仮想通貨スタートアップの新たな資金調達法「TEC」【セレス×シンクロライフ対談】

 トークンエコノミーを導入したグルメSNS「シンクロライフ」を提供するGINKAN(東京・新宿)は10日、株式にトークン転換権を導入し販売するという新しい手法で資金調達したと発表した。第三者割当増資の引受先はスマートフォンメディア事業を手がけるセレスと元サイバードホールディングス代表取締役会長の小村富士夫氏。シンクロライフ内で流通するトークン(SynchroCoin、SYC)に交換できる権利をGINKAN株に付け、計8000万円を調達した。

 この手法は米国のベンチャーキャピタル(VC)の間で「Token Equity Convertible(TEC)」と呼ばれているもので、今後、仮想通貨スタートアップへの投資手法として増加すると考えられる。セレスによると、TECを実施したのは世界で初めてという。TECを提案したセレス経営企画室の岩佐 琢磨氏とGINKANの神谷知愛CEOにTEC実施の背景や利点について話してもらった。

株式投資においてICO実施企業はネックになる

 GINKANの香港子会社SynchroLifeは、昨年9月にICOを実施し、SYCを発行している。セレスの岩佐氏は、GINKANへの投資を検討した時に、このICOがネックだったと話す。

 仮想通貨の会計処理は、日本でも国際会計基準(IFRS)でも具体的な事例がなく、ICOを実施していると、監査法人が監査契約を結んでくれないケースが考えられる。そうすると、株式市場への上場によるイグジットが出来なかったり遅れたりする可能性が出てくる。会計処理を巡っては、実際に東証マザーズ上場企業のメタップスが、韓国子会社のICOに関する会計処理で難航している。

「この監査の障害を乗り越えるにはトークン転換権しかない。それが一番ベストだと思った(岩佐氏)」

 TECは、トークン売却によって、上場よりも迅速なイグジット手段となる。また、ICOがネックになり上場できない場合でも、投資家は株式をトークンに転換することで現金化できる。

今後の資金調達を考えてICOを諦めなくても良い

「去年からスタートアップ界隈では、ICOするか、IPOを目指すかという話をよく聞く。ICOするとIPOをある程度諦めないといけないとか、日本には、そういう空気感がある(神谷CEO)」

 監査法人との契約問題、今後株式での資金調達ができなくなることを懸念してICOをしたいのにしないのは間違いだと神谷氏は指摘する。「ICOをすることで、プロジェクトの応援者、資金、トークンをベースにしたコミュニティが手に入り、マーケティングにもなる。事業設計をしっかりやって、レギュレーションの中でやればデメリットがない。日本で出来なくてもグローバルではICOの仕方はある」。

 TECという新しい手法が提供されることにより、ICO実施済みの企業が株式で資金調達しやすくなり、これからICOを検討している企業は投資側の懸念材料を取り除ける。

 一方で、トークンの設計によっては、この手法が向いていない場合がある。例えば、トークンがインフレ通貨であれば、トークンを発行し続けることで価値が希釈化され、将来的にトークンの価値が読みづらくなるため、投資家にはデメリットになる。神谷氏は、トークンと会社の両価値を出資者と共有したい場合に向いている手法と述べた。

仮想通貨スタートアップの事業加速に期待

「トークン転換権をつけていることで、時間が経った後に、事業自体は成長しているのに、上場どうなるという話でリソースを奪われなくて済む。事業がしっかり進んでいれば、株もトークンも値上がりしているはずで、それが本来あるべきICOプロジェクトの姿。

事業がうまく言っているのに、テクニカルな部分で揉めなくなり、事業に専念してもらえるのが良い。[…]

このスキームが広がれば、トークンを組み込んだビジネスモデルの企業が、資金調達や事業を回しやすくなる。 今はトークン転換権がないことで、上場というしがらみがあるけど、それが取れた。一方で、事業自体がしっかりしていないとトークン値上がりしないから、純粋に良いICOプロジェクトに良いソリューションを提供できた。投資する側もネックになっていたものが取っ払えた(岩佐氏)」

 セレスとGINKANは今年の5月初旬から資本提携の話を進めてきた。締結までにおよそ3カ月かかったのは、TECの前例がなく、契約書のフォーマット作りに時間がかかったからだ。香港と日本法人の関係や、ICOトークンの保有の権利関係などを整理した。両者は、この新しい資金調達手段は、スタートアップがプロジェクトに専念できる環境を与える合理的スキームだと口を揃える。今回前例に倣い、この手法を取り入れる企業が出てくるかもしれない。

関連記事:レストランレビューにトークン報酬システム、日本企業が世界で初導入

セレスがシンクロライフと提携、トークン転換権付き株式取得