DappRaderによって公開された新しい指標は、分散型金融(DeFi)エコシステムがどのように成長しているかについて、より信頼性の高い姿を描こうと考えている。

「調整済TVL」と呼ぶこの指標は、DeFiでロックされた総価値(Total Value Locked、TVL)から外部の影響、つまり価格の上昇を排除しようとするものだ。

ロックされた総価値(TVL)は、多くの場合、DeFiプロトコルとセクター全体の人気の尺度とみなされている。ただし、それを米ドルで換算すると、新しい資産がプロトコルにコミットされていなくても、トークンの価格上昇によってTVLが上昇してしまう。研究者たちは、これが強気市場のおいてTVLの値を膨らませてしまう一方、弱気サイクルの間には不当に過小評価されてしまうと指摘している。

DeFi情報サイトのDeFi Pulseでは、プロトコルにロックされているイーサ(ETH)、ビットコイン(BTC)、DAIの量を表示することができるが、これは指標に寄与する可能性のある他のトークンを考慮に入れていない。

たとえば、Aaveでは、ロックされているトークンの大部分は、LEDN、チェインリンクのLINK、およびトゥルーUSD(TUSD)やUSDコイン(USDC)といったステーブルコインで構成されている。

DappRadarの調整済TVLは、プロトコル内のすべての資産を90日前からの価格で調整される。したがって、90日間のこの調整された値の成長もしくは損失は、資産の純フローからのみ発生し、価格の変化からは発生しない。

調整済TVLは、これまでのTVLが示唆するよりも少し楽観的な姿を描いている。73億ドルの名目TVLのうち、調整済TVLは39億ドルしか占めていないかった。これは、残りの34億ドルが過去3ヶ月間の資産価格上昇によってもたらされたことを意味する。

プロジェクトごとに見てみると、調整済TVLと名目TVLとの間の差異が最も少ないプロトコルは、ステーブルコインが中心の分散型取引所Curveだ。それでも15%の差異が存在している。これはCurveのカテゴリーで説明されているように、ラップされた異なるバージョンのビットコインとイーサの間のスワップによるものだ。

MakerとAaveは、イーサおよびほかのトークンに依存しているため、それぞれ約30%の差異がある。最も高い差異は、SynthetixとmStableでみられる。Synthetixは調整済TVLで1億800万ドルだが、名目上の数値は9億3100万ドルだ。mStableでは調整済が90万ドルで、名目の数字が5000万ドルとなっている。

価格の上昇に合わせて調整すると、DeFiの拡大を視野に入れることができる。セクターに流入する資産の総量は確かに増加しているが、実際の調整済の数値はより少ないものになっている。

TVLという指標の普及は、人気の高まりを意味するという錯覚を生み出し、価格に上昇にもつながっていると主張する論者もいる。SynthetixやmStableなどの例は、ネイティブトークンの価格上昇が、TVLの増加の大部分を引きこしたことを示唆しており、これはこういった正のフィードバックの結果である可能性がある。

しかし、価格の上昇を割り引いても、調整済TVLがプロトコルの人気とファンダメンタルズの完全に公正な状況を描くことを必ずしも意味するわけではない。たとえば、コンパウンド(Compound)、Curve、その他の場合、新しいアセットは、トークンを獲得する目的でのみ使われる。

ファンダメンタルの観点からみると、これらの資産もTVLを膨らませている。トークンの配布がなければ、資産はプロトコルに集まらない可能性が高いからだ。

DappRaderのプロジェクトマネジャーであるイリヤ・アブゴフ氏は「業界で何が起こっているのかを説明するには1つの指標だけでは不十分だ」と、コインテレグラフに語っている。

DappRaderでは、ある時点でプロトコルで使用されているウォレットの数、アクティブなウォレット数というカテゴリーもある。調整済TVLはこれで終わりではなく、「コミュニティがセクターの状況をより完全に把握できるように、私たちは指標を拡大し続ける」と、アブコフ氏は述べている。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン