スイスで10日に行われた国民投票で、中央銀行の権限を強化して銀行の融資方法を変えることを目指したイニシアチブ「ソブリン・マネー」が反対多数で否決された。「ソブリン・マネー」は、非中央集権を謳う仮想通貨のミッションとは大きく異なり、投票の行方が注目されていた。

 フィナンシャル・タイムズによると、「ソブリン・マネー」に賛成したスイス人は全体の24.3%にとどまった。スイス中央銀行のトーマス・ジョーダン総裁は、このイニシアチブについてスイス経済に深刻な打撃を与える「不必要で危険な実験」とし、「可決されれば中央銀行の業務を複雑化させる」と懸念を表明していた。

 「ソブリン・マネー」の支持者は、いわゆる「部分準備銀行制度」を問題視。銀行の預金は、その一部しか安全な現金準備や中央銀行への準備預金で裏付けられていないにもかかわらず、預金を上回る額の融資を行うことで「お金を作り出している」ことを懸念している。部分準備銀行制度をやめれば多額の債務が減るなどスイス経済が安定するとし、お金は「パブリック・グッド」であるので中央銀行のような国の機関によってコントロールされるべきと主張している。

 フィナンシャル・タイムズによると、国民投票の結果を受けて「ソブリン・マネー」の支持者は、金融システムの健全性をめぐった世界的な議論が終わるわけではないと前向きに話しているという。ロンドンに拠点を持つ金融システムの研究機関「ポジティブ・マネー」の幹部であるフラン・ボエイト氏は、「4分の1もの支持を得られたことは、金融システム改革に対して確かな需要があることを示した。現在の金融システムはほとんどの人にとって機能していない」とコメント。また、「ソブリン・マネー」キャンペーンのスポークスウーマンであるエマ・ドーネイ氏は、反対派の強さを考えたら結果は「とても満足できる」とし、今回のキャンペーンで少なくともお金はどうやって作られているか人々の認識を高めることができたと前向きに捉えている。

 米デジタルメディアのクオーツは、金融危機を受けた反応のうち、仮想通貨のミッションのようにエリートの権力を一般人に分散させる非中央集権的な金融システムの構築を唱える流れがある一方、中央の権力にさらなる力を与えようとする真逆の流れがあり、今回の国民投票は後者にあたると分析している。