仮想通貨で日本のアニメやゲームなどのオタク文化を盛り上げる計画が、今年の夏以降本格始動する見込みだ。オタクコイン準備委員会は9日、東京・秋葉原でオタクコイン構想発表会を開催した。物販の支払いや、コンテンツ制作者の支援に使えるオタクコインを流通させ、オタク経済圏の活性化を目指す。オタクコインはイーサリアムのブロックチェーンで発行するECR20トークンで、まずはオタク文化に関心が高い人に同コインを無償配布する。新たな仮想通貨を発行し、販売することで事業費を調達するイニシャル・コイン・オファリング(ICO)は実施しない。

オタクコイン構想を起案したトーキョー・オタク・モードの小高奈皇光CEO(中央)

投票機能付きの仮想通貨

 同構想を起案したのは、フィギュアなどアニメ関連グッズの越境EC事業を手がけるスタートアップ企業、トーキョー・オタク・モード(TOM、米オレゴン州)。同社でCEOを務める小高奈皇光(こだか・なおみつ)氏によると、オタクコインのビジョンは、ファン投票で人気を集めた漫画やアニメ、ゲームのアイデアを実現することだ。制作化を望むプロジェクトを集め、定期的に投票イベントを開催する。投票権を持つのは、オタクコインの保有者。保有するコイン1OTC(オタクコインの単位)につき1票が付与される。10OTCを保有している場合は、制作化を支援したいプロジェクトに10票を投じることができる。人気投票で選ばれたプロジェクトには、オタクコインが供与され、それを日本円と交換することで、制作費を調達できる仕組みだ。

 コインの大量保有者が票を独占しないよう、一人当たりの投票数を制限するのに加え、プロジェクトの得票数に対して一人当たりが占める割合にも上限を設定し、中央集権的なシステムになるのを防ぐことを検討している。

 投票プラットフォームの開始は来年中を予定している。オタクコインの取引所への上場については、「こちらが決められることではない」としながらも「うまくいけば来年」(小高氏)という。まずは今年の夏から秋に、仮想通貨ウォレットの数万〜数十万アカウントに対し、オタクコインを世界中で配布する。投票プラットフォームが開始するまでは、TOMのECサイトでの物販の支払いが、同コインの当面の用途となる。

 オタクコインの発行上限は1000億OTC。一度に全て発行する。うち無償配布には5%、運営費には39%、プロジェクトの制作費には56%を振り分ける。

ICOは資金調達効率が高くない

 オタクコイン準備委員会が昨年末に出したリリースによると、ICOによる資金調達は選択肢の一つとして検討していた。しかし、オタクコインの構想発表会ではICOをしないと明言した。方針転換した理由について小高氏は、まず実務的な問題を指摘する。ICOは金融庁への届出が必要になるのに加え、法整備が不十分なため、税務面などグレーエリアが多いという。ICOで事業資金が潤沢になるかもしれないが、例え50億円を調達したとしても課税対象となってしまう。従来の資金調達は非課税であることから、現時点でICOの調達効率は実は良くない可能性があるとの認識を示した。また、TOMの既存の株主から資金を調達する選択肢もあり、フェイスブックなどを通じたプロモーションチャネルが既にあることから、ICOを見送った。

 オタクコイン準備委員会のアドバイザーで、慶應義塾大学SFC研究所の上席所員である斎藤賢爾氏は、ICOの性質から事業が遂行されにくいと指摘する。ICOは、一山当てたいと考える発起人が、発行される仮想通貨の値上がり分で一山当てたいと考える他の人の気持ちを利用し、事業資金を調達するモデルであり、ICO自体が目的化する危険性がある。資金が集まった時点で目的が達成されやめてしまうケースが多く、ICOの8〜9割りがホワイトペーパー通りに事業が遂行されないことに言及した。

開発中のオタクコイン専用ウォレット