10月19日の9時30分過ぎ、ビットコインの発行枚数が1800万BTCを超えた。発行上限の2100万BTCまで300万BTCとなった訳だが、実は発行上限を撤廃した方が良いのではないかという意見も出ている。

発行上限に近づくにつれて、ブロックを作るマイナーに対する報酬が減少する。発行上限に到達すると推定される2140年にはマイナーの収入は手数料のみになる。

現在、マイナーは1ブロックあたり12.5BTC報酬を受け取るほか、1ブロックに入っている2千数百件の取引から少しずつ集めた0.7~1.5BTC程度の手数料をもらっている。報酬の方が手数料より圧倒的に多い。

このため、発行上限に近づくにつれてビットコインのブロックチェーンネットワークから離脱するマイナーが増え、ネットワークのセキュリティが脅かされるのではないか懸念されている。

「問題と認識しつつも放置」

「ビットコインのコミュニティーで多くの信用ある開発者が発行上限を撤廃するように指摘している。」

上記のようにコインテレグラフ日本版に話したのは、中国の仮想通貨プラットフォーム「ナーヴォス(Nervos)」共同創業者のケヴィン・ワン氏だ。「ビットコインのコミュニティーでは「問題」と認識されているにも関わらず、解決策がないまま放置されている。なぜなら、喫緊の問題ではないからだ」とワン氏は述べた。「どうなるか、見ものだ」(ワン氏)。

もし発行上限を撤廃するとしたら、ビットコインはハードフォークしなければならないだろうとみるワン氏。しかし、「(発行上限は)ビットコインにとって最も重要な哲学的な基盤となっており、かなり難しいだろう」と予想。「不可能とは言わないが、人々を教育し、理解してもらうのに相当な努力が必要になるだろう」と話した。

発行上限があるからこそ、ビットコインはインフレから守られて、デジタル・ゴールドとしての機能を発揮すると考えられている。

また、『暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない』の著者として知られる慶大の坂井豊貴教授は、マイナーへの高額報酬がなくなることでマイナーは手数料について今まで以上に気にし始めると指摘。手数料を効率的に稼ぐために「どの記録をいくつブロックに詰めるか」という新たな変数が生まれると述べた。

坂井教授は、一般論として変数が増える複雑な制度ほど悪さはしやすくなるため、ブロック報酬を永遠に出続けるようにしてはどうかと提案している。

【関連記事:仮想通貨ビットコインの半減期がもたらす思わぬ問題とは?慶大・坂井教授が解説、解決策も提案

「ユーザーが同意しない」

一方、ビットコイン関連技術開発を手がけるブロックストリーム(Blockstream)社のCSO(最高戦略責任者)であるサムソン・モー氏は、ビットコインのユーザーが発行上限の撤廃を拒否するだろうとみている。

「例えば仮想通貨取引所がイエスと思ってもユーザーがノーということに良いことがあるのか?(中略)消費者がエコシステムの中で最も重要だ。それは、ビットコインのユーザーのことだ。将来、ビットコイン保有者が発行量を増やそうということなんて考えられないね。

2017年にハードフォークでブロックサイズを1メガバイトから2メガバイトに増やすことで争った「スケーリング戦争」でも、「最終的に物事を決めたのはユーザーだ」と指摘した。

発行上限の撤廃を決めれば、今保有しているビットコインの価値は、理論上、減少することになる。

また、モウ氏は、ビットコインはほぼ無限に細分化することができると指摘。より小さい単位に分けてライトニングネットワークで利用することも可能だとし、この点からも発行量を増やす理由はないと述べた。

現在のビットコインの最小の通貨単位は、ビットコイン創設者サトシ・ナカモトにちなんで「サトシ」と呼ばれている。1サトシは0.00000001 BTCだ。

「我々は、単位をどんどん小さくし続けることができる。(サトシだけでなく)サブ・サトシだ」(モウ氏)。