岡山県西粟倉村が13日、地域づくりのために独自のトークンを発行して資金調達をするイニシャル・コイン・オファリング(ICO)の実施を決定したと発表した。地方自治体によるICOとしては日本初になる。現在、日本の規制環境では日本居住者向けにICOのトークンを直接的に販売することができないが、西粟倉村は将来的なICOの解禁に向けて金融庁などと連絡を取って準備を進めていく方針だ。スタートアップ企業だけではなく地方自治体もICOを使って資金調達をする時代が来るかもしれない。

 西粟倉村は、民間事業体で構成する一般社団法人西粟倉村トークンエコノミー協会を設立する準備を進めていて、同協会を通じて独自のトークン「Nishi Awakura Coin(NAC)」を発行する予定だ。投資家は、主要仮想通貨のイーサリアム(ETH)でNACを購入。西粟倉村側は調達したイーサリアムを現金と交換して事業開発などにあてる。一方NACを保有する投資家には投票権が付与され、西粟倉村で事業を立ち上げようとするベンチャーに投票することができる。投資家に地域づくりに対して長期的に興味を持ち続けるインセンティブが生まれるという訳だ。西粟倉村は、「ローカルベンチャーとNAC保有者による、挑戦と応援の仕組みを整備することで、仮想通貨が創る経済圏『トークンエコノミー』を循環させていく予定」としている。

 西粟倉村は、人口約1,500 人で村の面積の約95%を森林が占める自治体。周囲の自治体の大半が合併の道を選択する中、林業の六次産業化などを推進して、独自の地域活性化施策を積極的に取り組んできた。これまでICOといえば、銀行からの融資が受けづらいなどの制約があるスタートアップ企業が使う手法として有名だった。ビットポイントジャパンの小田玄紀代表取締役によると、IPOは資金調達完了までに2~3年以上かかるのに対し、ICOは3~6ヶ月ほどで済む。調達額については、クラウドファンディングが数百万~数千万円ほどなのに対し、ICOは数百億~数千億円の調達も可能という。

 ICOが可能にするのは、西粟倉村の将来への「先行投資」。これまで地方自治体が頼りにしてきた国からの地方交付税交付金や自治体の税収とは対照的な性質を持つ。従来の財源である税収は、国や地方の事業が成功した後で生まれるものだが、ICOは将来のビジョンに基づいて先に資金を集めるいわば「攻めの投資」だ。

 気になるICOの日程だが、西粟倉村の関係者は「未定」としている。現在、日本の規制の枠組みにおいては、日本居住者向けにICOのトークンを直接的に販売することはできない。関係者は、「実際にICOが解禁になる日はわからないが、金融庁やICOに関する自主規制ルールの策定を目指す日本仮想通貨交換業界と内々で連絡を取りながら準備を進めている」と話した。また事業内容などを記したホワイトペーパーも現在作成中だが、こちらも公表日は未定としている。