入はまだまだといったところだ。
機関投資家は萌芽期の市場を避けている。預かった資金を投入するリスクを冒すには規制が甘く、不安定で、流動性も低いと見ているのだ
ヘッジファンド経由での資金流入はありえるか
デジタル通貨はまったく新しい、これまでにない投資機会のため、従来型の投資チャネルが欠けていることが大きな資金を遠ざけている理由だと考えられていた。しかし1週間に2本というペースでヘッジファンドが出現している現状では、釈明の余地はあまりない。
フィンテック調査会社「Autonomous NEXT」によると、今年は84本の暗号通貨ヘッジファンドが立ち上げられ、合計110本となり、資産総額はおよそ22億ドル(約2300億円)となっている。
しかし各ファンドの規模は全体として非常に小さく、実績の少なさや暗号通貨の不安定な価格変動のため、年金基金や保険会社、大手の投資信託などを遠ざけている。
生命保険会社「ロイヤル・ロンドン」の一部門であるロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメント(RLAM)のトレバー・グリーサム氏は「仮想通貨自体は浸透してきているようですが、分析が難しく、変動性が高く、詐欺的なものも存在しています」と語る。
最低投資額が、機関投資家の参入ラインに達していない
Autonomous NEXTのパートナー、レックス・ソコリン氏によれば、数億ドル規模のファンドは数えるほどしかなく、そのほとんどは500万~2000万ドルの範囲にとどまると思われる。これは、大部分の機関投資家が想定する最低投資額を大きく下回る。
「機関投資家やファンドマネージャーの多くは、このようなファンドにゴーサインは出せません。流動性に大きな疑問があるためです」。ロンドンに拠点をおくETF セキュリティーズの投資戦略責任者、ジェームズ・バターフィル氏はそう語る。
従来の中核ビジネスへの懸念
資産運用会社が、暗号通貨の世界に参入する方法は他にもある。それは、暗号通貨ファンドを含むヘッジファンドへのバスケット投資だ。しかしヨーロッパのある大手銀行のヘッジファンド責任者は、100以上のヘッジファンドに投資しているが、ポートフォリオに暗号通貨ファンドは1つもないという。
匿名を希望する同氏によると、「(暗号通貨に投資していくかどうかは) 非常に難しい問題。既存ビジネスの中核部分へのリスクや影響を考えると、老舗のヘッジファンドが大きな投資をするのは考えにくい。」