現代の驚異的なテクノロジーのほとんどは主流メディアに取り上げられている。しかし、人気のテレビ番組に登場して大きな影響力を及ぼすものは限られている。ビットコインや仮想通貨も例外ではなく、昨年のブレーク時には世界中の数百万人の心をとらえた。

 年末に向かってビットコインの価値が桁外れに高まったことが主な原因となり、あらゆる人々がビットコインについて耳にしたり、あるいは関わり方を積極的に探るようになった。主流メディアが大々的に取り上げ、人気のテレビ番組の脚本家もそれに遅れまいとした。その結果、米国で著名コメディアンのエレン・デジェネレスやジョン・オリバーがそれぞれの番組でビットコインを取り上げる事態となった。

 2人とも、ビットコインを揶揄するような姿勢を見せた。その話が本当かどうか慎重に見極める必要があるが、2人の有名人は番組を通じて数百万人の視聴者に伝えることができる。つまり、番組で表現されたことは大勢の人々に影響を与える可能性がある。

 ビットコインや仮想通貨はここ数年、人気テレビ番組でも取り上げられている。なかでも「Big Bang Theory」のビットコインに関する回は話題となった。それに続くかのように「Silicon Valley」のシーズン5ではこのトピックを集中的に取り上げている。

Silicon Valley:テック系スタートアップの番組

 ご存じない方のために言っておくと、「Silicon Valley」は、カリフォルニア州シリコンバレーを拠点とする5人のプログラマーの人生と、スタートアップ企業を中心に展開する。番組のファンでシーズン5をまだ見ていない方は、以下の内容がネタバレになるのでご注意!

 番組の主人公であるリチャード・ヘンドリックスは、データ圧縮プラットフォームである「パイドパイパー」というアプリを生みだす。番組では実際のITスタートアップのパロディとして、プロジェクトが成功したり失敗したりする様子が描かれる。昨年と今年にそれぞれ放送されたシーズン4と5では、番組の登場人物を通じて、分散型ブロックチェーンシステムや仮想通貨のコンセプトが少しずつ紹介されている。

 主人公のリチャードは、シーズン4で画期的なアイデアを思い付く。携帯電話のネットワークを使用した分散型ピア・ツー・ピア方式のインターネットで、最終的に「パイドパイパー」アプリの原型と結びつくものだ。

 このアイデアを基にパロディサイトまで立ち上げられているが、「Storj」や「Sia」といった実在のプロジェクトは、ブロックチェーン技術に裏付けされた分散型データストレージサービスの実世界での2つの実施例に過ぎない。シーズン5は、リチャードの新たな分散型インターネットの実際の開発を中心に描いている。シーズンの途中で投資家からの資金が尽きると、ソフトウェアエンジニアのギルフォイルがイニシャル・コイン・オファリング(ICO)による資金集めを提案する。

 ICOで集まった資金は数百万ドル規模とはいかなかったが、チームは開発を続けることができた。シリーズの最後には、実世界の仮想通貨にとって興味深い展開が待っている。

Silicon Valleyの51%攻撃

 新たに登場した「悪役」チームが常連キャラのローリーと組み、「パイドパイパー」システムに「51%攻撃」を仕掛けるのだ。要点を解説すると、もしマイナーのグループが仮想通貨のハッシュレートの51%を支配できれば、取引確認をコントロールすることができるようになる。取引を中止させたり、さらにはコインの無効化や二重支払いが可能となる。詳細については、コインテレグラフのプルーフ・オブ・ワーク・アルゴリズムの解説を参照してもらいたい。

 番組では、攻撃者がユーザーや開発者アプリを消去し、新たに生み出されたトークンをクラッシュさせることができることになっている。番組としてはよくできているが、ここは一歩引いて、実世界で起こりうることがリアルに反映されているのかどうか検討する必要がある。

 このような現象(51%攻撃)は、仮想通貨コミュニティにとって新しいものではなく、昨年ビットコインのスケール問題が盛り上がった際にも論点となった。現在もその重要性は変わっておらず、イーサリアム・ネットワークのアップグレード計画では、そのような攻撃が排除されることになっている。小規模な仮想通貨であるクリプトン(Krypton)やシフト(Shift)が、2016年にこの手の攻撃を受けたことはよく知られている。

 開発者でもあるコーネル大学のエミン・ガン・シアー教授は、攻撃の脅威が番組で少々大げさに取り上げられていると考えている

「51%以上のマイナーは強力な存在だが、システムの実際のルールを変えるような能力は有していないし、資金を奪うこともできない。既存のブロックチェーンを限定的に書き換えることは可能だが、まだ存在しない取引を導入することはできない。目標とする任意の取引を除外することはできるが、既存のルールのいかなる部分も変えることはもちろん不可能だ」

パイドパイパー・コインの実世界での発行

 シーズン5の終わり方について大きな反応はなかったが、アルファビットファンド(Alphabitfund)のアナリストであるブラッド・ミルズ氏は、「パイドパイパー」通貨の実際の開発への懸念を示したツイートへのリンクを共有している。ミルズ氏が指摘するように、このコインは番組を製作したHBOとは関係しておらず、エアドロップにより今月生み出された。

 ブラッド・ミルズ  @bradmillscan

 仮想通貨の最高のパロディだったパイドパイパー・コインが、HBOやSilicon Valleyとは関係なく、日和見主義者の安っぽい一攫千金スキームになってしまったのを報告しなければならないのは残念だし、ガッカリだ 😥 最初は楽しかったのに、単なる詐欺になってしまった。

 パイドパイパー・コインのこのような状況は、「Silicon Valley」から生まれた実際のトークンに興味を示す人が十分いることを示しており、番組の人気を示すバロメーターとなっている。今後数週間で、このエアドロップ通貨にさらなる注目が集まるのは間違いない。