どうやって日々のモチベーションを維持するか? これは 「フィットネス」が発明されて以来、人類をずっと悩ましてきたテーマだ。
数え切れないほどの企業がこの問題を解決しようと挑戦してきた。実際、1兆ドル規模にまで成長した現代のフィットネス産業は、この問いに対する答えを中心に構築されていると言ってよい。人間は定期的に運動する必要があるが、即座の結果を求めるデジタル時代において、「すぐに結果が出ない」フィットネスは、ますますやっかいな問題となりつつある。
現代はテクノロジーとノウハウが発達し、自由な時間も十分にあるのだが、現代人の運動量は十分とはいえない。専門家の推定によると、推奨的な運動量を毎週行っているのは、成人の3人に1人にすぎない。
良心的なフィットネス企業の必要性はこれまでになく高まっており、Move-to-earn(動いて稼ぐ)のコンセプトは、私たちの運動量を増やす上で、最も有望なアイデアとなりつつある。
なぜ Move-to-earnがフィットネスに劇的な進化をもたらすのかを真に理解するには、いったん先史時代に戻って考察を始めるのが分かりやすいだろう。
Move-to-survive(動いて生きる)
紀元前1万年ごろの先史時代には、近代的なジムやトレーニングマシンは当然存在しなかった。にもかかわらず、当時の人類は今日の私たちよりも、はるかに鍛え上げられた肉体を持っていたことが分かっている。
その理由は、狩猟文明においては、生きるために運動しなければならなかったからだ。
当時、生きていくためには自然の中を駆け巡る能力、すなわち、登ったり、飛び跳ねたり、走ったりする能力が不可欠だった。
動物を狩るために体調に気を配り、木に登り、木の実を集めることで敏捷性を増し、生存に不可欠な隠れ家を建設し、道具をつくることでたくましい気力が養われた。
人類の祖先を研究している考古学者や人類学者たちは、原始人の日常生活には過酷な身体活動が深く刻み込まれていたことに同意している。当時の運動は、本能的かつ必要性の高いもので、日常生活の一部でもあった。
Move-to-fight(動いて戦う)
農業革命の夜明けは、一足飛びに新しい社会構造をもたらした。農業文明において、肉体労働は依然、生存活動の中心であったが、移動は限定的なものとなった。
走ったり、跳んだり、地面を這ったり、登ったりといった多様な動きが不要となった代わりに、動物の世話や種まき、雑用、作物の収穫などが新たに必要となった。
分業と食料の保存が可能になったことで、人類は多くの自由時間を手に入れた。半農半兵の社会にあっては、体系化された運動習慣こそなかったものの、村のメンバーがいつでも戦闘態勢に入れるよう、フィットネスの萌芽的なものが生まれていた可能性は高い。
Move-to-thrive(動いて栄える)
テクノロジーと農業の進歩が人類の生活の質を向上させるにつれて、人々はますます多くの自由時間を手にした。それと同時に、身体的な活動の機会が少なくなっていることに気付いた。健全な肉体はもはや生き残るために必要なものではなく、精神性の高さと市民の義務を果たしていることのシグナルとなりつつあった。人々はさらなる繁栄を求めて運動したのだった。
このことは、古代ギリシャを見ればよく分かる。古代ギリシャ人は、身体の健全さと精神の明晰さは表裏一体の関係にあると信じていた。
Mens sana in corpore sano
- 健全なる精神は健全なる身体に宿る
実際、トレーニング施設とコーチは、古代ギリシャ社会においてなくてはならないものだった。紀元前776年にまでさかのぼる古代オリンピックでは、競走、走り幅跳び、円盤投げ、戦車競走などが行われた。
Move-to-flex(動いて魅せる)
これこそが今日のフィットネスの原型である。現代のインスタグラム全盛時代において、フィットネスは 「ビジュアル」 と同義になってしまった。およそ実現不可能な理想的なルックスが追求される、偏狭な思想となってしまったのだ。
数千ドルのスピンマシンや、Equinoxジムの高額な会員権が見せびらかされ、フィットネスは美しく、引き締まった、筋肉質な人のシンボルとなってしまった。
フィットネスブランドは、一般人からかけ離れた超一流のモデルのみを起用し、浮世離れしたフィットネスを喧伝しはじめた。
それでは一般人が運動不足になるのも無理はない。多くの人にとって、 シックスパックを得ることは非現実的な目標であり、フィットネスは贅沢品として認識されることになった。
これはゆゆしき問題だ。マーケター達が何と言おうと、今日の 「フィットネス」 の美学に合致する世界人口は極めて少ない。フィットネスにおけるエリート主義は、運動をやめてしまう多くの脱落者を生むことを考慮していない。
