グーグル研究者が発表した”量子超越”(Quantum Supremacy)論文が反響を呼んでいる。
グーグルのサンダー・ピチャイCEOは今回の発表について、1903年のライト兄弟の有人初飛行に匹敵する成果だと強調。ただ、同じく量子コンピューターの開発を続けるIBMが 「誤解を生む表現」だと反論した。仮想通貨業界でもビットコインにとって脅威になるのか、議論が高まっている。
「ライト兄弟の最初の飛行機は12秒しか飛ばなかった」
MITテクノロジー・レビューのインタビューに答えたピチャイ氏は、グーグルの量子コンピューターの適用範囲が限られているという指摘に対して次のように答えた。
「どの分野でも重大な発見をするときは、とりあえずどこかから始めなければならない。アナロジーを使うとすれば、ライト兄弟だ。最初の飛行機は12秒しか飛ばなかった。だから、実際に使えるという話ではなかった。しかし、飛行機は飛ぶことができるという可能性を示した。
量子コンピューターの実践的な適用は「10年後」とみるピチャイ氏。「十分に機能する量子コンピューターを構築してスケールするにはまだ2、3年かかるだろう」。ピチャイ氏はあくまで長期的な投資であることを明確にしている。
ピチャイ氏にとって量子コンピューターが一番輝くと考えているのは、分子を理解すること。新たな薬物や化学肥料の発見などを例にあげた。
また暗号技術についても次のように述べた。
「もし量子システムが暗号技術を破ることを心配しているのなら、量子耐性のあるより良い暗号技術を開発したらいいだろう」
グーグルの「量子超越」に反論したのがIBMだ。
グーグルは、ある乱数をつくる計算問題の回答に最先端のスパコンが約1万年かかるのに対し、グーグルの量子コンピューターは3分20秒で解くことができたと発表した。しかしIBMは、同じタスクを従来のコンピューターで2.5日で行える場合もあると指摘。グーグルのスーパーコンピューターに対する見積もりは、最悪のケースを想定していると述べた。
「量子コンピューターが、クラシックなコンピューターを”超越する”という証拠して見られるべきではない」
ピチャイ氏は、IBMの反論に対してさらに反論。「コミュニティーにいる人々は、何がマイルストーンなのか正確に理解している」と述べた。
宇宙は量子で動いている
クラシックなコンピューターは、情報を「0」か「1」かで情報を表す。一方、量子コンピューターは「0であり、かつ1でもある」という重ね合わせの状態を利用する。これまでのコンピューターの世界観を根本から変える。
「量子に関して最もエキサイティングなことは、宇宙は原理的に量子の法則で動いているということだ。だからネイチャーについてよりよく理解できるようになる」
ピチャイ氏は、量子コンピューターに対して熱い思いを語った。
「ムーアの法則は、考え方によってはサイクルの終盤にある。量子コンピューターとは、コンピューティングの世界で進歩し続けるために必要な多くの要素のうちの1つだ」
「ビットコインの秘密鍵は破られない」
一方、量子コンピューターがビットコインなど仮想通貨にとって脅威になるかどうかについては見方が分かれている。
23日のグーグル発表の1週間前、ブロックストリーム社の最高戦略責任者(CSO)であるサムソン・モウ氏は、コインテレグラフ日本版に対して、量子コンピューターがビットコインにとって脅威になるとは思わないと話していた。
「ビットコインの秘密鍵をブルートフォース攻撃で解読する目的で実用化されることはない。なぜなら、”正解らしきもの”は見つけられるが”正解”は見つけられないからだ。”だいたい正確な秘密鍵”なんて使えないだろう。」
ブルートフォース攻撃とは、解読のためにすべての考えられる全てのパターンを試す総当たり攻撃のことだ。
一部では、量子コンピューターによってビットコインの公開鍵から秘密鍵が計算できてしまうという警告が出ていた。