ビットコイン関連技術の開発に注力するブロックストリーム社の代表で「仮想通貨の父」の一人と目される暗号学者アダム・バック氏が8日、G20財務相・中央銀行総裁会議の関連セミナーに登壇し、仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーンと現在の金融インフラの違いについて説明した。

バック氏は、金融庁の遠藤俊英長官による冒頭の発言で始まったセッション「デジタル時代の未来」の2回目にオランダの中央銀行総裁クラス・ノット氏などと一緒に登場。現在の金融インフラに対するブロックチェーンの革新の大きなポイントは「安全なトークン化(Secure Tokenization)」だと解説した。

「(資産をトークンとして表現可能になることで)トークン側が自らセキュリティー面をコントロールできるようになることから、オープンなインターネットでも安全に使えることができる」

バック氏は、安全なトークン化によって仲介業者を信用する必要がなくなると指摘。例えば、現在我々は国際送金する時に仲介業者として銀行を使わなければならないず銀行の評判などを心配することになる。ただブロックチェーンは、こうした仲介業者を信用する必要がなくなる。

またバック氏は、安全なトークン化は規制機関にとっても有益なものになると解説した。

「個人や小規模な金融機関レベルで資産の取引記録やクリアランス、ユニット数が正しいと証明できるようになる。リアルタイムでシステムの健全性をチェックできる。一方、現在は監査機関に頼らなければならない。しかもほとんど全ての関係者が同じ会計基準を採用しているから、リスクがさらに高まる可能性がある」

デジタルガレージと円のステーブルコイン発行を計画

さらにバック氏はブロックストリーム社が日本の上場企業デジタルガレージとジョイントベンチャー「クリプトガレージ」を立ち上げ、日本の規制サンドボックス(少数の消費者を対象に期間限定でテストできる保護領域)を使って円に100%連動するステーブルコインの発行を計画していることに言及した

バック氏は、円やユーロ、ドルが「ブロックチェーンを使ったフォーマット」で発行されることの重要性を指摘。機関投資家などが多いOTCトレーダーに円と連動するステーブルコインとビットコインをスワップする方法を提供すること目指していると話した。

「買い手はハードウェアウォレットで仮想通貨フォーマットの日本円を持つ。これはオフラインでの管理あり、ネット上で起こるような攻撃にさらされなくて済む。(中略)第3者によるカストディ (資産管理)の必要はなくなる。このような信用最小化(Trust Minimization)が重要になる」

アダム・バックは、ビットコイン採掘に採用される「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、略称PoW)」という仕組みの原型をつくったことで有名な暗号学者だ。暗号技術を通して社会変革を促す「サイファーパンク運動」の一員を自称し、97年に発表した「ハッシュキャッシュ」論文がサトシ・ナカモトにも引用されていることから、ビットコインを含む「仮想通貨の父」の一人と目される。

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