法人化していない自営業者は『個人事業主』という職業区分となる。
法人の場合、クレジットカードを法人名義で作成して使うことが一般的であるが、個人事業主は『個人』であり『事業者』であるという曖昧さから、つい個人で使用していたクレジットカードをそのまま利用しがちだ。
しかし、事業用として使用するクレジットカードは、別のものを用意しておくことが理想である。
この記事では、その理由と個人事業主におすすめのカードを紹介する。
個人として持つクレジットカードとは別の事業用カードを用意すべき
個人として使用しているクレジットカードと事業用に供するクレジットカードは別のものを用意することが望ましい。
理由は『経費処理の手間』にある。
個人事業をすでに営んでいる人であればピンと来るだろうが、ここでは「これから事業を開始することを検討している人」にも分かりやすく、少々かみ砕いて説明していく。
その支出は「経費」か「個人使用」か
法人であれば、会社内で業務用に供しているものはすべて「事業用」であり、経費として処理することが可能である。
例えば法人(つまり会社)で観葉植物を購入したとする。
これらは『備品費』『消耗品費』『雑費』などとして扱うことができる。
一方、個人事業主の場合はその線引きが難しい。
同じように『仕事の時にしか使わない部屋』に観葉植物を飾った場合はこれを『備品費』等で処理できるが、『自宅スペースとして使用している部屋』に同じものを飾った場合は費用計上できないとされている。
このように、法人であれば「どこにあるか」「何のためのものか」が一目瞭然であるが、個人事業者の場合、とくに自宅兼事務所として事業所を構えている個人事業主の場合は、どこからどこまでが費用として計上できるかが曖昧になりやすいのだ。
こうした問題もあって、個人使用の支出と業務使用の支出が混在していると、後々精算業務を行っている際に、どちらのつもりで購入したかわからない支出が発生してしまうことがある。
もちろんすべてをしっかり帳簿で残していれば混乱は避けられるが、起きる可能性のあるトラブルは事前に解決しておくことがスマートだと言える。
クレジットカードを分けることで支出の流れを管理し、混乱を防ぐことは、個人事業主には必須とも言えることである。
ビジネスカードとパーソナルカードの違いは
では、どのようなカードが個人事業主にはおすすめなのか。
結論から言うと、零細・副業レベルであれば、一般的なパーソナルカードでも特に問題ない。
本人名義であるパーソナルタイプのクレジットカードを複数枚持ち、うち1枚を業務用として利用すれば良いのである。
逆に、個人事業主でも仕入れ規模が大きい場合や、頻繁に出張旅行などがあるような場合では、法人が利用するようなビジネスカードを取得することが望ましい。
ビジネスカードはパーソナルカードに比べて、以下のような違いがある。
特に着目したい点は、ビジネスカードでは屋号名義のクレジットカードが作れる場合があるという点である。
屋号は、いわば自身のビジネスを行う際の看板であり、名前にこだわりを持っている事業者もいるだろう。
そうしたときに、個人名だけでなく屋号を選べる、というのは嬉しいポイントだ。
一方で、ビジネスカードには有償のものが多い。
その分、保障内容が手厚かったり、利用限度額が高く設定できたりといったメリットもある。
ビジネスカードを選ぶ際にはさまざまな観点があるだろうが、個人事業主にとっては「屋号名義にもできるゴールドクラス以上のカード」というような認識をしておけば、ひとまず問題ないだろう。
近々に法人成り(事業の法人化)をするなら法人化後でもいい
多くの個人事業者にはクレジットカードを別で持つことをおすすめするが、1~2か月程度以内に法人化することを決めている個人事業主は、その限りではない。
個人事業主のビジネスカード保有は、あくまでも『個人事業主』としての契約だ。
法人化したあとは、個人事業主として作成したカードや口座は1度廃して、法人名義カード・口座を作る必要があるケースが大半だろう。
おそらくはすべての銀行、カード会社でそのように要請されるはずである。
一方、ビジネスカードの作成には、通常のクレジットカード審査よりも長い時間が必要になる。
そのため、直近で法人成りする個人事業主の場合、カードが届いたあと使うこともなく法人移行手続きが始まってしまう可能性があるのだ。
