アイオア州の党員集会で「民主党の新星ブティジェッジ氏がリード」は1番のニュースではない。重要なのは、「誰もアイオワ州で勝利宣言をできないまま次に進むしかなくなったこと」だ。

トランプ大統領の対抗馬を決める民主党の大統領候補争いの本格的なスタートと位置付けられるアイオワ州の党員集会。アプリ問題で結果発表が丸2日間も遅れる中、開票率92%でブディジェッジ氏は26.5%を獲得。2位のバーニー・サンダース氏は25.6%、3位のエリザベス・ウォーレン氏は18.3%、4位のジョー・バイデン氏は15.9%となっている

確かに無名で38歳の若手が70代の対抗馬を相手にリードすることは注目に値する。しかし、アイオワ州ではもっと驚くべき事態が起きているのだ。

それは、結果発表が技術的な問題で遅れた結果、「アイオワ州での勝利演説」という歴史的に重要な機会を手にすることができた候補が誰もいなかったことだ。もちろん今後開票率100%になったのを受けて勝者は勝利演説を開催できる。しかしアイオワ州への注目度が一番高かった2日前と比べたら、勝利演説のインパクトは格段に下がることになる。

アイオワ州の勝利演説で有名なのはオバマ前大統領だ。2008年にアイオワで勝利した当時無名のオバマ大統領は、勝利演説で勢いをつけて大統領の座まで勝ち取った。

今、人々の注目は、次のニューハンプシャーでの予備選やアイオワ州の混乱の引き金となったシャドウ社のアプリだ。今回、アイオワ州の勝者による勝利宣言が行われたとしても、2日前よりは扱いが小さくなることは間違いないだろう。

「アイオワ勝者なし」の影響は?

では「アイオワ州の勝者なし」は、今後の民主党候補者争いにどのくらいの影響をあたえるのだろうか?

著名な選挙分析サイトFive Thirty Eightは、「大統領指名プロセス全体をめちゃくちゃにした」というタイトルでその効果を測定。大統領の指名に必要な代理人3979人のうちアイオワ州ではたった41人しか獲得できないにも関わらず、アイオワ州の勝者はメディアで扱われる量などからかなり優勢になると指摘した。実際、指名プロセスの中でアイオワ州の党員集会は、スーパーチューズデイに次いで2番目に大事な日とみている。

それにもかかわらず、民主党は誰も勝利宣言をすることができなかった。

Five Thirty Eightは、アイオワ州で良い結果を残した候補がダメージを受ける一方、良くない結果を残した候補が追い風を受けるだろうと分析。具体的には、現時点で4位に沈むバイデン氏に有利となり、リードするブディジェッジ氏とサンダース氏には不利な結果となる。

(出典:Five Thirty Eight「代理人獲得予測 アイオワ州党員集会の前夜VSアイオワ州なしと仮定した場合」)

サンダース氏は、アイオワ州党員集会前夜時点では43%だがアイオワ州なしと仮定した場合は50%に上昇。一方、サンダース氏は32%から21%、ブディジェッジ氏は4%から1%未満に下がっている。

問題は、「敗北」を隠すことができたバイデン氏が今後勢いに乗って民主党の指名を獲得する場合、民主党が一致団結できるのか?という点だ。サンダース氏やブディジェッジ氏の支持者の中からは「アイオワ州で勝利演説ができていたら・・・」とわだかまりが残るだろう。

さらに、そもそも「民主党の新星ブティジェッジ氏がリード」とブディジェッジ氏を手放しで評価する報道もミスリードだ。

そもそもブディジェッジ氏は白人層の多いアイオワ州での勝利にかけており、多くの資金を投入していた。アイオワ州は同氏にとって負けられない州だったのだ。また、集計の混乱を招いたアプリを開発したシャドウ社にブディジェッジ氏が多額の寄付を送っていたことが判明し、批判の対象となっている。

さらに今後、支持基盤が弱いとされる黒人有権者を惹きつけるための策も明らかにしていない。

日本のメディアは何を学んだ?

日本では、アイオワ州の党員集会について「初戦アイオワで異変 ブティジェッジ氏、世代交代訴え サンダース氏と競る」「民主党の新星ブティジェッジ氏、経済政策に見える希望の光」という報道をするメディアが見られる。しかし、こうした報道は、ブディジェッジ氏が2008年のオバマ大統領のような本当の意味での「新星」ではないだけでなく、アイオワ州で起きている事態が民主党の命運を大きくかえたことを伝えない結果を招くことになる。

アイオワ州での勝者は「もはやどうでもいい」状態なのだ。問題はそこではなく、誰も勝利宣言ができなかったこと、そして民主党内で亀裂を生んだことだ。

トランプ大統領は、4日、支持率で自己ベストの49%を記録した。大失態を起こした民主党の候補者は、勢いに乗るトランプ大統領に挑戦する準備ができているのだろうか?

3年前の大統領選挙の時、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNなど米国のリベラル系メディアはトランプ大統領の躍進を報じなかった。そして日本の大半のメディアは、そうした米国の報道を鵜呑みにした。

今年の大統領選は同じ過ちを犯さないですむだろうか・・・。