twitter@takaoasayama)による寄稿記事です。ブロックチェーンについて興味を持ち始めた方が誤解しそうな事柄がわかりやすく解説されています>
2015年末になり、ようやく国内メディアでも「ブロックチェーン」という言葉を見かけるようになりました。また、株式市場でも同フレーズが買いの材料になるなど、遂にその波が来たのかと感慨深いものがあります。
しかし、我々テクノロジー業界においても、ブロックチェーン技術は非常に新しいものであり、人々の理解もまだまだ浅い分野であります。ましては一般的な方々にはまったく聞き覚えのない言葉であり、定義も技術も難解で、調べれば調べるほど混乱が生じます。
確かにブロックチェーンとビットコインは密接であり、両者は切っても切れない関係です。しかし、ブロックチェーンはすでにそのビットコインから独立し、一つの基盤技術として大きく成長しようとしています。
本日はディープな技術話はさておき、私が100社以上とブロックチェーンについて話してきた際に頻繁に遭遇した誤解について、それぞれを解きながら簡単に説明したいと思います。
ビットコインはブロックチェーンの一つ?
「ビットコインはブロックチェーンを使ったサービスの一つである。」確かにこれは間違いではありませんが、正しく言うと「ブロックチェーンとはビットコインの登場によって発明された根幹技術の名称」です。すなわち、ビットコインなしにはブロックチェーンは存在しませんでした。ビットコイン以外のサービスは、そのブロックチェーン技術の応用となります。
ここで非常にややこしいのが、ブロックチェーンはビットコインで生まれた技術そのものを指す場合と、その技術を使って生成した勘定データ部分を指す場合の両方があるという点です。
要はビットコインを構成する技術もブロックチェーンであれば、そこにある勘定データもブロックチェーン。ブロックチェーン技術を使ったシステム(サービス)で生成された勘定データもブロックチェーン。ややこしいですね。
採掘が必要?
ビットコインでよく聞くフレーズに「採掘(マイニング)」という物があります。これは、ビットコインネットワークの一つとして自分でコンピュータを立ち上げ、支払い処理の承認をするための競争に参加して勝つと、新規発行されるビットコインを報酬として得られる仕組みを指します。実際にどこかでコインを掘っているわけではありません。
とある銀行で弊社サービスについてお話をさせていただいていた際に、社内ではかなり詳しいとされる方からいろいろと質問をされておりました。この方はなかなか詳しいな、と思っておりましたら、最後に「では、御社製品を使う際は、複数の銀行員がコンピュータを設置して採掘に参加すると言う事でしょうか?」と言われて驚いた覚えがあります。
オリジナルのブロックチェーンであるビットコインでは、上述の通り支払い承認の競争を10分毎に催す事によって、取り消せない勘定データをブロックという単位で追加していく仕組みで「Proof of Work」という概念を採用しています。しかし、ブロックチェーンを使ったサービス全てにおいてその仕組みが必要で有るかと言えばそうではありません。その部分は様々な新しい仕組みが発明されていますし、採掘自体が存在しないサービスも多々あります。
これで、「ブロックチェーン技術なんて計算効率も悪いし、消費電力もとんでもないから使い物にならない」などという発言をして恥をかくことはもうありませんね。
元帳が丸見え?
ビットコインのブロックチェーンでは、アドレス(口座番号のような物)間の支払いは全て公開された状態で勘定(元帳)データに保存されています。これは、過去7年分全てが誰でもダウンロードして閲覧可能であると言うことです。
先日、実はビットコインはそのトレーサビリティから、銀行業(リスク34点)や現金(リスク21点)に比べて遥かに資金洗浄のリスクが低い事(リスク5点)が証明されましたが、その評価にはこのビットコインの透明性が寄与しています。
しかし、ブロックチェーンを使ったサービスの全てにおいて、勘定データ全てが公開されているわけではありません。中にはDASHという暗号通貨のように、支払いデータが秘匿されて記録される物もあります。更に、昨今金融機関にも注目されているプライベート型のブロックチェーンでは、企業のプライベートネットワーク内にブロックチェーンを作ることができますから、外部にその記録が閲覧されることはありません。
コインが必須?
