本稿は投資に関する助言や推奨を含みません。いかなる投資にもリスクが伴います。投資にはリスクが伴います。投資の判断をする際は、ご自身でリサーチをお願いします。
17年12月の強気相場に続いた華々しい登場以来、ビットコイン先物は多くの仮想通貨ファン達の心の中で不思議な定位置を占め続けているようだ。仮想通貨界隈の力学に追従する人々の間でよく聞かれる見解は、BTC先物に関する次のような一連の定番の意見に基礎づけられている。それは17年後半から存在し、世間に認められている2つの規制を受けた取引所であるシカゴ・オプション取引所(CBOE)とシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)によって提供され、投資リスクの管理に役立ち、そのため機関投資家の資金を仮想通貨分野に引き込んで価格変動を緩和し原資産の信用を高めると考えられている。
しかしここ数週間、仮想通貨先物に関する新たな考察がより頻繁にメディアに現れるようになり、これまでの落ち着いた心象に変化が見られた。仮想通貨価格を強く抑え込むという主張から、仮想通貨デリバティブを提供するプラットフォームの幅が広がるという主張、イーサリアム先物がもうすぐ登場するという現実的な予測まで、これらの新たな事実は仮想通貨に基づく先物という分野を再検討する必要性を示している。今やこれらのデリバティブは半年以上存在しているので、仮想通貨金融におけるこの資産クラスの役割に関するより細やかな事実が表面化しつつある。
仮想通貨先物のはじまり
簡単に言うと、先物取引(先物)とは特定の商品を指定日に売買するという契約だ。先物は必需品の価格変動にまつわるリスクを緩和する手段としても、取引可能なデリバティブ商品としても使われる。
規制されたデリバティブ市場へのビットコイン先物の導入を仮想通貨コミュニティが待望していた理由は数多くあった。先物は長らく、仮想通貨金融の世界を伝統的な金融機関のシステムと調和させるための最初の足掛かりだとみなされてきた。明確な法的・運用的枠組みの中に存在する先物取引は、思慮深いウォール街の企業が流行りの仮想通貨へ参入するために待望していた合法性と安全性を提供する。
市場の流動性と参考価格の透明性が高まるといった副次効果もあった。言い換えると合法性と安定性が増すという事だ。仮想通貨先物は同時に、暗号資産に関心を持っているが未規制のスポット取引所での取引は警戒している多くの小口投資家にとって有望だった。この種の投資家にとってビットコイン先物の最大の利点は安全性だろう。現金決済の仮想通貨先物の保有ではコイン自体に触れる必要が無く、暗号資産の盗難やハッキングの恐れが無いためだ。しかし逆に言えば、実際のコインを所有していないという事は先物取引をしている人々にはフォークの際に無料のコインを入手する資格が無いという事でもある。
シカゴ・オプション取引所が12月11日に現金決済のビットコイン先物取引を開始し、競争相手のシカゴ・マーカンタイル取引所が6日後に追随した際、両社のBTCデリバティブとBTC自体の価格は前例の無い世間の注目の中で急騰した。CBOEの先物は1単位当たり1ビットコインに対応し、CMEの先物は1単位当たり5ビットコインだった。共にロング(購入契約)かショート(売却契約)のポジションを取ることが可能で、投資家はビットコイン価格の上昇にも下落にも賭けることができた。
CBOEはウィンクルボス兄弟が運営する仮想通貨取引所ジェミニとの提携を活用し、彼らの仮想通貨の価格追跡に関する経験を用いてCBOEジェミニ・ビットコイン先物指数というツールを作成した。CMEグループは仮想通貨デリバティブに関する経験が豊富な英国に本社を置くクリプト・ファシリティーズと共同で、CME CFビットコイン参考基準レートとCME CFビットコイン・リアルタイム指数という独自の価格追跡ツールを作成した。
「悲観主義者」の思い通りに?