上でも書いた通り、ビジネスカードは年会費や入会金が必要になるものが多い。
有償カードを発行して年会費を収めたのち、使わずにすぐ廃止するのは経費の無駄でしかない。
こうした場合は、一時的に事業者個人として支払いを立て替えて法人移行し、法人成立後にあらためて法人としてクレジットカードを作るのがいいだろう。
その間の経費処理は煩雑になるが、余計な費用がかかることは避けられる。
どの程度のレベルのカードを事業用に用意すべきか
では、実際に個人事業主向けのビジネスカードを導入するとして、どの程度のレベルのカードが望ましいといえるのか。
いくつかのポイントに絞って解説する。
現在の事業規模・クレジットカードの使用頻度による
まず、「本当にビジネスカードが必要か」という点から考えていこう。
ビジネスカードの作成には、基本的に「事業を営んでいる」という事実が必要になることが多い。
これを証明するためには、確定申告書や開業届の控えが用いられる。
副業として税務署に届け出を行っていない場合や、控えを紛失してしまった場合には、そもそもビジネスカードが作れない可能性もある。
支出がほとんどないケース、事業規模が小さいケースでは、わざわざビジネスカードを作る必要まではない可能性もある。
ビジネスカードは有償であることが多い。
事業体として支出が少ない場合には、有償のクレジットカードを持つだけのメリットが得られないこともある。
これらのケースでは、ビジネスカードではなく、事業体用のパーソナルカードを作るのがベターだろう。
本記事では、個人事業主向けのビジネスカードについて中心に触れていくので、パーソナルカードについては別の記事を参考に検討してみてほしい。
ビジネスカードをおすすめしたいのは、
・月間の仕入額等がある程度大きい事業者
・出張などで交通旅費が多くかかる事業者
・事業体の中に、家族関係になく、かつクレジット決済を行いたい従業員が複数いる場合
など。 仕入額が大きい場合は、購入時の物品保障などが手厚くなりやすいため、ビジネスカードを持つ意義が高まる。
交通旅費も同じく、旅行保険や遅延補償、コンシェルジュサービスなどが受けられるものが多いためおすすめだ。
また、1枚のクレジットカードに対して追加カード(パーソナルカードでいうところの家族会員カード)を持たせるためには、追加カードが認められているビジネスカードを選ぶほかない。
ビジネスカードをゴールドにする必要はあるか考えるべき
ビジネスカードにも、「ゴールド」や「プラチナ」といったハイレベルのものが存在している。
確かにビジネスカードで「ゴールド」「プラチナ」を持っていると、「できる経営者」といった風格を感じる。
だが、もし見栄や勢いだけでゴールドカードにしようとしているのであれば、少し立ち止まって考えてほしい。
一般的なレベルのビジネスカードでも、パーソナル向けのゴールドカードに近い保証が受けられるものが多い。
もちろんビジネスのゴールドカードはさらに上を行くサービスが受けられるが、その分年会費も高くなっていく。
事業体の収支状態をチェックし、どの程度の年会費が適切か見極めたうえで、望ましい1枚を選ぶようにすべきだろう。
追加発行が可能かはチェックしておく
法人カードは、パーソナルカードにおける家族カードのようなものを複数枚発行できる場合がある。
例えば「出張が多く経費精算が多い役職者には会社名義のクレジットカードを渡しておく」というような使い方ができる。
個人事業主の場合も、人を雇って事業を拡大することがあるだろう。
このときに、複数枚クレジットカードを作成できると便利、ということもある。
そのため、事業拡大の可能性を考えて、あらかじめ追加のカード発行が可能かはチェックしておいたほうが良い。
個人事業であれば、やたらとクレジットカードの枚数が必要になることもないだろうが、最低でも追加で1~2枚程度は発行できるというオプションがあると安心できる。
ブランド選びは慎重に
ビジネスカードは、何種類も作るような性質のものではない。
だからこそ、1枚を慎重に選んで決めることが大切だ。特にブランドについては、しっかりと検討しておくべきだろう。
AMEXやDinersのブランド力は高いが、たまに国内では使えないことも
