暗号資産(仮想通貨)交換業者ディーカレットが事務局を務める、デジタル通貨勉強会が中間報告書を発表した。民間主導のデジタル通貨がどのような機能を持つべきか、どのような設計であるべきか、そして具体的なユースケースについて方向性を示している。

このデジタル通貨勉強会は、6月に発足したものだ。官民を横断したメンバーが参加しており、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクやインターネットイニシアティブ(IIJ)、セブン銀行、NTTグループやKDDI、東日本旅客鉄道(JR東日本)などが参加しているほか、金融庁や日本銀行といった公的機関がオブザーバーとして参加している。

勉強会では、これまで6回にわたる議論を行っており、今回の中間報告はこれまでの議論をまとめたものであり、民間発行によるデジタル通貨のモデルやユースケースの方向性を示している

民間主導勉強会が定義するデジタル通貨とは

中間報告では、デジタル通貨を、支払手段、価値の保存、価値の尺度という通貨の3機能に、電磁的に価値を記録するものがプラスされたものと定義している。

さらに、民間発行デジタル通貨といった場合、法定通貨を裏付け資産として、銀行や事業会社が発行主体となり、トランザクションの処理が集権型となるものと定義している。

出典:デジタル通貨勉強会 中間報告

デジタル通貨導入によって解決する、決済インフラの課題として、1)社会のコスト低減(バックオフィスの効率化など)、2)経済取引のリスク低減(同時決済の実現)、3)イノベーションの実現(経済高度化、データの有効活用によるイノベーション実現)の3つを挙げている。

デジタル通貨に期待される属性として、信用力・信頼性、可用性、プログラマビリティを通じた発展性を持つことが望ましいとまとめている。

さらにデジタル通貨の実現モデルとして、共通領域と付加領域の2層構造とすることで、効率的な発行・運用ができるようになるとまとめている。これにより、様々なな経済圏が持つ固有のニーズを実現できるとしている。

出典:デジタル通貨勉強会 中間報告

このようなデジタル通貨を構築する上で、ブロックチェーンを基盤とする方向性を考えている。これによりスマートコントラクトとのデータ共有が可能となり、同時決済を自動化することができる。
中間報告では、2層構造のデジタル通貨をもとに、小売・流通サプライチェーンにおけるユースケースを例示している。デジタル通貨では、物流・商流と金融分野の連携、金融取引の効率化など、経済圏において幅広い自律的連携を必要とする分野、複数のプラットフォームの橋渡しが求めれられる分野で、有効であるとまとめている。

今後について、この二層型デジタル通貨についての技術的フィージビリティを検討し、その詳細設計を進めていくことになる。

そして、実際に勉強会メンバー、必要に応じて勉強会メンバー以外の主体にも参加を呼びかけ、デジタル通貨の概念実証(PoC)を実施していくことを目指していくという。

今後解決するべき課題とは

デジタル通貨勉強会の座長を務める山岡浩巳氏は、メディア向けの中間報告会の中でこれまでの検討を総括している。

デジタル通貨を巡る検討が世界各国で進められている現状について、「通貨の使い勝手をよくしなければならないという認識、一国のインフラの競争力を決めていくのだという認識がますます強くなっている」と指摘する。

IoT(モノのインターネット)やAPIによって、経済活動で財やサービス、データががデジタルによつてつながっていく社会になる中で、「その中で課題として出てくるのは、その対価をどうやって移転させていくのかという問題である」と山岡氏は指摘する。

「デジタルトランスフォーメーションにおいて、マネーというのは重要なエコシステムの一環である。どういったシステムを構築していくかという観点から考えなければならない。デジタルマネーというのは、これからの社会を考える上で、重要なインフラであり、また重要なエコシステムの一環である」

最近の新型コロナウィルスの観点から、「世界においてデジタル通貨を検討を加速させる一因になっている」と山岡氏は語る。現金になるべく触らないという感染対策という観点とともに、経済活動を維持させるために経済全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させるというものだ。

山岡氏は、今後デジタル通貨を考えるには、3つの課題を検討していく必要があると述べている。1つがシステムの安定性・頑健性をいかに確保するか、2つ目がデータの活用をする際にデータの保護・プライバシーをいかに確保するか、3つ目としてはいかに持続可能なビジネスモデルを構築するかということだ。こういった課題についてさらに深掘りしていくため、勉強会メンバーらによる概念実証を進め、課題克服に取り組んでいく考えという。