ビットコインが現れてから10年近くが経過した。主要金融機関はその間にゆっくりと、ブロックチェーン技術および仮想通貨への理解を深めてきている。

 この新しい分野に対し素早く適応する者もいれば、仮想通貨を使用することおよびそれへの投資に徹底的に背を向けた者もいた。

 けれども焦点となっているのは主として、これら分散型デジタル通貨を支える技術が従来型の銀行および金融機関でどのように活用できるのかという点だ。

 多数の大手金融企業が、様々な業務のためのブロックチェーンをベースにしたシステムを積極的に開発している。JPモルガンのクォーラム・プラットフォームはイーサリアムのブロックチェーン上で動くシステムで、ユーザー企業は、参加グループ内でのプライベートなトランザクションを行える。

 JPモルガンのプロジェクトが主流メディアから多くの注目を浴びたと同時に、分散台帳技術の適用は多数の業界に広がりを見せている。例えばモルガン・スタンレーは、トランザクションを処理し内部データをバックアップするためにブロックチェーン技術を利用した。この技術の恩恵は、PwC、デロイト、KPMGのようなグローバル監査法人でも役立てられている。

 世界銀行は8月、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)からブロックチェーンを使っての世界初の債券発行を開始する予定であると発表した。同プロジェクトについた「ボンダイ」(bondi、Blockchain Operated New Debt Instrument)の愛称は、世界的に有名なシドニーのボンダイビーチにちなんだものでもある。

 この債券は現時点で正式発行が始まっており、8月28日に締結される契約は7300万ドル規模で期間は2年。CBAは、同取引からの利回りは2.2%と述べている。

 グローバルな大手銀行によるこの最新の動きには重要な意味がある。ブロックチェーン・システムの利用と、その可能性の理解に対しての変化を示すものだからだ。

 コインテレグラフとの独占インタビューで、世界銀行の財務、資本市場銀行取引および決済を担当するポール・スネイス氏が、同行においてブロックチェーン技術利用に至るまでの道のり、そして仮想通貨に関する世界銀行の考えを解説した。

なぜブロックチェーンなのか、なぜ豪コモンウェルス銀行か?

コインテレグラフ: このブロックチェーン債の実現には、どのくらいの期間を要したのか。そしてこのプラットフォーム開発に当たって、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)が選ばれたのはなぜか?

ポール・スネイス氏: プロジェクトを内部で検討し始めたのは17年8月。CBAとの正式合意に至ったのはその後18年1月だ。

 重要だったことが3つある。まず1つに、ブロックチェーンのフィンテックを育てる非常に前向きな環境があること。オーストラリア政府のあらゆるレイヤーが、ブロックチェーン技術に関して興味を示しているというのが我々の理解だ。政府の規制機関も、何が起こっているかに興味を示している。

 例に出したことがあるのは、オーストラリアの証券取引所が16年に、株式決済システムを個別の資産保有に置き換えることを選んだ事例だ。オーストラリアのような大きな市場では、技術の有益性と規制レベルでの政府による支援を理解するのには、株式決済システムと主要な市場インフラは強力なインジケーターだ。

 我々は長年にわたってCBAと仕事をしているが、彼らはイノベーティブな存在だ。17年1月以来彼らが取り組んでいるプロトタイプのトランザクションについては承知している。〔…〕イノベーションに対する彼らの真摯な姿勢も、彼らのあらゆる事業部門にとってこのような技術は驚異であり、そして機会であると彼らが把握していることも、私たちは認識している。香港、シドニー、ロンドンに、彼らが一つずつイノベーション研究所を持っているのはそのためだ。我々はCBAを、イノベーション志向の銀行として捉えている。

 最後に、市場について指摘したい。世界銀行は、長年にわたりオーストラリアで債券を発行してきた。私たちはオーストラリア市場で、投資家たちにも名前が認識されている。ビジネスに好都合な下地がすでにあるということだ世銀の名前は規制レベル、イノベーションレベル、市場レベルのいずれでも、好意的に認知されている。

コインテレグラフ:このプロジェクトを進めるにあたって候補にあがった国、または分野は他にあったのか。

PS: 17年下半期、いろいろなテクノロジー企業と相当数の予備交渉を行なったが、先ほど話したようなオーストラリアほど条件に適したとみえる案件は、他には無かった。私たちは「内包済み」という言葉を使っているが、パートナーに関しては、イノベーションの面でも規制の面でも、オーストラリアがいちばんあらゆることを内包済みの市場だった、という訳だ。

世界銀行と仮想通貨

PS: これ(仮想通貨)に関して、世界銀行では公式見解を検討しているものの、現時点ではそれはまとまっていない。しかし内部での議論は続けている。

 鍵となっているのは、仮想通貨がプルーフ・オブ・ワークを使用しているという点だ。よってそれは、合意を確立するためにかなりの電力とエネルギーを消費している。私たちは経済開発の組織であり、地球温暖化などの原因になる二酸化炭素排出量や発電といった、開発関係の問題に常に配慮する立場にある

 例えばプルーフ・オブ・ワークによる電力消費には、多少の不安を感じている。

 また190カ国以上から出資を受ける公的機関として、世銀にとってマネーロンダリグ対策(AML)およびテロ資金供与対策(CFT)の問題は大変重要だ。しかし仮想通貨の使用について、AMLとCFT関連の懸念事項は未だ解決していない。よって明確なフレームワークが持てるまで、関与しないことが重要だと考えている。これらが、世銀が現時点で公式見解発表に踏み切らない理由の一部だ。

この債券取引の決済に、仮想トークンの使用を検討はした。しかし採用しないことに決めたのは、現金を使用することで投資家全員に慣れ親しんだ環境を作り、トランザクションのディリスクを図ったというのが主な理由だ。

 このように大規模なトランザクションに投資家を集めるには、安心さの提供が欠かせない。巨大市場で展開し、AAAの格付けを有する世界銀行の名前は、確実にその一つだ。しかしそれを支える新しい技術ゆえに、現金決済分でトランザクションをディリスクすることが重要になる。

 私たちは、技術面がどのような展開を見せるのかに大きな関心を持って見守るつもりだ。世銀では、これら技術を、登録簿上の有価証券の譲渡と、現金所有権の交換に分類した。いずれの問題も長期的には解決し、これらの市場を改革し、より迅速な処理ができるようにしてくれるだろう。

ブロックチェーンベースの債券と銀行業界

PS:世銀として、今回の発表が注目を集めることを期待している。すでに動き始めている国際市場の有力プレーヤーについて、あなた方も既に気づいていることだろう。オーストラリアの証券取引所については触れた通りで、それは基礎的なものだ。その他の地域では大がかりなインフラ整備が未だ起こっていないものの、シンガポール、カナダ、その他の国々で多くの研究が実施されている世銀としては今回の発表が、それらを後押しするものになればいいと考えている。

 最後に、世銀は主として開発機関である。このトランザクションは、我々が学ぶのに大変役立っている。資本市場において、世銀は常にイノベーションに取り組んできた。この技術が資本市場にもたらす影響についてより深い見識を得て、価値を動かす他の方法について探求できるようになることを期待している現在は銀行口座を持たない、または金融サービスに十分なアクセスを持たない地域を助けるのに、これらの技術は大いに役立つだろうと考えている。

 世界の貧困層に対し、これら技術がどのように利益をもたらすことができるのか。それが私たちの最大の関心事であり、世銀の主な焦点だ。