第1章:通貨そのものへの理解を深めよう〜そもそも通貨・貨幣とは何か?〜
前編:言葉の定義をはっきりさせよう〜通貨・貨幣・お金の意味〜
一年半ほど前の2016年3月、「ビットコイン、「貨幣」に認定 法規制案を閣議決定」」という記事が日経新聞(http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC04H01_U6A300C1MM0000/)を飾ったが、この「貨幣」という言葉、案外難しい言葉である。お金、通貨、貨幣、私たちはこれらの言葉を何気なく使っているが、その意味するところを正確に理解し使い分けている人がどれだけいるだろうか(少なくとも筆者にはできていなかった)。これらの言葉は、厳密に区別をするのが難しい、そして人によって使い方が異なっているため混乱を招きがちである。そこで、この記事ではまずこれらの似た言葉の定義をはっきりさせてみようと思う。
お金(または金(かね))
Wikipediaに広辞苑を出典とした簡単な定義が載っていたので参照しよう。
お金(おかね)金(かね)の基本的な意味としては、金属(金、銀、銅など)の総称や金属製品の総称である[1]が、貨幣としての黄金[1]も指すようになった。〜中略〜現代の日本では「お金」で次のようなものを指しうる。
通貨
貨幣
出典:1.^ a b c 広辞苑 第五版 p.538 かね【金】
どうやらお金とは「通貨」と「貨幣」のことのようである。では、通貨と貨幣とは何かについて見てみよう。
通貨
通貨とはその名の通り流通貨幣(流通している貨幣)のことである。念のため通貨の英語であるcurrencyの定義も見てみよう。(Googleで「currency definition」と検索)
Currency=a system of money in general use in a particular country. "the dollar was a strong currency"
「特定の国において、一般的に使用されるお金のしくみのこと」とのことである。やはり、通貨とは、流通している貨幣という理解でよさそうである。とはいえ、貨幣とは何か?という疑問が残る。貨幣についても見てみよう。
貨幣
貨幣について調べてみると、その意味するところや定義が、定義をしている人・団体・時代によって様々であることがわかる。そこでまずはいくつかの定義を紹介し、現代において最も当てはまると思われる定義について説明していこう。
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広辞苑
貨幣(かへい、英: money)とは、 商品交換の際の媒介物で、価値尺度、流通手段、価値貯蔵の3機能を持つもののこと -
経済学者による定義
経済学者による貨幣の定義は大きく以下の2つに分かれる。- 貨幣は、商品流通のためのたんなる潤滑油、商品交換のたんなる媒介物でしかなく、それ自体になんら価値はないとする学派(アダム・スミス、リカードら)
- 貨幣は、たしかに商品交換の媒介物であるが、同時に人々が求める財産(経済的価値のあるものの総称)でもあるとする学派(マルクスら)。貨幣が単なる媒介物であるとすると、経済恐慌の際に人々がお金を求めるさまを説明できないことから前者の定義を補足する形でマルクスは貨幣を定義付けた。
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日本銀行や造幣局の定義
日本銀行や造幣局の貨幣の定義は少し特殊で、貨幣とは、500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉。1円玉のことを指す。これは日本の通貨についての根拠法令である、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」の第2条第3項において、「通貨とは、〜中略〜日本銀行が発行する銀行券をいう。」と規定されていることによる。この規定により「貨幣」が一般的に使用される「硬貨」のことを指し、「日本銀行が発行する銀行券」が一般的に使用される「紙幣」の事を指している。
※参考
以上のように、貨幣については様々な定義であるが、その一般的に意味するところとしては、「商品交換の媒介物かつ人々が求める財産」とするマルクスらの定義があげられるであろう。この定義は、貨幣をモノの売買する際に使用することや、人々が貨幣を資産として蓄えているという現実にも即していることからも適当であると考えられる。そこで、この連載では貨幣の定義は「商品交換の媒介物かつ人々が求める財産」とする。
本記事のまとめ
それでは本記事のまとめに入る。
- お金にまつわる言葉はそれほど明確に区別されていないし、定義もまちまちである。
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本連載では、「お金とは「通貨と貨幣」のこと、通貨とは「流通している貨幣」、貨幣とは「商品交換の媒介物かつ人々が求める財産」」とする。
以上でお金・通貨・貨幣の定義の一応の整理は終了した。
次回の後編では、いよいよ、貨幣の機能、貨幣がなぜ価値を持つのかという貨幣の本質論とビットコインが貨幣として成立しうるのかについて言及しよう。