これも頻繁に聞かれる質問でした。「ブロックチェーンを使う時は、必ず内部にコインを作らなければならないのか?」というものです。
これは、ブロックチェーンを使ったプロジェクトのほぼ99%が「~~コイン」という暗号通貨であることが原因かと思われますが、実際、ブロックチェーンではコインやトークンが必ず伴うわけではありません。
中にはコインやトークンの仕組みを一切持たずに、情報の記録に特化したブロックチェーンま存在します。また、弊社が提供しているmijinであれば、コインを発行することなしに自分で定義した複数の資産を管理できます。例えば、「円」、「ドル」、「ユーロ」を設定し、各ユーザーの残高管理が可能です。この際、中にわざわざコインを作る必要がありません。
データベースなの?
ブロックチェーンは、厳密に言えばデータベースよりは上のレイヤーとなります。ビットコインのブロックチェーンで言えば、ビットコインという1種類のトークン残高を保存するデータベースの機能を持っていますが、実際にはそれだけにとどまりません。ワンストップソリューションとして、各ユーザーの二重払いを防ぎながら、支払いデータを整合性を保ったまま記録できる立派な「勘定アプリケーション」の機能を有しています。
ブロックチェーンを単にデータベースとして考えると、その用途を見誤ってしまいます。ビットコイン以外のブロックチェーンにもそれぞれ違った機能が実装されており、単なるデータ記録システムや勘定システムからは大きく発展を見せています。中には、登記情報を記録する物から、ファイル自体を記録する物、プログラムを実行できる物まで様々な派生型が存在します。
第三者と共有しないといけないの?
ビットコインのブロックチェーンは、誰でもコンピュータを立ち上げてソフトウェアとしてのビットコインを動かせば、勘定データを全てダウンロードすることができます。そして、その送金を使うと、個人情報とは紐付かないものの、送金データは全ての参加コンピュータに共有されます。
通常、一般的な企業(得に金融機関)においては、いくら個人情報が紐付かないからとはいえ、顧客の取引が推測できるようなデータを社外に預け、更には公開された状態で保存する事などはもってのほかです。たとえ、そのデータが暗号化されていると言われてもそこはなかなか変わらないでしょう。
しかし、ブロックチェーンと言えども、ビットコインのように誰でもネットワークに参加できる「パブリック型」の物だけではなく、社内やパートナー間だけのために、自社クラウドやデータセンター内の閉じた環境だけで動かすことができる「プライベート型」のブロックチェーンも存在するのです。
まさに弊社で提供しているmijinが、それを作るためのプラットフォームなのですが、昨今金融機関がこぞって実証実験や研究開発を行っているのは、こちらのプライベート型であることが多くなっています。
分散型DBと同じなの?
少し技術に詳しい方になると、「プライベート型のブロックチェーンなんて需要がない。分散型DBで同じ事ができる」と否定されることがあります。しかし、金融機関がその分野でなくブロックチェーン技術に投資するには理由があります。
分散データベースでも当然銀行の勘定システムを作ることは可能でしょう。しかし、整合性を保ったまま既存の分散DB技術で勘定システムを作ろうとすれば、かなりの期間と予算が必要となってしまいます。とくに、実証や検証に莫大な資金が必要になるでしょう。
それに反して、一般的なブロックチェーンというのは、先述の通りそれ自体に「勘定機能」を持っています。すなわち、それだけで設計なしに、整合性を妥協することなしに分散型の勘定エンジンを動かせるという利点があります。
一般的な分散型DBは、整合性を妥協する代わりに処理を分散することを目的に作られていますが、ブロックチェーンは全く違います。一般的なブロックチェーンは、同じ仕事ができるコンピュータと、そこにある勘定データを分散することによって、この世から消えてしまうリスクをなくしてしまおう、という考えです。分散型DBは台数を増やすと処理能力が増やせますが、ブロックチェーンは違います。
一部のブロックチェーンが「分散型元帳(Distributed Ledger)」と呼ばれるゆえんはそこにあります。処理ではなく勘定エンジンとデータ自体が分散するため、ゼロダウンタイムを実現できるというわけです。
結局ブロックチェーンとは?
まとめると「ブロックチェーンはもともとビットコインによって始めて実装されたP2P形式の分散型勘定エンジン技術とその勘定データ群自体の名称であり、現在は独立してその技術自体が発展し、金融機関など様々な業種に活用され始めている。」となります。
さて、以上がこの数ヶ月で私が遭遇した皆様の誤解に対する解説でしたが、実は今回はブロックチェーンを特徴付ける最も重要な「暗号技術」について一切触れることなしに話を進めてみました。
実際はその暗号技術によって高いセキュリティや整合性が実現しているため、それなしにはこれ以上踏み込んでブロックチェーンの利点について語ることができません。それらの詳細ついては、いつかまた別の機会にお話ししたいと思います。