凄まじい過剰宣伝にも関わらず、ビットコイン先物取引の取引高は一部のファンが期待していたほど目覚ましいものではない事がすぐに明らかになり、最初の辛辣な批判が生じた。最初の急騰の後ビットコイン価格が1月に急落したことも、デリバティブ市場の成長の助けにならなかった。
ソーシャルトレード及び資産ブローカー企業、イートロの上級市場アナリストであるマティ・グリーンスパン氏は、この動きは驚きではないと話す。
「ビットコイン先物は確かに新たな投資家に市場を開放した。彼らは先物が無ければ参入しなかっただろう。しかし、これまでの取引高はむしろ熱意に欠けたものだ。これは大して驚きではない。ビットコイン価格は今年着実に下落しており、下に向かう限り参入する動機がほとんど存在しない」
失望的な取引高の原因が原資産の価格下落にあるという考えは興味深いが、実は両者はある種の鶏と卵の関係にあり相互に影響し合っていると指摘する分析者もいる。ビットコイン価格の暴落についての様々な説明がメディアに現れ始めていた1月には早くも、あまり目立たないが合理的な理由の1つとして先物取引が仮想通貨市場を売り方の投資家に開放したことが挙げられていた。
小口投資家や機関投資家の先物取引に関する様々な戦略を示す興味深いパターンは、このような主張の間接的な証拠になるかもしれない。1月のウォールストリート・ジャーナルの調査で明らかになったように、「一般市民」はBTCの価格上昇に賭けることが多いが、機関投資家はショートする傾向にある。
しかし当時、これらの懸念は主流メディアの念頭から離れていたようだ。この懸念は5月、サンフランシスコ連邦準備銀行の文書でビットコイン先物の出現と同コインの価格下落は「偶然の一致には見え」ないと示唆された後に初めて本格的に再浮上した。FRBのアナリストは、仮想通貨先物の登場によってこれまでスムーズに成長を加速させてきた「楽観主義者」に対抗するツールが「悲観主義者」に初めて与えられたと説明した。同様の趣旨の証拠として、ファンドストラットのトーマス・リー氏はビットコイン価格下落の原因は6月中旬のCBOEの先物の期日にあるとした。
しかしこの問題はどちら側に解決することもないようだ。仮想通貨価格下落に関してビットコイン先物を非難する人々は、逆サイドからの同じくらい強い主張に直面する。
マティ・グリーンスパン氏は「最近計算したが、辻褄が合わないようだ」と述べ、単純に先物市場の規模は仮想通貨エコシステム全体を持続した弱気のサイクルに追いやるには不十分だと主張した。
投資プラットフォーム、シェアーズポストの取締役で研究主任であるロヒット・クルカルニ氏は、「悲観的な投機家」が及ぼすある程度の影響を認めつつ、責任の大半は18年前半の規制の混乱にあるとした。
「(17年12月)後のビットコイン価格下落はこれらの先物の導入によるものではなく、むしろ仮想通貨市場を取り巻く規制の不確実さによるものだ。加えて、悲観的な投資家による非合理的な投機もここ6カ月の価格動向に寄与していると考えられる。そういうわけで我々は、現在進行中の仮想通貨の弱気市場はこのエコシステムを短期志向の投機家から奇麗に洗い清め、長期的には仮想通貨エコシステムとって有益だと考えている」
BTC以外にも採用広がる
ここ半年、CBOEとCMEだけが仮想通貨先物に取り組んできたわけではないし、先物の原資産はビットコインだけではない。3月以降、英国に拠点を置く金融機関がこの分野に最新ニュースを提供し続けている。英国で仮想通貨取引所を運営しているコインフロアは3月、初となる現物決済のビットコイン先物商品を立ち上げると発表しニュースになった。
同じく3月には前述の新興企業、クリプト・ファシリティーズが、何らかの理由であまり周知しないまま、リップルのXRPトークンに紐づけられた先物取引を16年10月から提供していたことが突然明らかになった。クリプト・ファシリティーズは5月11日に別の衝撃的なニュースを仮想通貨界隈に投下し、ETH/USD先物の提供を発表した。さらに同社は6月、初となる規制されたライトコイン先物を発表した。
規制上の障害のため、このような驚異的な猛進は大西洋を越えた米国ではほぼ不可能だろう。仮想通貨デリバティブ競争に参加する立場にあると思われる米国の名だたる人物の何名かは態度を保留したままだ。
しかし米国の企業が仮想通貨に基づくデリバティブ取引促進への取り組みをやめたわけでは無い。ニューヨーク・タイムズは5月第1週に、ゴールドマン・サックスとニューヨーク証券取引所が仮想通貨取引プラットフォームと商品を立ち上げる計画を活発に進めていると報じた。その数週間後、ペンシルバニア州に拠点を置くサスケハナ・インターナショナル・グループは、自社の金融商品にビットコイン先物を加えた。
6月13日には米国の仮想通貨先物にとって非常に重要なものとなるかもしれない規制上の進展が見られた。米証券取引委員会(SEC)コーポレート・ファイナンス部門のウィリアム・ヒンマン局長は、「現在のイーサの提供と販売は証券取引ではない」と述べた。この発言は業界に活気を与え、仮想通貨に精通しているCBOEのクリス・コンキャノン社長はETH先物について言及した。イーサリアム・デリバティブのインフラを既に整えているクリプト・ファシリティーズとCMEとの提携を考慮すると、CBOEがそのような商品の草分けになった場合には、CMEがすぐに追随することは想像に難くない。
これらすべての課題にも関わらず、仮想通貨に基づく先物は明らかに機関投資家の資本を仮想通貨金融エコシステムに引き込むことにかなり成功している。多くの専門家はこの傾向のさらなる進展について肯定的で、仮想通貨が金融システムの新たな要素となると見ている。
クルカルニ氏は「先物取引1周年が近づくにつれ、より多くの機関投資家が仮想通貨専門ファンドについて大きな動きを見せることを期待する。最近の例としてはA16Zが、アンドリーセン・ホロウィッツの立ち上げた3億ドルの仮想通貨ファンドを発表している。このファンドは仮想通貨とその他のブロックチェーン関連事業に特化した投資を行う」と指摘している。
ブロックチェーン・ソリューションを提供するGECKOガバナンスの共同創設者でCEOのシェーン・ブレット氏も同意見のようだ。
「仮想通貨先物は市場の成熟と合法化を加速させる。その出現は近い将来にメインストリームでの採用が増える明確な兆候だ」
「一般市民」の小口投資家については、仮想通貨先物導入の直接的な利益は今のところ比較的小さい可能性が高い。
イートロのマティ・グリーンスパン氏は「実際、中小投資家にとってはウォール街の先物を利用する利点は大きくない。彼らは同じくらい簡単にビットコインを直接買うことができる。また先物の最小契約量も参入障壁になり得る。CMEの先物は5BTC単位に設定されており、これは多くの小口の顧客が扱い慣れている以上のものだ。1BTC単位に設定されているCBOEの先物でも、多くの人々には扱いづらいものだ」と結論付けた。