国際的な信用力が高いアメリカン・エキスプレス(AMEX)やダイナースクラブ(Diners)は、持っているだけで高いステータス性のあるカードだといえるだろう。
かつては国内で使えないことも少なくなかったAMEXとDinersであるが、現在はJCBとの協力関係を築き、多くのJCB利用可能店舗で決済できるようになっている。
しかし、まだ一部のオンラインショップなどでは対応していないこともあり、利便性はJCB、VISA、Mastercardに比べるとやや劣ると言える。
JCBは海外に弱い
国内では「JCBで決済できないクレジット決済対応店はない」と言えるほどの普及率を誇るJCBだが、海外展開自体はそこまで進んでいない。
日本人観光客の多い一部地域を除いては使えないことも珍しくないため、海外出張や海外からの輸入などを伴う事業を営んでいる場合は、JCB以外のブランドを選択したほうが無難だと言える。
中国からの仕入れがメインなら銀聯もアリだが…
中国からの仕入れが事業の核ならば、銀聯という選択肢もある。
中国国内でのクレジットカード決済は大半が銀聯であり、他社クレジットカードは使えない場合が多い。
ほかの決済手段は直接的に銀行決済を行うか、支付宝(アリペイ)か、PayPalか、といった程度である。
ただ、国内では銀聯カードを発行すること自体が難しく、付帯サービスなども複数のカードから希望のものを選ぶようなことはできない。
日本国内では、主に観光地やコンビニ、喫茶店などを中心に利用可能にはなっているが、国内利用のことを考えると、わざわざ選ぶ必要があるとは言い難い。
中国との資本のやり取りが多いのであれば、手数料分だけ仕入値は上がってしまうがPayPalを活用することをおすすめしたい。
クレジットカードは、五大ブランドから選ぶのが理想だ。
基本的に五大ブランドから選ぶのが無難
AMEX、Diners、JCB、VISA、Masterの五大ブランドと銀聯以外は、国内で普及が進んでいない。
それ以外のブランドは、そもそも選択肢から除外して良いだろう。
また、銀聯はコンビニなどでは使えることも多いが、国内ECサイトでは対応していないことも多いので、おすすめはできない。
国内・国外両面での使い勝手を考えると、VISAかMasterを選んでおくのが無難といえるだろう国内のみで使うことが多いのであれば、JCBが最も有用だ。
AMEXやDinersは、国内の使い勝手ではJCBに劣るものの、国外で困ることはあまり考えられない。
また、ブランドそのものが持つステータスも高い。
事業の方向性や使い方によって異なるため、それぞれの事業者が希望のものを選ぶのが1番だろう。
個人事業主におすすめのクレジットカード10選
ステータス性の高いカードを4種、入会金・年会費を抑えたカードを6種、それぞれ紹介する。ぜひ、事業用カードの参考にしてみてほしい。
高いステータスのあるカード4選
まずは、国際的に高いステータス性のあるカードを紹介する。
最も一般的な、AMEXのビジネスカードである。
年会費は13,200円(税込)、追加カード1枚につき追加6,600円(税込)が発生する。
オンラインで利用状況を確認できるサービスなど、パーソナル向けとしても嬉しい機能のほか、クラウド会計ソフト「freee」へ自動で費用連携ができるため、経費上の面倒を軽減できるなどビジネスに特化したメリットもある。
福利厚生プログラム「クラブオフ」では、国内外20万ケ所以上の施設を特別優待料金で利用可能である。
また、国内・海外旅行傷害保険や、JALの国内線利用が安くなる「eビジネス6」の利用も可能になる。
アメリカン・エキスプレス・ビジネス・ゴールド・カード
年会費34,100円(税込)、追加カード1枚あたり13,200円(税込)のビジネス用カード。
AMEXビジネスカードの上位になる1枚で、シェアオフィスやコワーキングスペースなどが割引価格で利用可能になる。
また、ゴルフ関連サービスや、京都のラウンジ利用サービス、ワインに関する特別な相談ができるなど、リッチな事業主の交際関係を支えてくれるクレジットカードだ。
また、事前連絡を入れることで利用上限を一時的に外すこともできる。
もちろん個人事業主が持つなら、十分すぎるステータスになるだろう。
アメリカン・エキスプレス・ビジネス・プラチナ・カード
