著者 大木悠 dYdX財団 Japan Lead

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、キー局のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。その後日本に帰国し、大手仮想通貨メディアの編集長を務めた。2020年12月に米国の大手仮想通貨取引所の日本法人の広報責任者に就任。2022年6月より現職。

最近の銀行業界の相次ぐ破綻や買収報道を受けて、分散型社会は一気に進むのだろうか?業界屈指の起業家は、Yesとみているようだ。この起業家は、2023年6月15日、ビットコインは100万ドルに到達することに賭けた。

銀行の破綻と規制の失敗からビットコインが90日後に100万ドルになると予想したのは、元コインベースのCTOであるバラジ・スリニバサン氏だ。同氏は、Twitter上で2名に対して、90日後に1BTCを受け取る代わりに100万ドルのUSDCを送ると約束した。

同氏は、現在の金融業界の危機は中央銀行と銀行、規制当局のせいであると主張し、さらに問題なのは、シリコンバレー銀行の一件で明らかになったように、彼らがグルになって銀行の破綻を預金者から隠していたことだと指摘。そして、今後2兆ドルの印刷が行われる結果、米ドルがハイパーインフレーションになると予想した。

(出典:@balajis)

現在2万8000ドル付近で推移しているビットコインは35倍上昇することになる。

同氏は、「1945年にハンガリーでは物価が15時間で2倍になった」と紹介し、「デジタル時代においてハイパーインフレーションはかなり速く進行する」と予想した。

なかなか俄に信じられない予想だが、もし本当に現実となれば、それはディストピアでカオスな世界への突入を意味すると心配する声もある。ハイパーインフレーション、取り付け騒ぎ、資産差し押させ、米国の没落、中国の台頭、そして戦争・・・。ビットコインを持つ者と持たざる者の間で格差も広がるだろう。そして、世界は終焉を迎えてしまうかもしれない。一体、人々はどこに行けば良いのだろうか?

実は、バラジ・スリニバサン氏には、Network States(ネットワーク・ステーツ)というブロックチェーン基盤の仮想国家の創設者という顔もある。現実世界から決別した全く新しい世界を作り上げるという構想だ。そこで生きる人々は「偽名(pseudonymity)」を使う。新しい自分の誕生であり、腐敗した現実世界からの脱出を意味する。匿名ではないところが肝であり、偽名には過去の行動に対する評価やデータが紐づく。分散型ID構想と近いコンセプトだ。

つまり、同氏にとって、ビットコイン100万ドルが意味する分散型社会の進行とは、現実世界における世直しの機運が高まることではなく、現実世界をあきらめて「新しい世界」に脱出する人が増えることを意味するはずだ。この違いは重要だ。そして、DAOとは現実世界のためにあるのか、新しい世界を見据えたイノベーションなのか、バラジ・スリニバサン氏の賭けをきっかけに一考する余地があるだろう。

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