本来、良いフィットネスとはそのような窮屈なものではない。ハーバード大学の研究によると、毎日20分程度の軽い運動(例えばウォーキング)をするだけで、心臓病のリスクを最大30%減らすことができる。これにさらに10分を加えれば、毎日30分歩くだけで心血管の健康の向上、筋力と持久力の向上、高血圧や高コレステロールのリスクの軽減、メンタルヘルスの増進など、大きなメリットが得られる。
運動で体を鍛えることは、シックスパックを手に入れるためのワークアウトや、修行僧のような厳しいダイエットと同じだと思っているほとんどの人は、そのことに気付いていない。現代のフィットネスに対する考え方は、「フィットネス強者」に都合のいいように捻じ曲げられて進化してしまった。 「フィットネス弱者」に負のフィードバックループを生み出し、人々の健康とフィットネスに悪影響を及ぼしている。
最新潮流:Move-to-earn(動いて稼ぐ)
現代のフィットネス産業が人々の運動量に良い影響を与えていないのは、厳然たる事実だ。新型のトレーニングマシンを開発したり、より豪華なジムを建設したりするのに、莫大な資金が注ぎ込まれているにもかかわらず、継続的にエクササイズを行っている人の数は驚くほど少ない。
だからこそ、 Move-to-earnは重要なのだ。この新世代のフィットネスは、運動にインセンティブを与え人々に報酬を支払うことで、世界中の人々に健康になるための明確なインセンティブを与えてくれる。
体重を減らしたり体質を改善するには、見返りが得られるまで少なくとも数週間、場合によっては数年がかかる。ところが、Move-to-earnはほとんどの人がその場で得られる見返りだ。
Move-to-earnとWeb3の素敵な出逢い
トレーニングに対して報酬を支払っている既存のWeb2スタートアップのほとんどは、あまり牽引力を得られていないようだ。なぜだろうか?
それは、Pay-to-workoutの経済エコシステムを維持するために必要な資本とネットワークを、自力で維持することが難しいからだ。つまり、多くのモデルは「後ろ向きのインセンティブ」を設定している。
HealthyWageを例にとろう。これは、減量の目標を達成したユーザーに報酬を支払うサービスだ。同サービスでは、ユーザーが目標を達成できなかったときにのみ、運営会社に収益がもたらされるように課金構造が設計されている。これではユーザーと運営会社の間に利益相反が生まれることは、誰の目にも明らかだ。
一方、ブロックチェーンは、Move-to-earnに新たな息吹を吹き込んだ。クリス・ディシオン(Chris Dixon)氏が説明するように、Web3ブートストラップネットワークにおいて、トークンインセンティブは前例のないスピードと量で需給を促進している。
運営会社は、ユーザーのフィットネス目標から収益するのではなく、毎回の取引からごく少額の手数料を徴収する。こうすれば、より多くの人々がより健康的な生活を送れるようにするための「前向きのインセンティブ」を与えることができる。さらに、ブロックチェーンによる課金構造は、ユーザーがプロジェクトに投資し、所有権を持つための仕組みづくりに用いられる。これにより、ユーザーは自分のフィットネスジャーニーへの投資を安心して強化することができる。
上記の最大の成功例がSTEPNである。STEPNは、屋外を移動したユーザーに報酬を与えるMove-to-earnアプリである。トークンを獲得するために、ユーザーはNFTマーケットプレイスでデジタルスニーカーを購入し、屋外を歩いたり、走ったり、ジョギングしたりする。
トークンを発行して以来、STEPNの人気は爆発的に高まった。時価総額は10億ドルを超え、わずか数週間でユーザー数は1000%以上増えた。デイリーアクティブユーザー数は数十万人を超え、同アプリはすでに、世界中の人々がより健康的な習慣や日々の運動習慣を手に入れるのに貢献している。
来るべき新世界
これはSTEPNにとっては、始まりに過ぎない。STEPNはすでに幾何級数的な成長を遂げたが、同サービスはさらに大きく成長する可能性を秘めている。デジタルスニーカーのレンタルプラットフォームがローンチされれば、Web2フィットネス市場に浸透し、この分野に革命を起こす準備が整う。フィットネス業界が現在想定している範囲を超えて、潜在的利用者にその魅力がリーチするだろう。
STEPNは、何百万人もの人々がより健康的な生活を送るため、誰にでも使いやすいアプリを提供することで、フィットネスという極めて人間的な営みにおける次なる進化の先駆けとなることをミッションとしている。