年会費143,000円(税込)、追加カードは4枚まで無料で作れる、AMEXの発行しているトップクラスのビジネス用カード。
紛失時の補償やハイレベルなコンシェルジュサービスなどが手に入る。
個人事業主で持っていれば、間違いなく最高レベルのステータスを発揮してくれる。
ダイナーズクラブ ビジネスカード
年会費は29,700円(税込)、追加カードは無料で作ることができる。
Dinersには経営者向けカードが『ビジネス』『コーポレート』『大手企業向けコーポレート』の3種類あるが、ほとんどの個人事業主は最も下のランクである『ビジネス』の申請しか通らないので注意が必要である。
とは言え、付帯保険、空港ラウンジサービス、グルメ優待などのほか、利用可能枠の制限解除など、充実した内容のビジネスカードだ。
入会金・年会費を抑えたビジネスカード6選
次に、会費を安く抑え、かつビジネスカードとして有用なものを6つ紹介する。
ライフカードビジネスライト(ゴールド)
カード1枚あたり年会費が2,200円(税込)かかるが、初年度は年会費無料となっている。
従業員カードは3枚まで作成可能だ。
ライフカードビジネスライトにはスタンダードと呼ばれる年会費が無料のカードもあるが、付帯サービスがほとんど付かないため、ビジネスカードとしてはおすすめできない。
NTTファイナンスBizカード for owners(レギュラー)
代表者カードと使用者カードのどちらも、年会費無料で利用が可能だ。
1%の高ポイント還元率と、充実した海外・国内旅行の傷害保険が魅力である。
上位のゴールドカードは代表者カードの年会費が11,000円(税込)かかるが、ラウンジサービスが使えるようになり、保険の補償額も大幅にアップする。
飛行機旅行の多い事業者は、ゴールドカードへのクラスチェンジを行うのも良いだろう。
P-one Business Mastercard
初年度無料、2年目以降も前年度利用実績がある場合は無料で使用可能なビジネスカード。
従業員用カードは最大5枚まで追加が可能である。
紛失、盗難補償なども付いた充実の内容で、これだけの追加カードが無料で使えるビジネスカードはそうないだろう。
ラウンジサービス等はないが、特段出張などがない事業者であれば、十分満足のいく内容である。
セゾンコバルト・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード
AMEXがクレディセゾンと提携して発行しているクレジットカード。
AMEXブランドでありながら年会費1,100円(税込)、追加カードも4枚まで永年無料と、非常に安価に持つことができる。
セゾンの永久不滅ポイントも手に入るため、ステータスと利益の両方が手に入れられる。
三井住友ビジネスカード for Owners(クラシック)
三井住友ビジネスカードには、個人事業主向けのfor ownersが存在する。
個人事業主向けカードにも3種類あるが、安価に持つならおすすめはクラシックカードである。
本会員の年会費は1,375円(税込)、パートナー会員(追加カード)は1枚につき440円(税込)が必要となる。
旅行傷害保険は海外旅行のみの付帯となっている。
特筆すべきは、福利厚生代行サービスの利用が可能になるという点だ。
国内外数千ケ所の契約宿泊施設やスポーツクラブなどを割引料金で利用することができるようになる。
JCB法人カード(一般)
年会費は初年度年会費無料、2年目以降は1,375円(税込)となる。
追加カードも年1,375円で持つことができる。
国内外の旅行傷害保険が付帯しており、最高3,000万円までの補償が受けられる。
カードの上限枠が100万円までなので、増枠したい場合はゴールドカードを選ぶのも良いだろう。
事業実績に適合したカードを持つことが最善
個人事業主向けのクレジットカードは、個人使用のものと区分けしておくことが理想である。
また契約すべきカードは、使用上限額と受けられるサービスの内容を見て決めるのがいいだろう。
一方で、クレジットカードのステータスが高いこと自体が事業のモチベーションに繋がるシーンもあるに違いない。
どこに重点を置いて考えるかはそれぞれの自由だが、いずれにせよ、しっかりと比較して、後悔のない選択をすることが必要である。